2023.09.26 金融庁 23事務年度金融行政方針を公表、社会課題解決・経済成長両立させる金融システム構築など

金融庁は8月29日、2023事務年度の金融行政における重点課題および金融行政に取り組む上での方針を「金融行政方針」として公表した。今事務年度は、①経済や国民生活の安定を支え、その後の成長へと繋(つな)ぐ②社会課題解決と経済成長を両立させる金融システムを構築する③金融システムの安定・信頼を確保する④金融行政を絶えず進化・深化させる―の四つを重点課題として取り組む。

「③金融システムの安定・信頼を確保する」の中で「業態横断的なモニタリング方針」に続く「業種別モニタリング方針」で、保険会社のモニタリング方針では、「保険会社には、法令遵守、保険契約者の保護が厳しく求められる。また、保険代理店との適切な関係の構築、管理が必要であることも言うまでもない。昨今の不適切事案については、不適切な行為の全体像やその原因の究明を徹底して行い、その上で、保険契約者の保護に欠ける問題が認められた場合には、法令等に基づき厳正に対応していくとともに、有効な再発防止策の策定及び実施に取り組む」「また、保険会社には、少子高齢化や自然災害の頻発・激甚化、自動車保険市場の縮小等の中長期的な事業環境の変化を見据え、デジタル化を活用した効率的な業務運営や顧客ニーズの変化に即した商品開発等を通じて、持続可能なビジネスモデルを構築することが求められている」「保険会社の海外進出及び子会社の設立等が進む中、グループ・グローバルのガバナンスの高度化を進めることが重要である。これらの取組の着実な進展を、海外当局とも連携しつつ、対話を通じて促していく」「資産運用の状況を含めた財務の健全性については、金融市場の動向を踏まえ、モニタリングを行っていく。くわえて、経済価値ベースのソルベンシー規制の円滑な導入に向けて、具体的な検討を進めていく」「自然災害への対応については、近年の自然災害の頻発・激甚化による保険金支払いの増加等により、火災保険料率が上昇傾向にある。こうした中で、自然災害に対する備えとしての機能をより適切に発揮していくため、損害保険会社に対して、統合的リスク管理(ERM)の高度化、顧客ニーズやリスク実態等を踏まえた補償内容・保険料率の見直し、防災・減災のサポート等に向けた対応を促していく。あわせて、財務局と連携し、顧客本位の業務運営の更なる推進に向けた損害保険業界における取組を促していく」「生命保険会社については、営業職員による不適切事案が継続的に発生している状況を踏まえ、生命保険協会と連携しつつ、営業職員管理態勢の高度化に向けたフォローアップを行う。また、公的保険制度を踏まえた保険募集の推進を行っていく」「少額短期保険業者については、財務局と連携し、監督指針の見直しを踏まえたモニタリングの高度化を進める。さらに、少額短期保険業者に対し、財務の健全性や業務の適切性を確保するための態勢整備を引き続き促していく」―とした。
具体的な作業計画は次のとおりとなっている。

1.保険業界における顧客本位の業務運営
▽公的保険制度に関する募集人への教育・研修や顧客への適切な説明、それらの実効性確保の取組については、営業職員チャネルを中心に一定の進展が確認された。今後は、代理店における取組状況に焦点を当てて確認を行うなど、重点的なフォローが必要な対象に絞ってモニタリングを継続していく。また、保険リテラシー向上のための施策の一環として、公的保険制度の解説・周知の更なる充実を図るなど、公的保険制度を踏まえた保険募集の推進に向けて取り組む。
▽業務改善命令や報告徴求命令を継続している生命保険会社に対しては、取組の進捗状況についてフォローアップを実施する。また、保険本来の趣旨を逸脱するような商品開発や募集活動を防止するため、国税庁との緊密な連携を通じて、各保険会社に適切な商品開発及び募集管理態勢等の整備を促していく。
▽保険代理店ヒアリングの実施や個別の監督事例の共有等において、財務局との連携を一層強化しつつ、保険代理店の監督を行っていく。その際には、適正に業務を行っていく上での法令順守態勢の整備を改めて求めていく。
▽昨年度に引き続き、代理店業務品質評価検討WGへのオブザーバー参加等を通じて、生命保険協会の代理店業務品質評価に関する運営の動向を注視しつつ、同WGでの議論を踏まえ、各生命保険会社に対して代理店管理の高度化に向けた取組を促していく。
▽生命保険協会において、「営業職員チャネルのコンプラ・リスク管理態勢の更なる高度化に係る着眼点」に関する各社の取組状況の確認や、必要に応じた着眼点の更新など、継続的なフォローアップを通じて、各社の創意工夫を後押しする取組が適切に進められるよう、金融庁として、各社や同協会の取組を確認していく。

2.ビジネスモデル
(生保)23事務年度も、保険会社を選定して、経営戦略やデジタル戦略等について対話を実施する。
(損保)国土強靭化基本計画(23年7月閣議決定)を踏まえ、災害保険や民間の防災・減災のサポート等の活用、それに向けた啓蒙活動の更なる強化等について大手社を中心に対話を実施する。

3.グループガバナンス(略)
4.自然災害
▽22年度の自然災害に係る保険金支払や23年4月契約更改の再保険市場は厳しい状況が続いており、統合的リスク管理(ERM)の高度化の重要性が一層増している。自然災害リスクへの対応は、各損害保険会社における継続的な取組が必要であり、引き続き再保険や異常危険準備金に関するモニタリングを継続していく。
▽改定された参考純率に基づき、各損害保険会社から申請される火災保険商品の改定について、各社の創意工夫を尊重しつつ、水災補償の普及に資する観点も踏まえ、適切に審査を実施する。
▽水災リスクに関する消費者への情報提供の取組について、これまでの対話も踏まえ、各損害保険会社が行う顧客への情報提供への取組方針について対話を実施する。
▽また、水災リスク情報の更なる充実の状況を踏まえ、最新の水災リスク情報を火災保険料率や水災リスクに関する消費者への情報提供の取組に的確に反映する観点から、引き続き関係省庁との連携を図る。

5.経済価値ベースのソルベンシー規制等
▽経済価値ベースのソルベンシー規制について、前事務年度の検討状況や委託調査の結果を踏まえつつ、関係者との対話等を行いながら、基準の最終化に向けた検討を進める。
▽監督会計について、引き続き、経済価値ベースのリスク管理との整合性や財務会計に関する見直しの動向等も踏まえつつ、そのあり方について検討を行う。
▽保険会社から提出される各種データの見直しやORSAレポートの活用等を通じたモニタリングの高度化の検討を進める。

6.少額短期保険業者
▽少短業者の財務の健全性及び業務の適切性を確保するため、登録審査・モニタリング方法の見直しを踏まえ、財務局と連携して、迅速かつ適切な登録審査を着実に行うとともに、問題のある少短業者の早期把握・早期対応に努める。
▽少短協会との意見交換等において、少短業者をめぐる当局の課題認識等を共有することを通じて、傘下少短業者の経営管理態勢等の一層の整備に向けた自主的な対応の促進を図る。