2023.05.23 東京海上日動 自治体の鳥獣被害対策を支援、捕獲事業リスクを包括的に補償 大日本猟友会と共同で開発
東京海上日動は、近年農業に深刻な影響を与えている野生鳥獣による農作物の食い荒らしなどの被害に対する自治体の防止対策や捕獲の取り組みを保険で支援する。同事業に伴って発生する不慮の事故などを包括的にカバーする商品を2月に発売しており、6月から補償を開始する。これまで保険では十分に対応できなかった事故に新たな補償を提供することで社会課題の解決を後押していく考えだ。
東京海上日動が提供するのは、一般社団法人大日本猟友会と共同で開発した「鳥獣被害対策総合補償制度」で、自治体が主体となる被害防止対策や捕獲事業の遂行に起因して生じた対人・対物賠償に対する補償(限度額は対人・対物共通で1億円)に加え、急激かつ偶然な外来の事故により死亡やけがを負った場合の補償(死亡保険金は300万円、入院・通院保険金は日額3000円)をカバーする。
大日本猟友会を契約者、全国の各自治体による捕獲事業の大半を請け負う同会の構成団体や自治体、個人を被保険者とする団体契約で、数万円~数十万円ほどの保険料は各自治体などが負担する。自治体による捕獲事業のリスクを包括的にカバーする商品を関連団体と協力して全国規模で提供するのは業界初だという。
野生鳥獣による農作物の被害は2021年度で155億円に上っており(農林水産省「全国の野生鳥獣による農作物被害状況について〈令和3年度〉」)、日本の農林水産業に深刻な影響を及ぼしている。07年に鳥獣被害防止特措法が全会一致で成立してから、鳥獣の捕獲の一層の推進が図られており、各市町村は猟友会所属団体への依頼を含め鳥獣被害対策実施隊を組織するなど被害対策の担い手の確保を進めてきた。
だが、被害防止対策や捕獲事業において猟銃の誤射や罠の使用に起因する事故等が増加しており、19年には自損事故349件(うち死亡事故6件)、他損傷害事故7件、20年は自損事故301件(うち死亡事故10件)、他損傷害事故19件、他損死亡事故1件が発生した。
被害防止対策や捕獲事業中の事故については、従来、損保各社が販売する一般的なハンター保険を利用するケースが多かったが、けがによる手術保険金や罠の使用に起因する賠償責任の補償、自動車搭乗中や自動車との衝突・接触による事故による補償が対象外となっていた。
各自治体や猟友会組織は捕獲活動時の安全対策に取り組んでおり、また大日本猟友会も独自の狩猟事故共済保険(対人賠償支払限度額4000万円)を提供している。しかし、誤射等により死亡事故が発生した場合に損害賠償金が1億円を超えるケースも想定されることを考えると、自治体・狩猟者は保険会社の商品も併せて活用することで、より安心して捕獲事業に取り組むことができる。
こうした状況を踏まえ、東京海上日動は鳥獣被害という社会課題への対策を支援する目的で、被害防止対策中のリスクを包括的にカバーする新たな商品を販売した。鳥獣被害防止特措法に基づき、現在、全国に1700ほどある自治体のうち約1500の自治体が被害防止計画を策定しており、国から鳥獣被害防止総合対策交付金の交付を受けている。一般的なハンター保険は自治体による捕獲事業以外の場合でも補償対象になることから交付金の対象外だが、今回の新商品は自治体の捕獲事業に特化した補償内容で設計されていることにより、自治体は保険料の一部を交付金で充当することができる。
商品開発に携わった同社公務第一部では、2月の商品発売に合わせて全国の自治体向けに説明会を実施したところ、約300自治体が参加するなど反響が大きく、好評を得ているという。同部公務第二課の酒井雄太課長代理は、「この保険は社会課題そのものだと思っており、発売して終わりというものではなく、捕獲事業の現場でどう活用され、お役に立っているかを日々アップデートしながら今後も商品の改善に努めていきたい」としている。