2018.04.02 国土交通省 「自動運転時の賠償責任」研究会で報告書、「過渡期」は現行法制維持
国土交通省の第6回「自動運転における損害賠償責任に関する研究会」が3月20日に行われ、これまでの研究内容を報告書として取りまとめ、座長の落合誠一東京大学名誉教授がその概要を説明した。自動運転の実現に向けて、「官民ITS構想・ロードマップ2017」の中で、自動運転車と自動運転でない自動車が混在する「過渡期」の法制度の在り方を検討してきたもので、現行の自動車損害賠償保障法の運行供用者責任(注)を維持しながら保険会社等による自動車メーカー等への求償権行使の実効性確保の仕組みを検討することが適当であるとした。
報告書の内容は17年度中をめどに策定される高度自動運転システムに向けた政府全体の制度整備に係る方針(制度整備大綱)に盛り込まれる予定で進められた。
同研究会はまず、過渡期(20~25年、SAEレベル3および4の段階)の自動運転システム利用中に起きた事故について、自賠法に基づく損害賠償責任の在り方を検討した。
過渡期でも、運行供用者責任は①自動運転においても自動車の所有者、自動車運送事業者等に運行支配および運行利益を認めることができ、運行供用に係る責任は変わらないこと②迅速な被害者救済のため、運行供用者に責任を負担させる現行制度の有効性は高いこと―などの理由から、従来の運行供用者責任を維持しつつ、保険会社等による自動車メーカー等に対する求償権行使の実効性確保のための仕組みを検討することが適当だとした。
落合座長は説明の中で、委員全員が「自賠法上の運行供用者責任は成り立つ」との見解で一致したことを明らかにした。さらに、運行供用者責任を維持しつつ、システム供用者責任を新たに設け自動車メーカー等に無過失責任を負担させる案および運行供用者責任を維持しつつ自動車メーカー等に自賠責保険料を一部負担させるという案が同時に検討されたものの、一定の課題があり、その全てを解消することが容易でないこと、主要国でそのような方向の制度改正が検討されていないこと、当面の過渡期では自賠責制度の安定した運用を実現する必要があることなどから当初の案を支持する委員が多数を占めたことが説明された。
また、ハッキングにより引き起こされた事故で自動車の保有者が運行供用者責任を負わない場合の損害については、盗難車と同様に政府保障事業で対応するのが適当とした。
さらに自賠法の保護の対象とならない自損事故については、過渡期においても現在と同様の扱いとして任意保険(人身傷害保険)などで、対応することが適当だと結論付けた。
運行供用者責任の免責要件の「自動車の運行に関して注意を怠らなかったこと」については、運行供用者の注意義務の内容として、関係法令の順守義務、自動車の運転に関する注意義務、自動車の点検整備に関する注意義務等があり、過渡期では自動運転システムのソフトウエアやデータ等をアップデートすることや、自動運転システムの要求に応じて自動車を修理することなどの注意義務を負うことが考えられるとした。
地図情報やインフラ情報等の外部データの誤びゅう、通信遮断などにより発生した事故については、そうした状況でも安全に運行できるべきであり、そのような安全性を確保できないシステムは、「構造上の欠陥又は機能の障害がある」と考えられるとした。
なお、今後に向けてレベル5の段階では、さらなる検討が必要になる可能性があるとされている。
「自動運転における損害賠償責任に関する研究会」の委員は次の通り(五十音順)。
▽落合誠一東京大学名誉教授(座長)、甘利公人上智大学法学部教授、窪田充見神戸大学大学院法学研究科教授、古笛恵子弁護士、福田弥夫日本大学危機管理学部長、藤田友敬東京大学大学院法学政治学研究科教授、藤村和夫日本大学法学部教授
(注)自賠法第3条の規定で、①自己及び運転者が自動車の運行に関して注意を怠らなかったこと②被害者または運転者以外の第三者に故意または過失があったこと③自動車に構造的な欠陥又は機能の障害がなかったこと―の3要件を立証しなければ運行供用者が責任を負うとされる。