2017.05.02 国土交通省、自動運転における損害賠償責任、システム欠陥の責任負担で3案
国土交通省は4月26日、「第3回自動運転における損害賠償責任に関する研究会」を開催し、過去2回の議論の内容についての論点整理を行い、その結果を公表した。論点として、自賠法の「運行供用者」をどう考えるかについては三つの案に、自賠法の保護の対象(他人)については二つの案に整理された。その他、ハッキングにより引き起こされた事故の損害などを含め3項目は単一の検討方向にまとめられている。同省は今後検討を続け、年度内には決論を得たいとしている。
同研究会は自動運転における自賠法の損害賠償責任の課題について、迅速な被害者救済の確保、負担の納得感、国際的な議論状況、関係行政機関における制度面の取り組みなどに留意した検討を行うために2016年11月に立ち上げられた。
自動運転と自賠法を関係付けるのは「第3条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったことを証明したときは、この限りではない」という条文。
現行では交通事故の96%はドライバーのミスに起因しており、迅速な被害者保護を図るため、自動車所有者、運送事業者などは「自己のために自動車を運行の用に供する者(運行供用者)」として事実上の無過失責任を負担。また、車の欠陥事故についても「運行供用者」が責任を負担している。運行供用者は自賠法の保護の対象となる「他人」に該当しない。
自動運転でドライバーが運転に関与しないレベル4以上の段階では、自動車の所有者などが従来通り「運行供用者」として責任を負担することが妥当かどうか。自動車メーカーなどは、システムの欠陥による事故の損害についてどのような責任を負担すべきか。また、データの誤謬(ごびゅう)、通信遮断、ハッキングなどの事故についてどう考えるか、システムの欠陥による自損事故について自賠法の保護の対象とする必要があるか。これらが検討上の課題として挙がっていた。
システムの欠陥による事故の損害で、誰が責任を負担すべきかについては、①従来の運行供用者責任を維持しつつ、保険会社などから自動車メーカーに対する求償権行使の実効性確保のための仕組み②同様に責任を維持しつつ、新たに自動車メーカーにあらかじめ一定の負担を求める仕組み③システムの欠陥による事故の損害については新たに自動車メーカーに事実上の無過失責任を負担させる仕組み―などの検討を行うとしてこの三つの項目に整理。
システムの欠陥による自損事故については、①製造物責任法(自動車メーカー)、民法(販売店)による他、任意保険である人身傷害保険での対応が適当②現行の自賠責保険を見直し、自賠法の保護対象とする仕組みの検討が必要―の二つの見解に整理し、自賠責保険の在り方を含め引き続き検討することにした。
ハッキングにより引き起こされた事故の損害(自動車の所有者が運行供用者責任を負わない場合)については、現在の盗難車による事故と同様な状況にあると想定すれば、政府保障事業で対応することができるかなどを検討していく。
「自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと」について運行供用者には、自動運転のシステムが故障しないように注意する義務がある他、ソフトウエアや情報をアップデートするなどが要求されると考えられるが、従来と異なる自動運転車に対応した注意義務を負担する可能性もあり、十分に吟味していく必要があるとしている。
外部データの誤謬、通信遮断などにより事故が発生した場合、自動車の「構造上の欠陥又は機能の障害」といえるかどうかについては、自動運転システムは当該情報を前提として運行しており、システムが判断して事故が発生した場合、自動車の「構造上の欠陥又は機能の障害」となる可能性があることから、どのようなケースで問題になるか検討する必要があると指摘している。