2022.01.06 フィッチ 22年の保険業界展望 生・損保共に「中立的」見通し[2021年]

フィッチ・レーティングス(以下、フィッチ)が12月に発表したアウトルックレポート「2022年の展望:日本の保険会社」によると、日本の生損保各社の保険引受事業のファンダメンタルズは、新型コロナウイルスのパンデミックに起因する経済的なストレスが続いているにもかかわらず、全般に安定的に推移する可能性が高いとしている。フィッチの両セクターに対するセクターアウトルックは「中立的」。同社は成熟した保有契約、安定的な業績、および保険料率の引き上げを主因として、保険引受事業は健全かつ安定的に推移するとの考えを示すとともに、各社の国内株式、為替、海外クレジット市場への多大なエクスポージャーを踏まえると、日本の保険会社にとっての最大の潜在的リスクは金融市場のボラティリティから生じるとの見方を示した。
 フィッチは22年度の日本の保険会社の業績について、ベースケースで生保保有契約年換算保険料が30.0兆円、第三分野保有契約保険料が7.3兆円、損保総収入保険料が10.3兆円、ストレスケースで生保保有契約年換算保険料が28.7兆円、第三分野保有契約保険料が7.2兆円、損保総収入保険料が9.9兆円と予想した。
 フィッチが格付を付与している日本の保険会社9社のうち、6社については格付アウトルックが「安定的」で、2社は「強含み」。さらに、1社の格付が格付ウォッチ「ポジティブ」に指定されている。2社の格付アウトルック「強含み」は、ファンダメンタルズの改善に向けた個別の取り組みによるもので、1社の格付ウォッチ「ポジティブ」は海外保険グループの組織再編の見通しに伴うものである。
 日本の保険会社の格付は「BBB+」から「AA-(マイナス)」の範囲にある。相対的に良好な信用力を有する保険会社は、質の高い事業へのアクセスを有し、日本国内および海外で慎重な保険引受戦略をとっていることが多い。健全な資本バッファー、強固な収益性、および事業の安定性も影響を及ぼす重要な要因である。【生保事業―「中立的」】
 フィッチは、新型コロナウイルス(Covid―19)によるマイナスの影響が続く中でも日本の生保各社は安定的な利益を生み出すことができると考えており、中期的に各社の資本基盤は強化されるとみている。
 利差益が利益全体に占める割合は、約30%強と比較的小さい。生保の利益の大部分は、収益性の高い保障性保険商品の引受け(医療保険、死亡保障保険など)から生じており、これらは海外の他の地域の大半に比べて極めて安定的かつ収益性が高い。Covid―19の死亡率は日本では低い水準に抑制されているため、フィッチは22年も引き続きこれが大きな問題になることはないとみている。
 大半の日本の生保は大規模な保有契約ポートフォリオを有しており、過去数十年間にわたり積み上げられたこの保有契約から保険引受利益が生じている。日本の伝統的生保の保険引受事業の利益の約95%以上が、収益性の高い保障性商品を中心とした保有契約によるものである。これらの契約の解約・失効率は依然として極めて低く、安定的な収益性をもたらしている。
 さらに、生保各社では、デジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みの推進により、Covid―19の状況下で顧客とのオンラインのコミュニケーションが習慣化してきており、それがパンデミックの中でも保険引受事業の抵抗力を高めている。
 生保の保険引受事業の成長は、日本の名目GDPの成長に沿ったものとなる可能性が高いとフィッチは予想している。一方、収益性の高い医療保険については、日本の高齢化社会がもたらす長期的な需要に支えられ、緩やかかつより安定的に拡大するとの見方を示す。
 フィッチは、外国債券の利回りが低下する局面においても、日本の生保各社の利差益は維持されると予想している。日本の生保の外国債券に対する多大なエクスポージャーのために、外国債券の利回りの低下は日本の生保にとってマイナスとなることが多いが、それを相殺するプラス要因が二つあり、これらの要因が22年も続く可能性が高いとしている。
 一つ目のプラス要因は、為替ヘッジコストの低下であり、各社のヘッジ外債の運用にプラスの効果を及ぼしている。日本の保険会社は、より高い利回りを求めて為替ヘッジを伴う海外クレジット商品への投資を増加させている。
 二つ目の要因は、日本の伝統的生保の平均予定利率が継続的に低下する可能性が高いことであり、これは各社の利差益にプラスに働くとみられる。数十年前に販売された予定利率が高い保有契約は今後10年程度の間に毎年満期を迎えていくと見込まれ、こうした傾向は長期的に続くとみられる。このため、大半の生保の利差益は維持されるか、または引き続き緩やかに改善していく可能性が高い。【損保事業―「中立的」】
 フィッチは、日本の損保の保険料率が引き続き良好な水準に維持されると予想している。損保各社は、大規模自然災害による保険金支払いに対処するため引き続き財物保険の保険料率を引き上げていくことが見込まれ、この点が各社の業績を押し上げるとみている。
 国内で大規模な自然災害が発生するリスクは依然として存在することから、フィッチは損保各社が引き続き国内損保商品の保険料率を引き上げると予想している。これには、再保険料率の上昇も影響を及ぼしている。
 大手3損保グループにおける国内自然災害によるネットベースの付保損害額は、21年4月~9月の期間に前年同期比で40%以上減少した。この主因は、台風などの自然災害による保険金支払いが少なかったことにある。米国とロイズ保険市場で引受けたリスクなど、海外ではCovid―19および自然災害に起因する保険金支払いがいくらか生じているものの、国内損保事業の収益性全般の改善と海外保険事業の底堅い業績に支えられ、各損保グループは適度な利益を維持している。【海外事業】
 フィッチは、(とりわけ生保において)人口の高齢化と労働人口の減少のために国内市場が成熟していることを踏まえ、海外事業の拡大が今後も続くと予想している。大手4生保グループおよび大手3損保グループは米国や英国、オーストラリアで保険会社の買収を継続する可能性が高い。ロイズ保険市場、米国の生保およびオーストラリアの生保など、日本の大手保険グループの海外事業の一部では、自然災害やCovid―19の影響により、業績が低迷している。【潜在的リスク】
 大半の日本の保険会社(生損保とも)は、国内株式、海外クレジットや為替リスクに対する多大なエクスポージャーを有している。このため、極めて強いストレスがかかる局面では、強固な資本バッファーにもかかわらず、一部の保険会社は金融市場の混乱から影響を受ける可能性がある。【その他】
 ▽経済価値ベースのソルベンシーマージン規制
 日本の規制当局は、経済価値ベースの新たなソルベンシー規制を25年ごろから導入する計画を明らかにしている。フィッチはこの新制度が、保険監督者国際機構(IAIS)が設定した国際保険資本基準(ICS)と整合的なものになるとみている。日本の保険会社は、新たな要件に対応する取り組みを強化している。
 ▽ハイブリッド証券が資本基盤維持に寄与
 フィッチは日本の保険会社において、内部留保と準備金の蓄積が続くと予想している。大手生保9社平均のソルベンシー・マージン比率は、20年9月末時点の1012%から21年9月末時点には1032%に上昇した。大手損保4社平均のソルベンシー・マージン比率は、20年9月末時点の774%から21年9月末時点には796%に上昇した。各保険会社はハイブリッド証券の発行を継続し、自己資本の強化を図る可能性が高い。日本のソルベンシー・マージン比率においてハイブリッド証券が規制資本として取り扱われることもあり、各社は大型M&Aを行う場合に信用格付を現在の水準に維持することが容易になっている。
 ▽各社がESG投資を強化
 日本の保険会社は、脱炭素化などの環境問題の解決に資する債券を含むESG投資の強化への各種関係者からの圧力の高まりに対処する一方で、収益性を犠牲にすることがないよう努めている。さらに、各社は、石炭関連プロジェクトのリスクの引受けといった「反ESG」事業を抑制し始めている。