2020.11.18 ■損保協会 「気候変動を踏まえた水災害対策のあり方」答申説明会[2020年10月26日]

 損保協会は10月26日、東京都千代田区の損保会館大会議室で、国土交通省が7月に公表した「気候変動を踏まえた水災害対策のあり方について」の答申に関する説明会を開催した。国土交通省はこの答申の中で、近年の水災害による甚大な被害を踏まえ、損害保険も含めた防災・減災に向けた提言を行っている。説明会では、国土交通省水管理・国土保全局河川計画課の森久保司氏が答申に至る背景や経緯、問題意識などについて説明し、社会のあらゆる関係者が協働して流域全体で対応する「流域治水」への転換を強調した。当日は損保各社、金融庁、日本代協、損保協会などから56人が参加した。
 冒頭、損保協会の青木章企画部会長があいさつ。ここ数年、毎年のように巨大な自然災害が発生していることや火災保険を中心とした自然災害への損害保険金の支払いが2年続けて1兆円を超えていることなどに触れ、「自然災害で被災された顧客に、迅速・適切に保険金を支払うことが損保業界の社会的責務だ。引き続き顧客に二次災害の危険性を丁寧に説明し、損害保険への加入を勧めるとともに、火災保険を長期・安定的に運営していくことに知恵を絞っていく」と語った。
 また、「答申の中で示されている『流域治水』の考え方は、国や自治体、企業、住民といったあらゆる関係者が一体となって防災対策を進めていくものと認識しており、まさに自助・共助・公助の総合的な取り組みだと考えている。答申の内容をしっかりと受け止め、今後の損保事業に生かすとともに、金融庁や日本代協などにも支援をいただきながら、これまで以上に官民の連携を進め、二次災害対策をオールジャパンで強化していきたい」との考えを示した。
 森久保氏は、答申で取りまとめられた内容を踏まえ、近年の災害による被害や事前防災対策の必要性、気候変動の影響、「流域治水」の方向性、今後の治水対策の展開などについて解説した。
 近年の災害に関しては、2015年9月の関東・東北豪雨(鬼怒川の堤防決壊による浸水被害)、17年7月の九州北部豪雨(桂川における浸水被害)、「平成30年7月豪雨」(小田川における浸水被害)、「令和元年東日本台風」(千曲川における浸水被害)、20年7月の豪雨(球磨川における浸水被害)などを挙げ、それらの自然災害による被害状況を説明。
 事前防災対策の必要性については、「令和元年東日本台風」で大規模な浸水が発生した阿武隈川における、被災前に対策した場合の整備費用と被災後に要した費用・被害額を比較し、「事前の防災対策は人命を守ることの他、災害後の復旧や被災者の生活再建などにかかる負担、社会経済活動への影響などを軽減できることから、後手に回らないよう着実に対策を進める必要がある」との考えを示した。また、狩野川は放水路、利根川は上流ダム群(矢木沢ダム、奈良俣ダムなど)の治水効果により、本川の水位低下や人的・物的被害の軽減につながったとした。
 国土交通省では、近年の水災害による甚大な被害を受け、施設能力を超過する洪水が発生するものとすることに意識を改革し、氾濫に備える「水防災意識社会」の再構築を進めているとし、今後はこの取り組みをさらに一歩進め、気候変動の影響や社会状況の変化を踏まえ、あらゆる関係者が協働して流域全体で対応する「流域治水」への転換を強調。治水計画を「気候変動による降雨量の増加などを考慮したもの」に見直し、集水域と河川区域だけでなく、氾濫域も含めて一つの流域と捉え、地域特性に応じて、①氾濫をできるだけ防ぐ・減らす対策②被害対象を減少させるための対策③被害の軽減、早期復旧・復興のための対策―の三つを柱に、ハード・ソフト一体で総合的かつ多層的に取り組む方針を示した。
 また、①の具体的な対策として利水ダムを含む既存ダムの洪水調整機能の強化や流域の貯留施設などの整備、②の対策として土地利用規制・誘導・移転促進、③の対策として「小規模河川の氾濫推定図作成の手引き(仮称)」の公表や不動産取引における水害リスク情報の提供、マイ・タイムラインの全国展開―などの取り組みを紹介。その上で同氏は、「保険業界の皆さんにはハザードマップの普及にご協力いただいているが、顧客が火災保険を見直すタイミングでリスクを自分事として意識する、その主流化に力をお借りしたい」と述べた。
 今後の治水対策は、「令和元年東日本台風」では、主な河川における基準地点上の流域平均雨量は河川整備基本方針の対象雨量を超過または迫る雨量となり、流量は観測史上最大または2位を記録し大きな被害となったが、仮に河川整備基本方針の治水施設の整備を完了していれば、ほとんどの河川では外水による大被害は回避できたため、より一層治水対策を加速させる必要があるとし、「先ほど示した三つの柱に沿って流域対策を実施していく。国、都道府県、市町村、企業、住民などあらゆる関係者に地域の水害対策に協力してもらい、共に推進して水害に強いまちづくり、社会づくりに取り組んでいきたい」と述べた。