2023.04.04 金融庁が3月31日施行で告示等改正 IBNR備金計算方法を柔軟化、生保会社のコロナ関連支払急増に対応

金融庁では生命保険会社のIBNR備金に係る告示の改正を3月31日に施行し、「通常の予測を超える事象が発生した場合において、当該事象の発生に関する特別の事情があるときは、一般に公正妥当と認められる会計基準及び適正な保険数理に基づく他の方法により計算した金額とすることができる」ようになった。「保険会社向けの総合的な監督指針」の改正も施行され、同備金の具体的な計算方法は、生命保険協会が検討する。新型コロナウイルス感染症や東日本大震災のような大規模な自然災害の発生時のように保険金の支払金額が大きく変動する際の支払備金計算の柔軟化を図ったもので、コロナ関連で給付金・保険金の支払が急増した22年度決算から適用される。

IBNRは “Incurred but not Reported”(既発生未報告)の略で、保険事故は既に発生しているがまだ保険会社が報告を受けていないものについても、IBNR備金として支払備金に計上することとされている。生命保険会社のIBNR備金の算出方法は「保険業法施行規則第73条第1項第2号の規定に基づき支払備金として積み立てる金額」として平成10年6月8日大蔵省告示234号の第一条で定められている。今回の告示改正等は、パンデミックや大規模自然災害が発生した場合にその影響を勘案できるようこの告示等を改正するもので、同告示の一部改正として金融庁告示第19号が3月31日付で施行された。
具体的な告示の改正は、大蔵省告示234号の第一条第一項で、「保険業法施行規則(以下「規則」という。)第七十三条第一項第二号(以下一部略)に規定する金融庁長官が定める金額は、生命保険会社及び外国生命保険会社等にあっては、次に掲げる方法により算出した金額を平均した金額とする。」でとどまっていたところに続き、今回、「ただし、通常の予測を超える事象が発生した場合において、当該事象の発生に関する特別の事情があるときは、一般に公正妥当と認められる会計基準及び適正な保険数理に基づく他の方法により計算した金額とすることができる。」というただし書きが加えられた。
同時に「保険会社向けの総合的な監督指針」の改正も施行され、Ⅱ―2財務の健全性Ⅱ―2―1責任準備金等の積立の適切性Ⅱ―2―1―4経理処理で、「責任準備金等の積立に関し、保険会社が適正な経理処理を行うにあたり留意すべき事項」として、「(19)生命保険会社等の既発生未報告支払備金計算時の留意事項 ①平成10年6月8日大蔵省告示第234号(以下、Ⅱ―2―1―4(19)及び(20)において「告示」という。)第1条第1項のただし書に規定する「通常の予測を超える事象が発生した場合において、当該事象の発生に関する特別の事情があるとき」に該当するかの判断にあたっては、生命保険会社個社の事情だけでなく、生命保険業界全体に与える影響の程度を踏まえることとし、適切な積立を行うことによって、保険契約者保護に努めること。②生命保険業界全体に与える影響の評価、告示第1条第1項のただし書を適用する場合の計算方法の検討にあたっては、一般社団法人生命保険協会(明治41年12月7日に社団法人生命保険協会という名称で設立された法人をいう。以下、「生命保険協会」という。)と適切に連携すること。(注)当局と生命保険協会において生命保険業界全体に与える影響等に関して適宜意見交換を行うものとする。③告示第1条第1項のただし書を適用する場合、特別の事情が既発生未報告支払備金の計算に重要な影響を与える期間において毎期継続的に適用することとし、みだりに計算方法を変更してはならない点に留意すること。④告示第1条第1項のただし書を適用する場合、その旨、理由及び適用した計算方法の概要を開示すること。」とされた。
金融庁では、1月17日にこの告示・監督指針改正案を公表、2月17日までパブリックコメントに付していたが、3月22日にこれを取りまとめ3月31日の施行となった。
パブコメで提出されたコメントは3件で7個のコメントがあった。その中で、「告示第1条第1項において、「一般に公正妥当と認められる会計基準及び適正な保険数理に基づく他の方法により計算した金額とすることができる」としており、監督指針(案)新旧対照表Ⅱ―2財務の健全性Ⅱ―2―1責任準備金等の積立の適切性Ⅱ―2―1―4経理処理(19)①において、「適切な積立を行うことによって、保険契約者保護に努めること。」とあるが、保険会社における「一般に公正妥当と認められる会計基準」の斟酌や、外部監査人によるその妥当性の判断にあたって、どのような観点で検討を行えばよいか。」という「コメント」については、「計算方法の検討の観点に関しては、計算方法が発生した事象を踏まえたものとなっているか、保険会社間の比較可能性が確保された方法となっているか、最終的なIBNR備金の金額の水準が妥当か、等の観点が考えられます。なお、生命保険協会から複数の計算方法が示される場合には、保険会社はその中から適切なものを適用することで、保険会社間の比較可能性を確保する必要があります。」と考え方が示された。
また、「告示第1条第1項のただし書に規定する「通常の予測を超える事象が発生した場合において、当該事象の発生に関する特別の事情があるとき」に該当することが生命保険協会から示される場合には、生命保険協会から示される方法によって必ず備金計上する必要があるのか。」に対しては、「監督指針Ⅱ―2―1―4経理処理(19)①において、「生命保険業界全体に与える影響の程度を踏まえる」とあることから、特別な事象への該当性については、生命保険協会から示される情報に基づく必要があります。その上で、告示第1条第1項のただし書は、任意規定であるため、告示第1条第1項本文に基づく計算を行うことも可能ですが、その判断にあたっては、保険会社間の比較可能性が損なわれないか、最終的なIBNR備金の金額の水準が妥当か等といった保険契約者保護の観点や重要性の観点で検討する必要があります。なお、特別の事情の影響を受ける保険商品の販売がなく、結果的にIBNR備金への影響がない場合において、告示第1条第1項本文の適用を妨げる趣旨ではありません。」とした。
「個社の判断により、生命保険協会が定めた計算方法とは別の計算方法に基づいて計上することも認められるのか。」に対しては、「計算方法の選択は保険会社によって行われるものですが、生命保険協会が単一又は複数の計算方法を示す場合において、それらと異なる計算方法に基づいて計上する場合には、保険契約者保護の観点から重要な比較可能性が確保された会計処理ではないと考えられます。」としている。
金融庁では、今回の改正について、2月の生命保険協会との意見交換で、「新型コロナウイルス感染症のようなパンデミックや東日本大震災のような大規模な自然災害の発生時のように、年度ごとの保険金の支払金額等が大きく変動するような状況においては、実態を反映したIBNR備金の計算ができなくなるおそれがあると認識」「このような背景及び生命保険業界からの要望を踏まえ、今般、パンデミックや大規模自然災害等の発生時に、実態を反映したIBNR備金を積立てできるよう、告示等の改正案をとりまとめた」と説明、「告示等改正の趣旨を踏まえ、適正なIBNR備金の積立てが各生命保険会社で行われるよう、金融庁と生命保険協会、また、同協会と各生命保険会社が十分連携することが重要であるため、引き続きの協力をお願いしたい」としている。