2019.09.04 金融庁、令和元事務年度行政方針を公表 利用者を中心とした新時代の金融サービス

 金融庁では8月28日、「利用者を中心とした新時代の金融サービス~金融行政のこれまでの実践と今後の方針~(令和元事務年度)」を公表した。「金融育成庁」として、金融サービスの多様な利用者・受益者の視点に立った三つの重点施策(①金融デジタライゼーション戦略の推進②多様なニーズに応じた金融サービスの向上③金融仲介機能の十分な発揮と金融システムの安定の確保)と世界共通の課題の解決への貢献、金融当局・金融行政運営の改革の取り組みを推進し、企業・経済の持続的な成長と安定的な資産形成等による豊かな国民生活の実現を目指していく、としている。

 重点施策①「金融デジタライゼーション戦略の推進」では、▽データの利活用の促進等のデータ戦略の推進▽イノベーションに向けたFinTech Innovation Hubによる情報収集・支援機能の強化▽機能別・横断的法制による多様な金融サービスに向けたイノベーションの促進▽金融行政・金融インフラの整備▽グローバルな課題への対応―の5分野の取り組みを加速させる。この中で、機能別・横断的な法制の整備は、金融審議会金融制度スタディ・グループが本年7月にまとめた「決済法制及び金融サービス仲介法制にかかる制度整備についての基本的な考え方」を踏まえ着手が可能な論点から制度整備に向けた具体的な検討を進めていく、としており、保険仲立人や保険募集人も対象となる金融サービス仲介法制については、オンラインを念頭に置きつつ、複数業種かつ多数の金融機関が提供する多種多様な商品・サービスをワンストップで提供する仲介業者に適した制度について、「機能」に応じた必要な対応は確保しつつ、参入規制の一本化や、所属制の緩和等について検討を行い、実現に向けて取り組むとしている。
 重点施策②「多様なニーズに応じた金融サービスの向上」は、▽最終受益者の資産形成に資する資金の好循環の実現▽高齢者、障がい者、被災者等の多様な利用者にとっての信頼・安心確保▽暗号資産(仮想通貨)への対応―などが取り組みのポイント。
 重点施策③「金融仲介機能の十分な発揮と金融システムの安定の確保」は、▽人口減・低金利環境等の下、金融仲介機能の適切な発揮と金融機関の健全性確保の両立に向け、的確なモニタリングを実施▽地域金融機関の経営理念やビジネスモデルについて対話・検証▽地域金融機関のビジネスモデル確立のための環境整備に向け、業務範囲にかかる規制緩和や、地域金融機関の経営・ガバナンスの改善に資する主要論点(コア・イシュー)の策定等を実施―がポイント。
 この中で、「その他の金融業態」の「保険会社」に対する方針としては、①顧客本位の業務運営の定着に向け、保険ニーズの変化に適切に対応した商品・サービスの開発・販売が行われるとともに、保険商品の販売の現場において、顧客の意向や状況を適切に把握し、これに即した最善の商品を提案するために、丁寧な説明を通じて顧客の理解を得ることや、販売後においても、商品についての適切な情報提供を行うことなどが重要②各社において、環境変化に機動的かつ的確に対応したリスク管理態勢及び持続可能なビジネスモデルを構築する必要がある―とされ、こうした諸課題への対応に当たり、③経営全般にわたるガバナンスが有効に機能することが重要―との3点が示された。
 ①「顧客本位の業務運営の定着」については、「法人向け定期保険、外貨建保険及び代理店におけるインセンティブ報酬等、昨事務年度のモニタリングで把握した諸課題への各社の対応状況を継続的にモニタリングしていく」「法人向け定期保険においては、募集時に保険本来の機能ではない部分が過度に強調されるような募集態勢となっていないか、外貨建保険においては、顧客の金融リテラシー、年齢、資産の状況等を踏まえた適切な商品設計や保険募集管理態勢の整備が行われているか、といった視点での確認が必要」「今後は、商品審査の段階から従来以上に、商品の狙い・見込み顧客層、保険募集管理等の態勢整備の状況を確認していく」「例えば、商品開発部門と保険募集管理部門等の社内各部門が適切に連携の上、業務運営を行っていくことが重要であり、経営レベルでどのような議論や取組みが行われているか、包括的にモニタリングを行う」と方針が示された。
 ②「持続可能なビジネスモデルの構築」については、▽デジタライゼーションの実態把握▽リスク管理の高度化▽資産・負債の経済価値ベースによる評価・監督手法の検討―が方針とされ、この中で「リスク管理の高度化」については、「自然災害にかかる保険引受リスクの管理態勢について、保有・出再方針にかかる経営レベルでの検討状況等を引き続きモニタリングするとともに、定量指標に基づく評価手法を検討するなどモニタリング手法の高度化等に取り組む」などが示された。
 ③「ガバナンスの機能発揮」については、「各社のガバナンスの実効性の度合いに応じて、経営陣等と実効性の向上に向けた対話を行う」「内部監査の実態に応じて、内部監査部門との対話を行い、その高度化を促していく」としたうえで、「大手保険会社グループの海外事業については、大型M&Aを実施してから一定期間が経過し、その成果や課題について各社とも分析が進められている。金融庁としても買収後の子会社管理や収益管理等に関し、取締役会等が実効的なガバナンス機能を発揮しているかに着目してモニタリングを行う」と示された。
 「少額短期保険業者」については、課題として「経過措置適用業者においては2023年3月末の経過措置終了までに本則に移行する対応が求められている」などを示し、「各業者において最低基準を満たした業務運営が行われているかについて、財務局と連携して、自主点検結果を踏まえつつ、ガバナンス、人的構成を含む態勢整備の状況と併せてモニタリングを行うとともに、日本少額短期保険協会とも連携して最低基準達成のための環境を整備する」「経過措置適用業者に対しては、引き続き、本則に円滑に移行するための計画の策定・実行状況について確認し、対応を求める」方針が示された。
 「かんぽ生命保険」については、金融行政上の課題として「低金利環境が継続する中、貯蓄性商品の魅力が低下したことで販売が低迷し、基礎利益が減少している。70歳以上の契約者が全体の約4分の1を占めるなど、顧客に高齢層が多く、将来にわたって安定的な顧客基盤を確保する観点からも、顧客の利益を重視した営業の必要性が一層高まっている。こうした中にあって、契約の乗り換えの際に顧客に不利益を生じさせる不適切な事案が多数生じており、既存顧客への適切な対応はもとより、根本原因の究明に向けた調査を行い、募集態勢の抜本的な改善に早急に取り組む必要がある」とし、さらに日本郵政の課題として「グループ全体の中長期的な収益基盤を確保し、ユニバーサル・サービスを将来にわたり安定的に提供するとともに、金融二社の株式売却を可能とするためにも、民営化委員会の意見書において指摘されているように、グループ全体のビジネスモデルの再構築を行う必要がある」と指摘。
 本事務年度の方針では「顧客本位の徹底に向けた取組み」を掲げ、かんぽ生命に対して「前事務年度に報告徴求命令を発出し、実態把握や原因分析、改善対応策について報告を求めてきているところであり、郵便局を含めた現場レベルに顧客の意向や状況に沿った営業を浸透させ、実質的に顧客の利益が守られるよう、乗換にかかる不適切事案の根本原因の究明に向けた調査やその結果を踏まえた改善策の策定・実行状況についてモニタリング等を行う」「営業目標・インセンティブのあり方、コンプライアンスを遵守するカルチャーの醸成、適切な実態把握に基づく経営陣によるリーダーシップの下でのガバナンスの発揮に着目し、かんぽ生命とその募集人である日本郵便の両社に対して、募集態勢の抜本的な改善を促す」とした。
 また、「ビジネスモデルの再構築と日本郵政のガバナンス」を掲げ、日本郵政に対して「郵便局ネットワークのより有効な活用やIT・フィンテックの更なる活用等、日本郵政グループにおける戦略的な資源配分の策定・実施に向け、取締役会及び経営陣が主導的な役割を果たすよう対話を実施する」「かんぽ生命やその募集人である日本郵便が緊密に連携し、募集態勢の抜本的な改善が図られるよう、グループの持株会社としてのガバナンス発揮に向けた取組みを促す」としている。