2020.06.08 ■神奈川県経営者福祉振興財団が民事再生手続開始 負債総額は15億円[2020年6月1日]

 認可特定保険業者の一般財団法人神奈川県経営者福祉振興財団は6月1日、東京地方裁判所に民事再生手続開始の申立てを行い、同日、同裁判所から、弁済禁止の保全処分命令を受けた。監督委員には、進士肇弁護士(東京弁護士会所属)が選任された。3月31日現在の同財団の負債総額は約15億8234万円。5月1日現在の保険契約の状況は、終身保険契約の被保険者数が1万6387人、終身以外の保険契約の被保険者数が2万4965人で、被保険者数の合計は4万1352人となる。2013年に認可特定保険業の制度が発足して以来、同制度に基づく事業者で経営破綻したのは今回が初となる。

 今回の弁済禁止の保全処分命令により、同財団は、契約者・受取人の保険金をはじめ、5月31日以前の原因に基づく債務の弁済を禁止された。このいったん棚上げになった債務は、今後、民事再生手続の中で作成する再生計画に従い弁済する予定。新たな保険契約の募集・締結はせず、民事再生手続を利用して財団の清算に向かうことになる。保険事故が発生したことにより同財団に対して保険金請求権を有する契約者の保護を最大限図りつつ、終身以外の保険契約については民事再生手続の開始決定後順次契約を解除し、終身保険契約については一定期間保障を継続した上で一定の弁済をすることで、共済保険事業を終了し同財団を清算する予定。
 同財団では、「皆さまからは長年にわたり多くのご支援・ご協力を頂戴してきたにもかかわらず、このような形でご迷惑をお掛けすることとなりましたことを、心よりお詫び申し上げます」としており、また、本来は債権者説明会を開催し、今回の民事再生手続開始の申立てに至った経緯や民事再生手続の概要および今後の方針の説明をするところだが、昨今の新型コロナウイルス感染症拡大の状況に鑑み、債権者説明会は行わず、債権者専用ホームページで情報提供していくとしている。保険契約者・債権者には、文書で専用ページのID・パスワードを送り、専用ページ「民事再生手順の概要とQ&A」で情報提供していく。
 同財団は1975年4月23日に設立され、神奈川県内の事業者、個人向けの共済保険事業を中心に事業を行ってきた。2013年10月に、神奈川県知事から特定保険業の認可を受け、認可特定保険業者として神奈川県内の事業者(主に中小企業)の経営者、従業員およびそれらの家族を対象とした個人向けの共済保険商品の販売事業を行っている。
 今回の申立て時点では「シニア世代を応援する災害共済保険(ケガの保障)」として「祝寿共済保険白寿1300円コース」(満99歳までケガや交通事故の入院およびひったくり・犯罪被害の見舞金を保障する)を取り扱っており、そのほかに取り扱いを終了していた商品にケガや交通事故の入院を終身で保障する「祝寿共済」などがあった。
 同財団では、神奈川県内の中小企業数の減少に加え、中小企業の経営者、従業員等の高齢化および保険会社との競争環境の激化により、新規契約の獲得が徐々に困難となり、次第に収益構造が悪化してきていた。その一方で、被保険者の死亡等を含む保険事故件数は増加しており、保険金の支払額が増えることで支出が増大し、業績の悪化が深刻になっていたとのこと。
 こうした事態を受け、同財団では、新たな保険商品の開発、新規事業の開拓、営業の強化等の対策を検討したが、認可特定保険業者が行うことができる特定保険業は05年の保険業法改正時に行っていたものの範囲内に限られるため、収益構造の改善につながる新たな保険商品の開発を行うことが困難で、その他の方策も前記の経営環境を改善するには至らなかった。事業譲渡も検討したが、同財団の保険契約を引き受ける法人を見つけることはできなかったという。
 これらの事情により、同財団の事業の収益性は低下し、正味財産額の減少が続いており、同財団の20年3月末日時点の正味財産額は約9998万円に低下。さらに今後も正味財産額の減少が見込まれており、20年中または21年3月期中にも債務超過に至る見込みとなり、同財団がこのまま事業を継続すれば、保険契約者、受取人、債権者等の不利益を拡大させる可能性が高いことから、保険契約者の保護に配慮しつつ、債権者の公平を図り清算手続きを行うために、今回、民事再生申立てを行うに至ったとしている。
 なお、保険会社については、金融機関等の更生手続の特例等に関する法律(以下、更生特例法)に基づき会社更生手続きの申し立てを選択することができるが、認可特定保険業者は保険会社(保険業法2条2項)ではなく更生特例法が適用されないこともあり、同財団は民事再生手続きの申し立てを選択したとのこと。
 同財団は、裁判所および監督委員の監督の下、保険契約者・保険金請求者等の保護を図りつつ、財団の清算を進めるとしている。