2023.08.07 損保協会 令和6(2024)年度税制改正要望、火災異常危険準備金制度の充実要請 適用区分・洗替保証率の適切な見直し求める

損保協会は7月20日、損害保険業の健全な発展を通じてわが国経済の発展と国民が安心して暮らせる社会の構築に寄与していく観点から、令和6(2024)年度の税制改正要望項目全7項目を決定した。本年度の要望では第1の要望項目として「火災保険等に係る異常危険準備金制度の充実」を求めた。

令和6(2024)年度の税制改正要望項目は、①火災保険等に係る異常危険準備金制度の充実②国際課税ルールの改定における対応③損害保険に係る消費税制上の課題解決に向けて④確定拠出年金に係る税制上の措置⑤地震保険料控除制度の充実⑥受取配当等の二重課税の排除⑦損害保険業に係る法人事業税の現行課税方式の継続―の7項目。
第1の要望項目として挙げた「火災保険等に係る異常危険準備金制度の充実」では、「自然災害の激甚化・頻発化の中において、火災保険事業の安定的な運営を支える火災保険等に係る異常危険準備金制度について、より制度の効果を高める観点から、適用区分や洗替保証率等に関して、適切な見直しを行うこと」を求めた。
要望の理由について同協会は、わが国は台風・豪雨・雪害など多くの自然災害リスクにさらされており、火災保険事業がこれらのリスクの特定・評価・引受などの損害保険の本来機能の発揮に加え、防災・減災取り組みの推進などを通じて気候変動リスク対応の一翼を担い、「安心かつ安全で持続可能な社会の実現」と「経済および国民生活の安定と向上」に重要な役割を果たしている点を強調。その一方で、自然災害の発生周期・規模・頻度は予測できず、災害発生時と平時との間で大きく保険金支払額の差が生じることは自然災害リスクを補償する火災保険事業の特性上避けられない事象であり、火災保険事業が著しく不安定化することを防ぐため、いつ発生するか分からない巨大災害発生時の保険金支払に備えて平時から保険料の一定割合を積み立てる異常危険準備金制度が大正時代に整備され、現在も火災保険事業の安定的な運営に必要不可欠な制度として機能していると説明した。
しかし、2018年および19年に発生した自然災害による保険金支払が2年続けて1兆円超に上るなど、近年の自然災害の激甚化・頻発化の影響により自然災害リスクを補償する火災保険の収支は大幅な赤字が常態化しているほか、近年の日本を含めたグローバルな自然災害の増加傾向等の影響により再保険市場がハード化していることを挙げ、「火災保険収支の構造的な見直しに業界を挙げて取り組んでいるが、異常危険準備金残高が枯渇した状態となり、再保険の調達コストが増加あるいは調達が困難となる中、保険引受のキャパシティを確保し火災保険事業の持続可能性を高めるためには、収支の見直しに加え、火災保険事業の安定的な運営を支える異常危険準備金残高の早期回復が必要不可欠」と指摘した。
その上で、「火災保険等に係る異常危険準備金の制度は、令和4(22)年度税制改正において、①火災保険・風水害保険②貨物保険・運送保険・建設工事保険・動産総合保険③賠償責任保険―の3区分に分割され、積立率は、①が10%(うち8%は経過措置)②が6%(うち4%は経過措置)③が2%(本則のみ適用)―となった。しかしながら、自然災害の激甚化・頻発化の中において、火災保険事業の安定的な運営は、国民生活とわが国経済の安定の観点から重要な課題であり、より制度の効果を高める観点から、適用区分や洗替保証率等に関して、適切な見直しを行う事を要望する」とし、「火災保険は自然災害リスクに対する国民と企業の自助取り組みの中心に位置しており、わが国の気候変動リスクの対策において必要不可欠なもの。これら異常危険準備金制度の一層の充実を図ることは、火災保険事業の持続可能性を高め、国民生活とわが国経済の安定に寄与するものと考える」と要望の理由を説明した。
その他要望項目では、②の「国際課税ルールの改定における対応」では、現行税制について「経済のグローバル化・デジタル化によって生じる税制上の課題への対応について国際的な合意が実現し、新しい国際課税ルールの導入等が見込まれる(うち、所得合算ルールは、令和6(24)年4月から導入)」とし、「国際課税ルールの見直しが行われる場合には、損害保険ビジネスの特性を踏まえ、正当な経済活動を阻害することがないよう、十分に留意すること」を求めた。③の「損害保険に係る消費税制上の課題解決に向けて」では、現行税制は「保険料が非課税である損害保険においては、「税の累積」や「税の中立性の阻害」等の課題が存在している」とし、「税率の引上げに伴って拡大する、損害保険に係る消費税制上の課題(「税の累積」・「税の中立性の阻害」)を解消する抜本的な対策を検討すること」を求めた。④の「確定拠出年金に係る税制上の措置」では、現行税制は「令和7(25)年度末まで課税停止措置、税率は約1.2%(地方税含む)」としているところ、「確定拠出年金制度について、個人型年金および企業型年金の積立金を対象とした特別法人税を撤廃すること」を求めた。⑤の「地震保険料控除制度の充実」では、現行税制は「平成19(07)年1月に制度創設、控除限度額は所得税5万円、地方税2万5000円」としているところ、「地震保険の更なる普及のため、保険料控除制度の充実策について検討すること」を求めた。⑥の「受取配当等の二重課税の排除」では、現行税制は「持株比率5%以下の株式について、益金不算入割合は平成27年度より20%(保険会社は40%)」としているところ、「受取配当等益金不算入制度について、「二重課税の排除」の観点から議論を行うこと」を求めた。⑦の「損害保険業に係る法人事業税の現行課税方式の継続」では、現行税制は「収入金額による外形標準課税、標準税率は1.0%(特別法人事業税と合わせ約1.3%)」としているところ、「既に収入金額を課税標準(100%外形標準課税)としている損害保険業に係る法人事業税について、現行課税方式を継続すること」を求めた。