2021.04.19 NEXI 不適切債券運用と保険料誤徴収問題 外部調査委員会調査結果と防止策を発表
日本貿易保険(NEXI)は4月9日、東京都千代田区の本社ビルで記者会見を開き、2月22日に公表した「不適切な債券運用」と、3月4日に公表した「保険料の誤徴収問題」について、外部調査委員会による調査結果と再発防止策、役員の処分などについて報告した。同社の黒田篤郎社長は「今回の事案に関して心からお詫びするとともに、信頼回復のために適切かつ厳格な業務運営に取り組んでいく」と述べた。
NEXIは、外貨建資金運用方法の一つとして、2018年11月からドイツ連邦政府が元本・金利の支払を保証するドイツ復興金融公庫債(注)(以下、KfW債)を取得・保有してきたが、経済産業省から2月22日、KfW債は貿易保険法施行規則17条が定める「外国政府及び国際機関の発行する有価証券」には該当せず、KfW債の保有は貿易保険法29条4号に抵触するものであり、直ちに売却し、再発防止策を含めて公表する必要があるとの見解が伝えられたこと、さらに、外部弁護士を活用して、原因究明、再発防止策の策定、法令順守体制の総点検・公表などを検討するよう指示を受けたことを公表していた。
NEXIは、保有中のKfW債を2月22日までに売却完了(売却自体の損失はなし)し、外部弁護士による調査委員会を設置して、原因究明を行うとともに、他にも同様の法令順守に疑義のある行為が行われていないかについて徹底的な調査・検証、再発防止策の検討を進めてきた。
調査・検証の過程では、貿易保険法により経済産業大臣に対する届出が必要とされている貿易保険の保険料率などを定める料率規程と、この内容に従って構築されるべき業務システムの設計書との間で一部の計算における端数処理に内容の齟齬(そご)があることが分かり、この齟齬によって、保険料の誤徴収が生じていることが判明、3月4日にその内容を公表している。
記者会見で外部調査委員会の伊藤鉄男委員長(弁護士・西村あさひ法律事務所)は、同委員会において、①NEXIがKfW債を保有するに至った経緯と、問題を意識した後の対応②NEXIの全部局が行う業務において、貿易保険法76条が定める過料の対象となる違反行為が生じていないかを中心に、会社業務全般の法令順守状況を検証③NEXIの法令順守体制に対する評価と改善策の提言―の三つの調査を実施したとして、その調査結果の概要を報告した。
①に関しては、貿易保険法とその施行規則ではNEXIが余裕金を運用する債券を制限しているものの、NEXIがこの制限に抵触することを認識しながら(あるいは疑いながら)、あえてKfW債を購入したとは認められないが、KfW債が「外国政府及び国際機関の発行する有価証券」に該当するとの解釈の妥当性につき、社内での確認や経済産業省に対する確認を行わなかったと指摘した。
②では、貿易保険法76条1号ないし8号に該当する違反行為は認められなかったと報告した。一方、調査の過程で判明した保険料の誤徴収問題については、04年から18年の間に47件あったことを報告した。NEXIは、そのうち過大徴収となった27件(総額169万5394円)は4月中に顧客に全額返還するとしている。また、保険責任期間が終了している23件は、顧客との間で金額の確認と返還方法を相談しており、4月中には返還を終える方針を示した。
③については、役職員に対するアンケート調査を行い、法令順守態勢全般に対する検証を行ったとして、同委員会は改善策として、NEXIが既に実施している再発防止策に加え、コーポレートガバナンス委員会設置や業務マニュアルの点検と運用の見直し、第2線(法令チェックなどのリスク管理能力)と第3線(内部監査)の人員強化、企業風土・意識の変革などを提言したと説明した。
NEXIの黒田社長は、お詫びの言葉を述べた後に、同委員会の報告を踏まえた再発防止策の実施を徹底すると強調。KfW債の保有問題に関しては、第1線(現場対応力)を強化するため、決裁ラインの高度化・重層化、証券会社と購入可能債券リストの共有、資金運用担当者に対する研修の実施を行うとした。また、第2線の強化に向けて、業務執行と管理・チェック機能の分離、法務を統括する部署の新設、外部委員会による事前承認の導入に取り組む意向を示した。
保険料の誤徴収問題は、料率規程の改訂作業時の際の確認・検証や事後的な検証の実施、業務マニュアルの点検および運用の見直しを行うとした。
法令順守体制は、コーポレートガバナンス委員会の見直しの他、業務マニュアルの点検および運用の見直し、第2線・第3線の人員強化、企業風土・文化・意識の改革を行う考えを示した。
また、同事案に対する責任を重く受け止め、黒田社長と資金運用担当役員の仲田正史副社長については、月額報酬の10%・1カ月分を自主返納することにした。加えて、同事案に対して経済産業省に報告書と再発防止策を提出し、貿易経済協力局長名の文書で厳重注意を受けたことも明らかにした。
(注)ドイツ復興金融公庫は1948年、ドイツKfW法に基づいて設立された政策金融機関。出資構成は連邦政府80%、州政府20%。発行する債券はKfW法に基づきすべてドイツ連邦政府が保証を行っている。