2024.01.30 金融庁 損保ジャパンほかに業務改善命令、健全な組織風土の醸成求める

金融庁は1月25日、ビッグモーター社(BM社)による自動車保険金不正請求への対応等に関して、損保ジャパンとSOMPOホールディングス(SOMPOHD)に対して保険業法に基づく業務改善命令を発出した。両社に対して、今回の処分を踏まえた経営責任の明確化や、営業優先ではないコンプライアンス・顧客保護を重視する健全な組織風土の醸成等を求める内容で、いずれも、3月15日までに業務改善計画を提出し、直ちに実行することを求める内容となっている。翌1月26日、損保ジャパンは東京都新宿区の本社で今回の処分を受けて記者会見を開き、再発防止の方向性を示すとともに、櫻田謙悟グループCEOの3月31日付での退任と、白川儀一損保ジャパン社長の1月31日付での退任を発表。櫻田氏の後任には、奥村幹夫グループCOOが、白川氏の後任には石川耕治副社長が就任することを明らかにした。

【経営管理が機能不全にあったと指摘】
この問題は、22年1月にBM社社員からの通報により同社の不正請求疑義が発覚したものの、損保ジャパンの社長を含む経営陣が、BM社において不正請求が行われている蓋然性が高いとの認識を有しながらも、十分な事実関係を追及せずに入庫再開を決定したこと等が明らかになったもので、金融庁はこれまで損保ジャパンとSOMPOHDへの立ち入り検査を進めてきた。
金融庁は、社長がこうした不適切な経営判断を行った原因として、社長就任から間もない中、社長の評価基準であるボトムライン(利益)が大きく落ち込む見込みとなっていた状況下で、トップライン(保険料収入)を確保したいとの意識や、他の損保会社にBM社という大口取引先を奪われてしまうことを危惧し焦燥感を抱いたこと、親会社であるSOMPOHDからの強いプレッシャーを感じていたこと等を指摘した。
また、入庫再開を決定した役員協議において、真偽が不明な情報を含む他社動向の説明に大半の時間をかけ、BM社の利益至上主義や過度に厳格な人事制度を運用している点など、組織的不正の発生につながり得る同社の企業文化を認識しながら説明を怠っていた点や、その上で、社長の入庫再開方針に対して、リスクを過小評価し、社長の決定に反対意見を述べることなく決定を受け入れていることにも言及。
役員協議には法務・コンプライアンス部担当役員は出席しておらず、透明性や客観性が確保されていない非公式の役員協議で重要な業務執行に関する意思決定を行っている点等から、同社の経営管理(ガバナンス)が機能不全の実態にあるとの認識を示した。
さらに、保険金サービス企画部、東京保険金サービス部およびモーターチャネル営業部は、22年1月にBM社による不正請求に関する情報を入手してから、同年5月に社長より報告を求められるまで、社長や経営会議等に対して一切の報告をしておらず、不正請求に関する情報を把握してから4カ月の間、重要な情報を社長に適時・適切に報告していない実態があったこと、さらには、BM社に対する入庫再開の意思決定において役員協議に招集されなかった法務・コンプライアンス部は、協議内容について事後報告を受けているものの、不正請求に係るBM社の自主調査結果の改ざんがあった事実を認識しているにも関わらず、結果的に不祥事件に該当しなければ経営陣への意見具申等、けん制機能を発揮することは不要と、コンプライアンス部門として極めて不適切な判断を行っている点についても問題点として指摘した。
入庫再開については、報道のあった22年8月29日に至るまで、親会社であるSOMPOHDに対して経緯等を一切報告しておらず、同年8月31日に開催された定例ミーティングにおいても、SOMPOHD経営陣に対して入庫再開の経緯を説明しているものの、自主調査結果の改ざんの事実を秘匿して報告していた。
さらに金融庁に対して、22年7月に調査部が任意の報告を行っている点についても、後ろめたい情報として触れないで済むならそれに越したことはないとの共通認識が経営陣において形成されているとの認識から、不正請求に関する自主調査結果がBM社により改ざんされたといった組織的な不正の存在を強くうかがわせる重要な事実関係については意図的に報告せず、社長等経営陣は、金融庁に対する報告の重要性や意義を軽視し、報告内容について何ら議論することなく承認していることなど、経営陣としての資質を問われかねない行動を取っていたと厳しく断じた。
金融庁は一連の問題に対して「損保ジャパンのBM社に対する管理・けん制態勢が無効化していた実態は、BM社に不正行為を惹起させる土壌(不正行為等を行い得る機会の存在)を生じさせるとともに、結果としてBM社の不正請求を助長し、顧客被害の拡大につながったことを考えると、損保ジャパンのBM社に対する一連の対応には重大な問題が認められると言わざるを得ない」と説明した。
SOMPOHDについては、金融庁が子会社経営管理態勢の十分性等について検証を行った結果、SOMPOHDおよびその経営陣は損保ジャパンの内部統制の実効性に着目した深度あるモニタリング態勢を整備しておらず、BM社の問題を認識した後も、同社に関する踏み込んだ実態把握や情報分析を行っていないなど、能動的なアクションが不足しており、損保ジャパンに対する経営管理が十分に機能していない実態が認められたと分析。
損保ジャパンにおいて、特に不芳情報が適時・適切に報告されない企業文化・風土が存在しているとした上で、SOMPOHDは同社の企業文化が子会社の企業文化に与えている影響等を含めてその原因について認識・確認しておらず、適切な企業文化等の醸成に向けた取り組みを十分に行っていない点も問題を拡大させた原因の一つとの見解を示した。

【損保ジャパンは1月26日に会見開き、新体制発表】
損保ジャパンとSOMPOホールディングスは業務改善命令を受けて、1月26日に記者会見を開いた。会見には、SOMPOホールディングスから、グループCEOの櫻田氏、グループCOOの奥村氏、社外取締役指名委員会委員長のスコット・トレバー・デイヴィス氏、グループCRO兼グループCIOの魚谷宜弘氏、損保ジャパンからは代表取締役社長の白川氏と代表取締役副社長の石川氏が出席した。
会見の冒頭、櫻田氏が「当社は、安心、安全、健康のテーマパークにより、あらゆる人が自分らしい人生を健康で豊かに楽しむことができる、そういう社会を実現するんだというパーパスを掲げているが、一連の事態はこのパーパスに反していたと言われてもやむを得ない。皆さまからの信頼を損なうような事態を引き起こしたことは痛恨の極みであり、深く反省している」と謝罪の言葉を述べた。
会見では、新体制について、櫻田氏の3月31日付での退任と、白川氏の1月31日付での退任を発表。櫻田氏の後任には、奥村氏が、白川氏の後任には石川氏が就任することを明らかにした。櫻田氏は退任後、SOMPOグループの監督、執行のいずれにも関与しないことを自ら明言した。
再発防止策の方向性については、実施済みおよび検討中の内容も含むものとして、経営責任の明確化と、それに伴う厳格な処分による経営体制の刷新や、損保ジャパンの保険金支払いプロセスと管理態勢の全面的な見直し、代理店管理態勢の強化、SOMPOHDの2線・3線ラインの態勢強化などを示した。今後については、全社を挙げて改善・再発防止に取り組むとともに、顧客保護を徹底し、信頼回復に努める方針で、業務改善計画を提出した際には、あらためてその内容を公表するとしている。