損保協会は保険監督者国際機構（ＩＡＩＳ）が２０２０年１０月１３日から２１年１月１２日まで市中協議（パブリック・コメント）に付した「保険セクターにおける気候関連リスク監督に係るアプリケーション・ペーパー（ＡＰ）案」に対する意見を１月８日に提出した。
　ＩＡＩＳのＡＰ案は、保険セクターの監督に気候リスクの観点を取り入れる監督当局の取り組みを支援するために作成された。気候リスクは保険セクターの監督にさまざまな形で影響を与える可能性があり、多数の「保険基本原則（ＩＣＰ）」に関係し得るが、本文書では、ＩＣＰ９（監督上のレビューおよび報告）、ＩＣＰ７（コーポレートガバナンス）、ＩＣＰ８（リスク管理および内部統制）と１６（ソルベンシー目的のＥＲＭ〈統合的リスク管理〉）、ＩＣＰ１５（投資）、ＩＣＰ２０（パブリックディスクロージャー）が扱われている。基準や監督上の期待を設定するものではなく、追加的なガイダンスおよび好取組事例を示すものとされている。
　ＡＰ案に対して、損保協会としては保険業界が気候関連リスクの軽減に果たす役割の重要性を認識しつつ、その取り組みの効果を最大化していくためにも、「会員会社が実施している脱炭素社会への移行に向けた取り組みが尊重され、さらなる自助努力が促されていくことが望ましい」との認識に立ち、「保険会社の実務に過剰に立ち入ることは避け、特にアンダーライティングや資産運用といった保険会社の本業については自主的な経営判断が尊重されるべき」とする意見を提出した。
　損保協会の意見概要は次の通り。
　▽保険業界は気候リスクの軽減に当たり重要な役割を担っていると考えており、同協会会員各社も脱炭素社会への移行に向けた取り組みを実施・促進・支援している。気候リスクのアプローチにはさまざまな方法がありえ、会員各社が創意工夫を凝らしている取り組みが最大限尊重され、さらなる自助努力が促されていくことが望ましい。
　▽本文書全体を通して、保険会社の実務に関してまで過度に規範的な表現が散見されるが、ＡＰが過剰に実務に指示的に立ち入ることは避けるべき。特に、アンダーライティングや資産運用という保険会社の本業については保険会社の自主的な経営判断が最大限尊重されるべきで、監督者が作成する文書が特定の手段や手法をとるべきと示唆することは、契約者保護などの監督目的に適合する場合を除き避けるべき。
　▽リスク管理方針に何を組み込むべきかは各保険会社の保有するリスクの状況等によって異なるため、画一的にリスク管理方針における気候関連リスクの文書化まで求めるのは過剰である。
　▽リスク管理機能について、定量的な基準等に関しては、各国当局が既に規制を設けている場合もあり、これに加えてグループ統一の規制が設けられることにより、二重の算出負担等が生じる懸念がある。
　▽気候変動の影響は長い時間をかけて徐々に発現してくるものであることが前提認識のため、超長期の保険契約を引受けない限り、引受時点で最新の自然災害リスク認識などをベースに条件設定し、加えて気候変動要素を勘案して判断する必要があるとは考えにくい。
　▽外部関係者が開発した格付の活用を大前提とするのではなく、なぜ格付の使用が必要か、どのように使用するのか等を丁寧に説明すべき。
　▽ＴＣＦＤの枠組みを保険監督目的で活用する場合には、ＴＣＦＤ提言が本来、投資家をはじめとする開示情報の利用者における気候関連リスクおよび機会の把握を促すことを主眼に策定された点に十分な配慮がなされるべき。保険監督目的での情報開示と投資家に有用性ある情報開示では期待される内容が必ずしも一致しないと考えられる。