2022.08.02 損保協会 23年度税制改正要望を決定、国際課税ルール改定における対応を要請 異常危険準備金制度枯渇、消費税の課題解決求める

損保協会は7月21日、「令和5年度税制改正に関する要望」を発表した。自然災害の激甚化に伴う保険金支払増加により火災保険収支の大幅な赤字が常態化していること、新国際課税ルールの適用開始に向けて準備が進められていること、消費税引き上げが行われた一方で保険料が非課税である損害保険では「税の累積」「税の中立性の阻害」等の課題が存在することなどの課題を指摘し、①国際課税ルールの改定における対応②火災保険等に係る異常危険準備金制度の充実③損害保険に係る消費税制上の課題解決に向けて④確定拠出年金に係る税制上の措置⑤破綻保険会社から協定銀行への資産移転に係る不動産取得税の非課税措置の恒久化⑥地震保険料控除制度の充実⑦受取配当等の二重課税の排除⑧損害保険業に係る法人事業税の現行課税方式の継続―の8項目を要望した。
損保協会は要望の中で、地球規模での温暖化傾向と気候変動による影響の著しい拡大が続く中、ハリケーン・山火事・洪水・干ばつなどの異常気象による自然災害が世界各地で頻発し、日本でも近年、自然災害の激甚化・頻発化により国民生活が大きく脅かされており、2018年に甚大な被害をもたらした台風21号、24号および平成30年7月豪雨による支払保険金合計は1兆5000億円を超え、その翌年の19年にも、関東・東北地方を中心に140カ所の堤防決壊をもたらした台風19号が発生するなど、2年続けて支払保険金合計は1兆円超に上ったことを指摘。一方で、こうした自然災害の激甚化・頻発化を背景に保険金支払が増加したことで、火災保険の収支は大幅な赤字が常態化し、異常危険準備金残高も枯渇した状態となっていると説明した。その上で、「火災保険収支の構造的な見直しに業界を挙げて取り組んでいる一方、火災保険事業の持続可能性を守るためには収支の見直しに加え、同事業の安定的な運営を支える異常危険準備金残高の早期回復が必要不可欠」との考えを示した。
また、国内の損害保険会社が近年、リスクの地理的分散と事業の多角化を図る観点からグローバルな事業展開を進める中、国際課税の分野では、BEPS(税源浸食と利益移転)に関する経済協力開発機構(OECD)/G20の会合において新国際課税ルールの最終合意が実現し、23年度からの適用開始に向けて準備が進められていることを挙げ、「これに伴って国際課税ルールの見直しが行われる場合には、損害保険ビジネスの実態を踏まえ、正当な経済活動を阻害することがないよう、十分に留意いただきたい」と求めた。
加えて、19年10月に消費税率が10%へ引き上げられたことを挙げ、「保険料が非課税である損害保険では、『税の累積』や『税の中立性の阻害』等の課題が、税率引上げに伴って拡大していくことが懸念され、これらの課題を解消する対策の検討を進めていくことも必要」と指摘した。
23年度の税制改正各要望項目は次の通り。
1.国際課税ルールの改定における対応
国際課税ルールの見直しが行われる場合には、損害保険ビジネスの特性を踏まえ、正当な経済活動を阻害することがないよう、十分に留意すること。
2.火災保険等に係る異常危険準備金制度の充実
自然災害の激甚化・頻発化の中において、火災保険事業の安定的な運営を支える火災保険等に係る異常危険準備金制度について、より持続可能性の高い制度に拡充するべく、適用区分、積立率、洗替保証率等の制度の再検証の結果に基づき、次年度以降、適切な見直しを行うこと。
3.損害保険に係る消費税制上の課題解決に向けて
税率の引上げに伴って拡大する、損害保険に係る消費税制上の課題(「税の累積」・「税の中立性の阻害」)を解消する抜本的な対策を検討すること。
4.確定拠出年金に係る税制上の措置
確定拠出年金制度について、個人型年金および企業型年金の積立金を対象とした特別法人税を撤廃すること。
5.破綻保険会社から協定銀行への資産移転に係る不動産取得税の非課税措置の恒久化
破綻保険会社から協定銀行への資産移転に係る不動産取得税の非課税措置を恒久化すること。
6.地震保険料控除制度の充実
地震保険の更なる普及のため、保険料控除制度の充実策について検討すること。
7.受取配当等の二重課税の排除
受取配当等益金不算入制度について、「二重課税の排除」の観点から議論を行うこと。
8.損害保険業に係る法人事業税の現行課税方式の継続
既に収入金額を課税標準(100%外形標準課税)としている損害保険業に係る法人事業税について、現行課税方式を継続すること。