2020.07.09 ■金融庁 有識者会議の報告書を公表、“新ソルベンシー規制”早期移行を提言[2020年6月26日]
金融庁は6月26日、昨年6月から計10回実施した「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する有識者会議」(座長:米山高生東京経済大学経営学部教授)の検討を踏まえて取りまとめられた報告書を公表した。保険会社の中長期的な健全性の確保を通じて契約者保護を図り、保険会社が持続可能な形で各種保険ニーズに応えていくための規制・競争環境を整えるには、経済価値ベースのソルベンシー比率(ESR)に基づく新たなソルベンシー規制にできるだけ早く移行する必要があると提言した。今後の制度設計については、2025年4月の施行を念頭に置いたタイムラインが示された。
同会議は、経済価値ベースのソルベンシー規制の導入やそれに基づく新たな監督の枠組みの構築に向けた具体的な方向性について国際的な議論も踏まえて検討するため、外部有識者を招いて昨年5月に設置。1~2カ月に1回の割合で計10回行われた。新型コロナウイルス感染拡大の影響により、非対面の電話会議となった5月20日の第10回では、前回までの議論を踏まえて事務局が作成した報告書案について各メンバーで話し合われた。最後に、座長である米山氏が同日の議論を踏まえた修正を確認した上で、報告書としての公表が了承された。
全41ページにまとめられた報告書の前半では、主に国内における経済価値ベース規制の基本的な考え方について説明。現行のソルベンシーマージン比率では保険会社の持つ中長期的なリスク構造を十分に反映できず、保険会社によるリスク管理の高度化にもつながらない可能性があるなどの限界がある一方、保険会社の事業構造の特徴を踏まえ、将来のリスクも十分に踏まえた経営管理を行っていく上で経済価値ベースのソルベンシー評価が有効であると指摘した上で、「我が国において、中長期的な健全性の確保を通じて契約者保護を図りつつ、保険会社が持続可能な形で各種の保険ニーズに応えていくための規制・競争環境を整えるためには、ESRに基づくソルベンシー規制に出来る限り早期に移行することが必要である」とし、その主な意義として①契約者保護②保険会社のリスク管理(ERM)の高度化③消費者・市場関係者への情報提供―の三つの観点を示した。
他方で、ESRを規制として導入することで、保険会社の経営行動、消費者ニーズに沿った商品提供、保険会社の主体的なリスク管理の高度化などについて副作用が生じ得ることから、今後の制度設計の検討では、「保険会社の内部管理のあり方を踏まえた多面的な健全性政策」を目指すことを推奨。同政策の具体的内容として、①第1の柱(ソルベンシー規制):ソルベンシー比率に関する一定の共通基準を設け、契約者保護のためのバックストップとして監督介入の枠組みを定める②第2の柱(内部管理と監督上の検証):第1の柱で捉えきれないリスクを補足し、保険会社の内部管理を検証しその高度化を促進する③第3の柱(情報開示):保険会社と外部のステークホルダーとの間の適切な会話を促し、保険会社に対する適切な規律を働かせる―を全体像とする「3つの柱」を提示し、それぞれの柱に関する基本的な方向性を説明した。
今後の制度設計については、金融庁、保険会社および外部ステークホルダーとの間の対話を基にした検討や、保険会社の準備・態勢整備などで一定の時間が必要となる他、国際的な規制動向などを踏まえ、22年を一つのマイルストーンに設定して制度の基本的内容を暫定的に決定することを目指し、24年春ごろに基準の最終化、25年4月からの施行(26年3月期から新規制下での計算開始)、といったタイムラインを念頭に置き、「関係者が一丸となって新たな制度への円滑な移行に向けた準備を着実に進めていく必要がある」との考えを示した。
経済価値ベースのソルベンシー規制に詳しい福岡大学商学部の植村信保教授は「報告書では25年の規制導入を前提に、具体的なタイムラインが示されたが、22年ごろに制度の基本的な内容を暫定的に決定するとのことで、あまり時間はない。内部管理において経済価値ベースの枠組みが定着している保険会社であれば、対応にそれほど苦慮することはないはずだが、もしそうでなければ、リスクテイクのあり方など、経営方針を大きく見直す必要があるだろう」としている。