2020.03.11 ■防災教育が不可欠 損保協会は年齢に応じた段階的な防災教育推進[2020年]

 未曾有の被害をもたらした東日本大震災から9年。地震大国と言われる日本ではこの間も熊本地震や大阪府北部地震、北海道胆振東部地震など、全国各地で大規模な地震が発生した。また、昨年は一昨年に続き、「令和元年房総半島台風(台風15号)」や「令和元年東日本台風(台風19号)」など、立て続けに全国各地で広域な風水害も発生した。今後、首都直下地震や南海トラフ巨大地震などの大規模な自然災害が想定される中、こうした災害に備えるためにはより一層の防災対策、防災教育が不可欠だ。こうした中で損保協会は、損保事業を通じて蓄積してきたノウハウを生かして、年齢に応じた段階的な防災教育を推進している。 小学生向け実践的安全教育プログラム「ぼうさい探検隊」  損保協会では、2004年から小学生向け実践的安全教育プログラムとして「ぼうさい探検隊」を実施している。ぼうさい探検隊は、小学校の授業などで、子どもたちが楽しみながら町にある防災・防犯・交通安全に関する施設や設備などを見て回り、マップにまとめて発表する実践的なプログラムだ。探検中に地域の人にインタビューしたり、子どもたちが自宅に帰って家族にぼうさい探検隊で学んだことを話したりすることで、地域や家族の防災力を高めるきっかけになる。  ぼうさい探検隊と併せて実施している「小学生のぼうさい探検隊マップコンクール」は今年度で16回目を迎え、これまでの参加児童数は累計で20万人、マップ数は3万マップを超え、取り組みは全国に広がっている。子どもたちが作成したマップを活用して自治体などへ提言し、実際に危険箇所が改善された事例も数多く出ている。例えば、福島県相馬市では、子どもたちの提言により、小学校の老朽化して倒壊の恐れがある危険なブロック塀が安全性の高いフェンスに改修された。  宇田川智弘理事業務企画部長は、「今後、こうした改善事例をさらに広げて、一昨年の大阪府北部地震でブロック塀の下敷きになった小学生の事故のような悲劇をハード面からも防止していきたい」と話す。  ぼうさい探検隊は社会からの評価も高く、防災教育の充実と地域防災力の向上への貢献という観点から、16年に一般社団法人レジリエンスジャパン推進協議会の「最優秀レジリエンス賞(教育・人づくり)」、18年に日本災害情報学会の「廣井賞(社会的功績分野)」を受賞している。  ぼうさい探検隊は、国内で最大規模の防災教育プログラムの一つになったが、損保協会ではさらなる参加児童や学校・団体数の拡大に向けて、新たな取り組みを進めている。  具体的には、20年度からの小学校でのICT教育の本格実施を受けて、タブレットを活用したデジタルマップの作成を可能にする専用アプリケーションの開発に取り組んでいる。実現すればICT教育が進む学校での取り組み拡大が期待できるとともに、事前学習からマップ発表までの一連の流れを従来よりも短時間で進めることができる。  宇田川理事は「阪神・淡路大震災をきっかけに取り組みを開始した当初は、世間では防災教育の重要性があまり認知されていなかったため、苦労も多かったが、学校・団体や教員への地道な働き掛けにより、全国に取り組みを拡大してきた。今後も学校教育現場のICT活用の進展と合わせて取り組みを進化させ、子どもたちの防災意識と地域防災力の一層の向上に努めたい」と話す。 幼児から社会人まで、年齢層別の防災教育プログラムや教材を提供  損保協会では、ぼうさい探検隊の取り組みの他にも、幼児段階から年齢層別に自然災害リスクや防災について学習できるプログラムや教材を提供している。  幼児向けには、安心・安全の最初の第一歩(ファースト・ムーヴ)を学ぶことを目的として、「ぼうさいダック~幼児向けカードゲーム~」を提供している。ぼうさいダックは、カード表面に描かれた地震や津波などのイラストに合わせて、裏面の災害などから身を守るためのポーズ(動物のイラスト)を子どもたちが真似することで、実際に身体を動かし声を出して遊びながら学べるカードゲームだ。子どもたちからの人気も高く、幼稚園・保育園の安全教育や小学校低学年の授業、地域での各種防災イベント、海外向け研修などで活用されている。  中学生・高校生向けには、「自然災害のリスクに対する気づき」や「適切な対策・備え」を学ぶことを目的として、防災教育副教材(中学・高校別に作成)を提供している。自然災害のリスクやハザードマップの活用、経済的な備えなど自助・共助といった防災の基本的な知識について理解を深めるための生徒用ワークシートを用意している。  また、指導者の防災知識や教え方に違いがあることから、参考資料や指導上の留意点、授業展開例などを記載した教師用手引きも用意している。防災教育副教材は、中学、高校累計で約800校(18年度)で活用されている。  大学生向けには、ぼうさい探検隊の実施をサポートすることを目的として、防災に関心のある学生を対象に「ぼうさい探検隊リーダー養成講座」を実施している。受講した学生はぼうさい探検隊に取り組む子どもたちのお兄さん・お姉さんとして、活動する際のヒントを伝えたり、アドバイスを行ったりするなど、スタッフとして活躍している。  その他、中学生から社会人向けには、ハザードマップの活用方法を学べるe―ラーニング教材「動画で学ぼう!ハザードマップ」や副読書「ハザードマップと一緒に読む本」を作成しており、地域の防災イベントや講演会などで活用している。  日本は地震、台風などの発生頻度が多く、被害規模も年々大きくなりつつある。損保協会では、今後も防災・防犯・交通安全対策に関する幅広い活動を展開し、安心・安全な町づくりに貢献していく方針だ。  宇田川理事は「防災教育を受けた子どもや若者が担い手となって、継続的に防災の取り組みを推進することができるため、地域の防災力向上における子どもや若者の力は非常に大きい。実際にぼうさい探検隊をきっかけに、大人になって防災の分野に進んでいる人もいる。当協会では引き続き防災教育を推進し、社会の安心・安全に貢献していきたい」と強調する。