2020.07.06 ■損保協会 広瀬協会長が就任記者会見、自然災害の対応力強化へ[2020年6月30日]

 6月30日に損保協会長に就任した広瀬伸一協会長は7月1日の就任記者会見で所信表明を行い、第8次中期基本計画の最終年度となる本年度は、「自然災害への対応力強化」「金融・損害保険リテラシーの向上」「業務の共通化・標準化の推進」に重点を置き、新型コロナウイルス感染症が社会全体に与える影響を踏まえながら、諸課題の解決に努めていくと強調した。また、次期中期基本計画(2021~23年度)の策定も進める方針を示した。
 記者会見で広瀬協会長はまず、新型コロナウイルス感染症で亡くなった人へ哀悼の意を表するとともに、医療従事者やさまざまな分野で社会インフラを支えている人に感謝と敬意を表し、「新型コロナウイルスは今なお世界中で猛威を振るい続けており、わが国も予断を許さない状況だ。損保業界は感染症の影響が残る環境下においても、国民がより安心・安全で健康な生活を送ることができるよう、しっかりと使命を果たしていく所存だ」と語った。
 また、会員会社は同協会が作成した「新型コロナウイルス感染症対策に関する基本方針」に基づき、顧客、代理店、従業員などの感染拡大防止に努めている他、新型コロナウイルス感染症による損害を補償するための商品の見直しなどを行っているとし、「当協会は今回の対応で得られたさまざまな気付きを生かし、新しい生活様式への対応という観点も踏まえ、社会インフラとしての機能・役割を発揮するべく変革に努めたい」との考えを示した。
 近年の環境認識については、地震や台風といった大規模自然災害が連続して発生しており、損保業界では昨年、一昨年と2年続けて1兆円を超える保険金を支払っていることから、国民が激甚化する自然災害に備えるに当たり、損保業界が果たす役割は極めて重要だとし、「新型コロナウイルス禍における大規模自然災害時の保険金支払いという新たな課題が発生している。加えて、サイバーリスクなど新たなリスクへの備えもこれまで以上に重要になる。これらの課題を一つずつ着実に解決しつつ、万一の際に顧客をしっかりお守りする保険商品・サービスの提供を通じ、安心・安全な社会の形成に向けて尽力したい」と述べた。  本年度の重点取り組みである「自然災害への対応力強化」に向けては、昨年12月に「自然災害対応検討プロジェクトチーム」を立ち上げており、本年度はさらに課題を具体化し、その解決に向けて取り組みを前進させていくと説明。大規模自然災害の発生時に、スマートフォンのアプリを通じてより効果的に顧客に保険金請求を案内する仕組みや、損害額を早期に算出する手法などを検討していくとした。
 また、来年3月11日は東日本大震災から10年を迎えることから、震災から10年間の業界の取り組みを振り返り、命と財産を守るための事前の備えの重要性について発信するセミナーを開催する考えを示した。
 「金融・損害保険リテラシーの向上」に関しては、リスクを正しく認識し、保険商品を適切に選択・利用する知識を身に付け、リスクに適切に対処できる力を養うことが重要だとして、これまでのツール提供に加え、ポータルサイトの整備・改修を行い、オンラインで利用可能な学習教材・啓発ツールを積極的に案内していくとした。
 「業務の共通化・標準化の推進」では、年末調整や確定申告に使用する保険料控除証明書の発行機能の共同化や、書面・押印・対面手続きの見直しなど、今後求められる新しい生活様式に対応した各種業務プロセスの見直しを検討していくとし、「今日的な視点であらためて広く項目を洗い出し中長期的な課題も視野に入れ、継続的に取り組んでいく」と述べた。
 広瀬協会長は、「損保業界は100年を超える長い歴史の中で、度重なる大規模自然災害やさまざまな社会の環境変化に対応してきた。新型コロナウイルス感染症の影響で先行きの見通せない状況は続いているが、一方で働き方の変革やデジタル化の流れを加速させる側面もある。こうした課題や環境変化に着実に対応していくことで、引き続き国民の安心・安全を支え続ける社会インフラとしての役割を果たし、期待に応えられるよう力を尽くしていく」と抱負を語った。
 その後の記者団とのやりとりでは、大規模自然災害対応における共同調査について、「対応力を高めるため、プロジェクトチームを立ち上げて課題の洗い出しなどを行っている。具体的な方法はまだ決まっていないが、大規模な水害が発生した際にドローンや人工衛星など何らかの方法で災害地域を確認し、そのデータや情報を共同で運用できないかなどを検討している」と回答した。
 業務の共通化・標準化については、業務効率化や顧客の利便性向上を考えながら、できることを進めていくとした一方、会員各社それぞれシステムが異なっており、これまで積み上げてきた業務プロセスもあるため、一朝一夕に対応できるものではないとの認識を示した。その上で、保険料控除証明書発行機能の共同化の他、自賠責保険の異動・解約手続きなどの業務プロセスについても、見直しを進めていくべき課題と捉え、改善に向けて検討すると述べた。
 6月に成立した金融サービス仲介法制により、新たに創設される金融サービス仲介業は、一つの登録で銀行・証券・保険全ての分野のサービスが仲介可能になることから、顧客の利便性向上に資するとした一方、一定の顧客保護の規制は必要だと指摘した。(本紙2~3面にステートメント全文を掲載)