2020.04.02 ■かんぽ生命契約問題特別調査委員会 記者会見、違反疑い事案1万3396件に[2020年3月26日]

 かんぽ生命保険契約問題特別調査委員会は3月26日、東京都千代田区のJPタワーで記者会見を開き、2019年7月から約8カ月間にわたり実施した調査の追加報告を行った。追加報告によると20年2月29日時点の「違反疑い事案」は、1万3396件となり、19年9月30日の中間報告時点から約2・3倍増加した。営業再開については、被害者対応を迅速かつ丁寧に実施する具体策を明確にした後に進める方針を明らかにした。委員長で弁護士の伊藤鉄男氏は、改善策の着実な実行によって不適正募集は根絶できるとの見解を示した上で、「効果の発揮には、全役職員が職業的自尊心を持つことが不可欠であり、それがなければ真の業務改革・組織改革にはつながらない。そうした心の持ち方が自然にできるような組織づくりが重要だ」と述べた。

 伊藤氏は冒頭、「本調査の対象である不適正募集問題は、郵政民営化以前からさまざまな網をくぐり抜け、伏流水のように存在し続けてきた。8カ月間に及ぶ調査を進めても調査全体が完了していないこと自体、不適正募集問題の深さと広がりを示している」と指摘した。
 追加調査は、かんぽ生命保険商品の不適正募集問題について、①かんぽ生命による「契約調査」の範囲・方法などの妥当性の検証と調査結果の分析・検討②「特定事案」を受理した保険募集人への個別調査③不適正募集問題に係るグループ経営陣の認識と事実経過の調査④前回委員会が提言した改善策のグループでの実施と検討状況の評価―の四つを目的として実施した。
 調査方法は、日本郵政グループの役職員や関係者など合計110人へのヒアリングや、かんぽ生命、日本郵便および日本郵政の関係者・部署から提出された書面や電子データなどの関係資料の精査・分析、関係役職員など合計2174人が利用するPCに保存されていた電子メールのデータ合計890万4242件を保全し分析・検討するデジタル・フォレンジック調査を行った。
 契約者約1900万人(特定事案を除く)を対象にした全契約調査の進捗状況は、約100・8万件(20年2月29日時点)の回答があり、そのうち訪問や電話での説明などで、顧客対応が完了したものが82・8万件(全体の約82%)、顧客対応手続き中のものが約14・7万件(約15%)、顧客からの回答内容確認中のものが約3・3万件(約3%)となった。
 また、顧客対応完了済の事案のうち法令違反や社内規則違反の疑いがある事案については、20年4月以降に募集調査を実施する。さらに、全契約調査対象のうち顧客に不利益を与えた可能性が高い多数・多額・乗換契約など(契約者合計約5・9万人)については、20年2月から深堀調査を実施していると報告した。
 事案調査など(特定事案調査、能動調査)に係る不祥事件・事故と判断した事案は、2月29日時点で2206件となり、関与募集人は1794人でそのうち渉外社員が1605人、窓口社員が189人だった。
 不祥事件と判断された事案は210件(特定事案調査対象事案174件、能動調査対象事案36件)で、不祥事故と判断された事案は、1996件(全て特定事案調査対象事案)となった。病休などの理由により調査不能となっている事案は、一部の事案を除き、20年3月末までに判定を完了させる。不祥事件・事故事案中の渉外社員関与割合(件数ベース)は91・7%で高実績募集人関与割合は21・5%だった。
 契約復元の状況(20年2月29日時点)は、契約復元などに関する説明を希望した顧客が4万7968人、そのうち契約復元など手続案内を完了した顧客が4万3013人、うち契約復元を希望した顧客は3万6721人、既に契約復元等の措置を完了した顧客が3万5564人とした。
 また、契約復元等の措置が未了であり、今後復元を希望する顧客に対しては、20年3月末までに完了させる予定で、4月以降も顧客からの復元などの要望があった場合には対応する考えを示している。
 日本郵政グループでは、民営化以前から郵便局での窃盗や詐欺・横領、郵便物の放棄・隠匿などの「部内犯罪」の撲滅が最大の関心事だった。そのため「不祥事件=法令違反=不適正募集」が幹部の共通認識となり、今回の特定事案調査の開始まで、所定の契約関係書面に顧客の署名・押印があれば基本的には顧客の意向に沿っているものと考られていたという。
 また、かんぽ生命では、高齢者からの苦情の顕在化や、金融庁からのモニタリングの示唆、金融庁における郵便局の募集人に対する募集品質への関心の向上を契機に、17年1月から、消滅と新規契約締結を繰り返す契約を受理した募集人を対象にしたヒアリング調査などを金融庁に報告する取り組みを進めていた。
 一方で、当時のかんぽ生命のシステムでは、こうした調査の基礎資料の契約者ごとのデータ作成に時間がかかり、調査結果は数件程度の不祥事件と不祥事故を発見できる程度だった。さらに、募集人と顧客が強い信頼関係で結ばれており、契約者にヒアリングを実施しても顧客からは契約締結に問題はないと回答が返ってくることが多かったという。
 こうした点から、特別調査委員会は、かんぽ生命と日本郵便が、顧客の協力を得られない状況の下では今般明らかとなった顧客に不利益を与える多数契約などの悪質な事案実態の把握は容易ではなく、不適正募集はあくまで少数の募集人が関与するにとどまるものと考えていたと説明した。
 前回特別調査委員会が提言した改善策の検討と実施状況では、20年3月から録音・保管による募集状況の可視化の仕組みを構築し試行する。20年10月から、かんぽ生命の支店と郵便局で顧客の過去の契約加入・消滅履歴をシステム上で簡易に把握できる仕組みを整備する。
 また、20年4月から乗換契約の手当支給や渉外社員の基本給と手当の割合の見直しを実施する他、窓口・渉外社員や管理者の人事評価に募集品質に係る評価項目を新設する。
 募集人に対する処分については現行の2段階から、20年4月から「業務廃止」「業務停止」「厳重注意」「注意」の4段階とする他、管理者に対する処分は、20年1月から全ての金融関係管理者を「保険募集品質改善責任者」に指定することでその役割を明確化し、過怠があった場合には厳格な処分を実施する方針を示した。
募集再開について、長期間仕事ができないことで厳しい生活を強いられているかんぽ生命の募集人は、可能な限り早期の再開を切望しているとした一方で、不適正募集による被害者らの怒りや苦しみを思慮すると、被害回復に道筋を付けない状況での営業再開は考えられないと強調し、「郵政グループとして、明確な改善策とその確実な実施確保の方策を示していかなければならない」と述べた。