2022.10.25 スイス再保険・JMDC PRSの提供で提携 ウェアラブルデータ活用でリスク評価 睡眠など生活習慣と疾病リスクの相関分析
スイス再保険とJMDCは5月16日、ウェアラブルデータを用いたリスク計算商品「パーソナル・レジリエンス・スイート」(PRS)の提供を発表した。「PRS」はスイス再保険の引受け査定ガイドラインである「LifeGuide」を活用した包括的なモジュール式のリスク評価アプローチで、対象とする生活習慣は、①身体的な活動(歩数・運動)②睡眠③精神疾患(ストレスの状態)④食事の量・質(栄養)⑤アルコールやたばこの摂取状況⑥環境要因(大気汚染や副流煙の暴露状況)―の6種類となっている。スイス再保険ではグローバルで「PRS」を推進しているが、JMDCが国内で収集する幅広いデータを活用することでより日本の実態に即したリスク評価が可能になった。
スイス再保険では現在、生活習慣に基づくアプローチによる新たな価値の提供を目指し、「PRS」の推進に力を入れている。従来、生命保険や医療保険のリスク評価では、病歴や既往症、趣味、職業、BMIや血圧といった臨床的な要因を主に査定を行ってきたが、「PRS」はそこに6種類の生活習慣を加えたもので、日本では健康増進型保険のカテゴリに含まれる。6種類全ての生活習慣を保険商品に組み込む必要はなく、各社の戦略に沿った形で協議が進んでいるという。
スイス再保険が世界的に推進する「PRS」を日本で展開するにあたって課題となったのが、グローバルの知見にのみ基づいた「PRS」で日本の実態に即した説得力あるサービスが提供できるのか、という点だった。
一方で、生活習慣のモニタリングには、近年普及が進むウェアラブル端末のデータを使用したいという思いもあった。2021年春、スイス再保険が日本国内でウェアラブルデータと健診データを持つ企業を探す中で出会ったのがJMDCだった。
医療ビッグデータ業界のパイオニアとして知られるJMDCでは、ウェアラブルデータに健診データとレセプトデータがひも付いた数万人規模のデータを保有しており、そのデータ量は年々増加している。同社では、蓄積したウェアラブルデータを自社のデータサイエンスを使って保険会社に提供していくことも考えているが、保険会社が新しい商品領域に踏み出すためには、データだけでなく、再保険によるリスクヘッジも併せて提案できると可能性がさらに広がるのではないかと検討していた。そこでスイス再保険側からまさに思い描いていたような提案があり、21年秋、パートナーシップを結ぶこととなった。
JMDCのCOO執行役員でインシュアランス本部本部長を務める本間信夫氏は「スイス再保険の商品開発力とグローバルでの知見に対して、当社がデータとデータサイエンスを提供することで協力し合えると感じた。多くの保険会社がマイナポータル連携や外部のパートナーとの提携に強い関心を持っている今、スイス再保険との提携は非常に良いタイミングだったと思う」と提携までの経緯を振り返る。
ウェアラブル端末から得られたデータの活用だけを見ても、現在は保険会社でのR&D利用が主で、「PRS」を含めた健康増進型保険の領域はこれからの発展が見込まれるマーケット。それだけに、データの有無や事業としての成長可能性には、まだ不透明な部分も多い。そこで、スイス再保険とJMDCでは、ウェアラブルデータとそれにひも付く健診データ、レセプトデータと、疾病率との相関分析を行った。結果については、両社とのパートナーシップを前提に公開していく方針だが、例えば、睡眠と心疾患の発生率の相関分析では、適切な睡眠を取っている人と、睡眠不足の人とでは、約20%心疾患の発生率に差があることが判明したという。
保険会社は、これらの分析データを発射台とした検討が可能なことにより、商品開発におけるマーケット分析の効率化など、商品開発のコストと期間を抑制できるため、「PRS」の導入は新領域への挑戦の強力な後押しになることが期待される。
「PRS」の活用が想定される商品として、スイス再保険日本支店シニアCM&ストラテジックイニシアティブスリードでバイスプレジデントの高橋幹氏は、①生活習慣に基づいて保険料の調整を可能にするダイナミックプライシングの機能を持つ商品の開発②リスク細分型の引受けへの活用③引受けのさらなる簡素化―を挙げる。①については、すでにシンガポールで歩数と睡眠と心拍数のデータを用いた商品がローンチしており、日本においても睡眠をトリガーにした商品には可能性が見込める。
②については現状、体格と血圧と喫煙の有無で保険料を割り引く優良体割引が存在するが、ここに生活習慣を組み込むことで、超優良体など、リスクをさらに細分化した仕組みが構築できる可能性がある。
③については、リスク細分の流れで、リスクが低いと判断された顧客に対しては、引受けを簡素化できる可能性が高く、実際に中国では先行事例があるという。
5月の発表は大きな反響を呼び、両社は現在、保険会社各社と個別具体的な話を進めている。JMDCに蓄積されるウェアラブルデータは早いペースで増加しているため、1年後をめどにリスクモデルの精緻化にも取り組む考えだ。
近年、保険業界でのデータ活用は加速しているが、JMDCの本間氏は、こうした傾向はまだまだ拡大していくと予測する。同社の取引先も直近の2~3年で大きく拡大し、データをさまざまな形で利用したいという依頼が多く寄せられているという。データ活用の領域も、これまではどちらかというと商品組成が中心だったところから、引受け査定や支払い査定、顧客向け付帯サービス、さらにはヘルスケア事業などに広がっている。
データ活用を支える人材として、データサイエンティストの役割は大きいが、レセプトデータの癖や傷病発生率の疑似相関にアンテナが働く人材は限られる。JMDCでは保険会社での勤務経験のあるアクチュアリーがデータ分析に携わっているため、保険会社からは「話が通じるし、ヘルスケアデータに詳しく、手も動かしてもらえる」と好評だ。「PRS」の導入により、保険の知識を持ったデータサイエンティストのチーム持つスイス再保険とJMDC、両社のデータサイエンスのリソースを生かしたサポートが受けられるという強みがある。
高橋氏と本間氏は「健康増進型保険という発展途上のマーケットに対して、データを用いた商品開発で貢献したいと考えている。JMDCではウオッチ型のウェアラブル端末以外の端末データについても活用を検討しているので、興味の段階でもよいので、気軽に相談してほしい」としている。