2020.02.14 ■損保協会 IAISの市中協議に意見書提出[2020年]

 損保協会では、保険監督者国際機構(IAIS)が昨年12月26日から今年2月5日まで市中協議に付した「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言実施に係るイシューズ・ペーパー(IP、注1)案」に対して、自主的・段階的にTCFD提言に基づく開示を進めることの重要性を指摘するなどの意見を2月4日に提出した。また、これに先立つ1月16日には、IAISが昨年11月19日から今年1月20日まで市中協議に付した「流動性リスク管理に係るアプリケーション・ペーパー(AP、注2)案」に対して、保険会社のビジネスモデルや取扱商品等の性質に応じた流動性リスク管理を要望するなどの意見を提出した。
 「TCFD提言実施に係るIP案」は、保険セクターの気候リスクに関連する開示の枠組み確立でTCFD提言が果たす重要な役割認識のもと、IAISが2018年に採択した「保険セクターに対する気候変動リスクに係るIP」のフォローアップとして作成された。各監督当局が自市場における気候関連開示要件策定の際に考慮しているプラクティスの概要を説明している。説明の提供を第一に意図し、監督上の期待形成が目的ではないが、保険基本原則(ICP)との関係を含め、監督当局が気候リスクを評価するための取り組みをサポートすることを目的としたアプリケーション・ペーパー(AP)等を今後策定する際の基礎となることを想定している。また、19年前半に行われた持続可能な保険フォーラム(SIF)のTCFD提言・ガイダンスの実施に関する調査結果を引用している。
 損保協会では、「当協会は保険業界として気候変動に対応する重要性を認識しており、TCFD提言にも賛同している」「一方、TCFD提言に基づく開示はまだ初期段階であり、さまざまな方法が模索されている現状では、まずは自主的に開示を進め、プラクティスを共有し、段階的に開示を進めていくことが重要。手法が確立されていない中での義務的な開示は、チェックボックスを埋めるような画一的対応となり、気候変動リスク/機会に関する保険業界の理解・行動の促進にはつながらない可能性を認識すべき」「本IPの『純粋に自発的なアプローチは、必要な品質と適用範囲を得られないかもしれない』『各監督当局が市場主導型の取り組みだけで必要な変革を実現できるか疑問視していることを認識し』といった義務化を支持するような表現はあまりに拙速であり、削除すべき。保険監督者は、自法域の状況に応じ適切なTCFDの実施手段を構築するべきであり、義務化ありきの検討は、監督者の適切な実施手段の検討や民間の自発的な取り組みを阻害する可能性もある」「気候関連開示の規制化を推進する意見のみが取り上げられており、自主的開示を支持する意見も記載すべき」とする意見を提出した。
 IAISは、今回の市中協議に寄せられた意見を参考にさらなる検討を進め、3月までに内容を固める予定。
「流動性リスク管理に係るAP案」への意見
 損保協会は1月16日には、IAISが昨年11月19日から今年1月20日まで市中協議に付した「流動性リスク管理に係るAP案」に対する意見を提出した。
 このAP案は、監督者がICPやComFrameにおける流動性リスク管理基準を適用する際の追加的指針を提供することを目的とした文書案で、特にICP16(ソルベンシー目的の統合リスクマネジメント(ERM))のうちICP16・8、16・9と、ComFrame16・9・aから16・9・dに関連する内容。
 文書案の主な内容は、監督者による基準の実施を支援するため、流動性リスクに関連する監督資料の特定の側面に関する追加的詳細と事例を提供するもので、具体的には、次の項目で指針と事例を提供している。
 ▽流動性リスク管理措置を、リスクに見合う、また監督者が要件を調整した方法で適用する際の考慮事項。
 ▽ICP16・8に記載されている、保険会社のERM枠組みへの流動性リスク統合(ガバナンスに関する推奨事項を含む)。
 ▽ICP16・9に含まれる「より詳細なリスク管理プロセス(①流動性ストレステスト②抵当権の設定されていない流動性の高い資産ポートフォリオ維持③緊急時資金調達計画④監督者への流動性リスク管理報告書提出)」の構成要素。
 損保協会では、「保険会社の流動性リスク管理はビジネスモデルや扱っている商品等の性質に応じて行うべき」「伝統的な保険において流動性リスクはシステミックリスクとの関係が薄く、本APは伝統的な保険を取り扱う保険会社・グループへ求める記載としては詳細すぎる」「緊急時資金調達計画は、資金流動性リスクの度合いによって策定の要否を判断すべき。流動性リスクレポートの作成要否や詳細度合いも、保険会社の事業特性(保有資産、保有契約)や規模に即した流動性リスクの度合いに応じて定められるべき」「プロポーショナリティ原則を適切に適用し、本APに示される各種措置が合理的な範囲を超えた過剰なものとならないよう要望する」「規制の予見可能性確保の観点から、当局が介入する際の考え方等のポイントを事前に保険会社に示すことが望ましい」「情報収集の費用と便益を検討し、効率性を確保する観点から、ICSやその法域での規制により収集した情報を重複して収集することは避けるべき」とする意見を提出した。
 (注1)イシューズ・ペーパー(IP):IAISが作成する文書の一類型。扱うトピックの背景や現在行われている取り組み、ケーススタディー等を提供し、規制・監督上の論点・課題を特定することを意図している。説明を提供することが目的であり、監督者がその内容を実施することは期待されていない。基準策定に向けた準備として作成されることが多い。
 (注2)アプリケーション・ペーパー(AP):IAISが作成する文書の一類型。IAISの監督文書(ICP、ComFrame等)の特定のテーマにおいて、原則や基準の一律な解釈や適用が難しい場合に、事例やケーススタディーを提供することを目的に作成される文書。