2024.03.28 損保協会 定例会見 商習慣改善へプロジェクトチーム 業界内外の意見踏まえ課題解決目指す 「マイナス金利解除は事業の好機」

損保協会は3月21日、損保会館で定例記者会見を行い、新納啓介協会長(あいおいニッセイ同和損保社長)が協会長ステートメントの内容を発表した他、記者からの質問に回答した。同協会長は、はじめに令和6年能登半島地震における保険金支払い状況などについて報告した後、保険料調整行為、およびビッグモーター社(以下、BM社)による保険金不正請求問題について、会員会社・代理店との商習慣の見直し等に向け、「業務抜本改革推進PT(プロジェクトチーム)」を設置したことを明かした。また、記者から日銀の「マイナス金利政策解除」について問われた同協会長は、「今後、日本経済が好転すれば、損保にとっても新たなビジネスチャンス出現の契機になるかもしれない」との見解を示した。(2~3面に協会長ステートメント全文を掲載)

冒頭、新納協会長は令和6年能登半島地震への対応について、1月2日に協会長自身を本部長とする「自然災害対策本部」を立ち上げ、迅速に保険金を支払うために業界一丸となって各種対応を進めていると説明した。こうした取り組みや現地の会員会社の社員、および保険代理店など業界関係者の懸命な努力により、3月8日時点で6万7413件、約610億円の保険金を支払い済だと報告し、「事故受付件数に対する調査完了割合は83%で、過去発生した多くの大規模地震と比べても早いペースで調査が進んでいる」と述べた。
次に、保険料調整行為およびBM社による保険金不正請求問題に対する同協会の対応について説明した。保険料調整行為に関する取り組みとしては、①事業活動に当たっての「基本原則」「行動指針」を定めた同協会の「行動規範」に、「独占禁止法遵守」を新たに明記②昨年12月に策定した「損害保険会社の独占禁止法遵守のための指針」に関連して、「保険契約引受にかかる独占禁止法上の留意点」を新規作成③代理店・募集人向けの「募集コンプライアンスガイド」に独占禁止法上の留意点を追記―などを挙げた。
一方、BM社による保険金不正請求に関する対応についても、①会員会社に対する取り組み状況のフォローアップ②「募集コンプライアンスガイド」を改定し、不正請求の事例や対応ルール・留意点の周知③会員各社向けの「不正請求防止システム」において、不正検知に活用するデータ項目の拡充といった不正請求対策のレベルアップ―などを推進すると述べた。
加えて、保険料調整行為およびBM社による保険金不正請求の問題を踏まえ、 会員会社・代理店との関係や商習慣の見直し、適正な競争環境などをより早期に整備するために、信頼回復に係る取り組みを検討する「業務抜本改革推進PT」を同協会内に設置し、初回会合を4月5日に開催すると発表した。
また、このPTでは、同協会の他の委員会とも密に連携をして、会員会社向けの業界ガイドラインの策定や再発防止に向けたツールの作成を進める他、3月19日に公表された、金融庁の「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」で今後論議され、明確となる課題についても検討を行うと述べた。
最後に、損保業界に対する社会からの信頼を取り戻すためには、保険会社と代理店との関係や業界の商習慣を変えていくことなどが必要だとし、「今後は、これらの課題について当協会の『業務抜本改革推進PT』が中心となって、業界内の論議だけでは見えてこない、外部の視点からの意見も踏まえながら取り組みを進めていく」と強調した。
また、令和6年能登半島地震を通じて、地震の際の保険会社の役割や発生時の生活再建における保険の重要性をあらためて感じているとし、「損保事業の基本に立ち返り、災害時に迅速に保険金をお支払いするとともに、災害が起こる前にしっかりとリスクをお伝えし、備えをご検討いただくことについて、粘り強く取り組んでいく必要性をより一層強く感じている」と結んだ。
その後、新納協会長や同協会専務理事の大知久一氏が記者からの質問に回答した。
「『業務抜本改革推進PT』はどういうメンバー構成なのか」という質問に対しては、大知氏が「協会内の部門横断で回していくPTで、基本的には実務に慣れている課長レベルの方を委員と想定している。企画部会の傘下にあり、企画担当の課長はコアメンバーとしているが、現在もメンバーを募集している。金融庁の『損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議』で出てきた課題や、そこから派生する課題への対応を行うチームと考えている」と回答した。
「気候変動問題に対して業界としてはどのように対応していくべきか」との問いには、新納氏が「日本は自然災害大国で、自然災害の対策としてはやはり防災・減災の啓発活動が重要だ。当協会では今年度、さまざまな地域で支部単位で防災・減災のためのシンポジウムやセミナーを開催しており、こうした活動を引き続き粘り強く行っていきたい」と述べた。
「マイナス金利政策解除となった日銀の金融政策決定会合の結果について、損保業界にはどのように影響すると考えているか」との質問に対しては、新納氏が「損保は流動性の高い資産が多いことなどから、財務健全性への影響は限定的ではないか。一方で保険引受けの観点からは、金利の上昇は住宅や新車の販売台数に影響を及ぼす可能性があり、動向を見守る必要はあるだろう。今後、日本経済が物価と賃金の好循環をもって景気拡大すれば、損保にとって新たなビジネスチャンスが出現するかもしれない」との考えを示した。