2019.03.28 生保協会 創立110周年記念式典開く、これからの生保のあり方検討
生命保険協会は2月25日、東京都千代田区のイイノホールで「創立110周年記念式典」を開催した。主催者として、同協会の稲垣精二会長(第一生命社長)、木村博紀副会長(朝日生命社長)、清水博副会長(日本生命社長)が出席した他、パネリストとして各界の有識者が登壇した。2部構成で行われたパネルディスカッションでは、医療介護分野の課題と展望、また、Society5.0と生命保険に関して、活発な意見交換が行われた。当日は業界関係者を中心に380人が出席した。
主催者を代表してあいさつした稲垣会長は、日本の現状について「少子高齢化や人口減少が進行し、持続可能な社会保障制度の構築や労働力の確保、健康寿命の延伸などの課題を抱え、まさに課題先進国といわれる状況を迎えている」との認識を示した。その上で、生保業界としてこうした社会課題を解決し、自らもさらなる飛躍を遂げるために必要な役割は三つのP(Preparedness:心構え、Protection:保障、Prevention:予防)だと強調。リスクへの理解、適切な保障の確保、可能な限りのリスクの予防・回避に向けて、テクノロジーを活用した新たなサービスの提供をはじめ、生保業界だからこそできる施策を打ち出していきたいと語った。
続いて来賓あいさつに立った金融庁の遠藤俊英長官は、生保協会が、関東大震災や東日本大震災などの巨大災害に際して、迅速な保険金支払いを促進する役割を果たしてきたことや、2007年に起きた保険金支払い漏れについてもガイドライン策定などを通じて問題解決に尽力してきたこと、国民に対する金融教育活動を継続していることなどを挙げ、謝意を示した。
また、今後、生保業界に期待したいこととして、①各社が経営環境の変化に対応すると同時に、顧客本位の業務運営を追求していくこと②若年層における金融リテラシーの向上や健康増進を後押しする商品・サービスの提供―の2点を挙げ、「生命保険は人々の生活を支えるインフラであり、金融庁としても生保業界の持続的発展に向けて、業界が直面する課題について一緒に考え、解決していきたい」とした。
続いて木村副会長が金融リテラシー教育等の推進に係る取り組みを紹介した。同協会が創設した自助の日(5月28日)と、金融リテラシーが身に付くショートムービー「ライフプランのいろいろ」を紹介した同氏は、「生保協会では、金融リテラシーの推進をSDGs達成に向けた重点取り組み項目の一つに掲げており、今後も業界一丸となって取り組みを推進していく」と力強く語った。
パネルディスカッション第1部は「医療介護分野における国民と生命保険の将来」と題して行われ、パネリストとして、厚生労働省参事官(社会保障担当)の榎本健太郎氏、慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室教授の宮田裕章氏、生保協会副会長の佐々木豊成氏が登壇した。
冒頭、佐々木氏が生保協会の注力取り組みとして、三つのPや、変化する保険ニーズへの対応、認知症保険など、新たなアプローチについて紹介した。
続いて、榎本氏が、団塊ジュニア世代が高齢者となる2040年を見据えて厚労省が策定した「2040年を見据えた社会保障・働き方改革」の四つの柱、①多様な就労・社会参加の環境整備②健康寿命の延伸③医療・福祉サービスの改革による生産性の向上④給付と負担の見直し等による社会保障の持続可能性の確保―について、取り組み内容などを紹介した。
宮田氏は医療介護分野におけるパラダイムシフトについて言及し、大手データ関連企業の世界的な台頭や、EU一般データ保護規則の採択など、データに基づくビジネスや社会基盤の構築が加速していると説明した。また、健康は人生を豊かにする手段であると述べ、企業が地域の活性化や健康寿命の延伸に取り組む意義を強調。「地域の中で一人一人の生き方を支えるという生保業界のネットワークは、新たな産業にもつながる可能性がある」との考えを示した。
この他、厚労省が推進する地域包括ケアシステムについても意見が交わされた。
パネルディスカッション第2部では、「Society5.0における生命保険の役割」をテーマに、総務省情報流通高度化推進室室長の飯村由香理氏、サステナビリティ消費者会議代表古谷由紀子氏、宮田氏、生保協会副会長小林研一氏がそれぞれの考えを語った。
まず最初に、飯村氏が、総務省が関係省庁と共に推進しているパーソナルヘルスケアレコード(PHR)のモデル事業について紹介した。現在、総務省では、本人の健康・医療・介護に関する情報であるPHRを、国民一人一人が自ら生涯にわたり、時系列的に管理・活用することで、自己の健康状態に合致した良質なサービスの提供が受けられる社会の構築を目指している。
同省では、16年度から3年間、①妊娠・出産・子育て支援②疾病・介護予防③生活習慣病重症化予防④医療・介護連携―といった四つのライフステージに応じたPHRサービスモデルの開発に取り組んでおり、同氏はその具体的な内容について紹介した。
続いて、飯村氏のプレゼンテーションを受ける形で、小林氏が生保協会におけるPHRの活用アイデアとして、①契約者の健康増進に向けたサービスの提供②保険の引き受け手続きへの活用③給付金の請求手続き―を挙げ、その可能性に期待を示した。
宮田氏は海外におけるPHRに類する仕組みについて事例を紹介した。デンマークやエストニアでは、自分の医療情報の記録をいつでも見ることができ、医療者も医療目的であることを条件に閲覧できる仕組みがあるだけでなく、こうしたデータベースとアプリを掛け合わせることでがん患者の5年生存率を劇的に改善した例を挙げ、「世界的にもアップルやサムソンといった大企業も健康市場に参入している。今後こうした流れはさらに大きくなるだろう」と語った。
持続可能な社会に向けて消費者視点でさまざまな提言をしているサステナビリティ消費者会議の古谷氏が、PHRの導入において消費者の実態が適切に捉えられているかという点について「個人の関与や個人主導型と言いながら、経済や効率重視の施策になっているのではないか」との懸念を示すと、飯村氏がPHRは本人の同意を大前提としていることをあらためて強調するなど、パネリストらはデータの流通や活用に対する期待や課題について議論を深めた。
閉会のあいさつを行った清水副会長はパネリストらに謝辞を述べ、「今後も長期的視点に立った事業運営という本質を守りながら、時代の変化に応じた柔軟かつ機動的な対応を行っていきたい。皆さまと手を携えて、希望あふれる社会づくりに一層の貢献をしていきたい」と締めくくった。