2017.11.15 金融庁「29年度金融行政方針」発表、「実質・未来・全体」重点に
金融庁は11月10日、平成29事務年度の「金融行政方針」を発表した。保険会社については、伝統的な国内保険市場の縮小が予想される中、長寿化やIT技術の進展などの環境変化に対応するため、経営上の重要な課題をテーマに、持続可能なビジネスモデルの構築や事業戦略について対話を行う。また、新たなリスクが出現する中で、これに応える新たな商品・サービスの開発に関して、前向きに対応するとした。資産運用・リスク管理の高度化に向けた対話や「スチュワードシップ責任」を果たすよう保険会社に促し、ガバナンスに懸念のある会社に対して、深度ある対話を実施するとともに、大手保険会社等の海外事業戦略の位置付け、人材確保、管理態勢などをモニタリングする意向を示した。
わが国の生産年齢人口が今後も減少を続けることで、伝統的な国内保険市場の縮小が予想され、収入保険料の量的拡大を前提とした現在の保険会社のビジネスモデルは、全体としては持続できない可能性がある。他方で、長寿化の進展やIT技術の進化、サイバーなどの新リスクの出現などに伴い、新たな保険ニーズが出てくる可能性がある。こうしたニーズの変化にいかに応えていくかは、保険会社の経営上の重大な課題であると指摘した。
平成29事務年度では、このような構造変化や環境変化に適切に対応していく観点から、長寿化の進展やIT技術の進化等の環境変化に対応した商品・サービスの提供、地方拠点における採算見通し等も踏まえた販売チャネル戦略など、経営上の重要な課題をテーマに持続可能なビジネスモデルの構築や事業戦略について対話を推進するとしている。
保険会社は、将来にわたり健全性を維持しなければならず、特に、わが国の生保各社は、伝統的に定額個人年金保険や終身保険に代表される「超長期・固定金利商品」を主力としてきたことで、諸外国の生保会社に比べて、より大きな金利リスクを負っているとの見方を示した。
その上で、どのような商品を顧客に提供していくか、どのようなリスクを取っていくかはあくまで各保険会社の経営判断だが、顧客利便とともに、商品提供に伴うリスクとそれに対する資本の状況も踏まえた経営戦略について、深度のある対話を行っていくとしている。
一方、保険会社が社会・技術の変化に伴う新たな商品・サービスの可能性に対応し、成功事例を作っていくことは、持続可能なビジネスモデルの構築につながり、新たな商品・サービスの開発に関しては、金融庁としても前向きに対応することを明らかにした。
また、生保会社の運用会社としての役割を重視し、保険負債の質の改善を視野に入れつつ、リスク管理と一体となった資産運用の高度化等の取り組みについても対話を行う一方、併せて保険契約者に資する資産運用を行う「スチュワードシップ責任」を適切に果たすよう促していくとも述べた。
各社の実務において資産運用の成果等を適切に契約者に配当・還元できる態勢となっているか、あらためて実態を把握する考えを示した。
金融行政の目標としては、①金融システムの安定/金融仲介機能の発揮②利用者保護/利用者利便③市場の公正性・透明性/市場の活力―のそれぞれを両立させることを通じ、企業・経済の持続的成長と安定的な資産形成等による国民の厚生の増大を目指すことであることを明確にした。
「金融当局・金融行政運営改革」では組織文化(カルチャー)の変革、ガバナンスの改革、組織の見直し、検査・監督のあり方などを見直し、改革を実施する。
また、「検査・監督のあり方」としては、形式から実質へ、過去から未来へ、部分から全体へと広げるために、検査・監督基本方針を策定し、チェックリストによる機械的確認(ルールベースの検査・監督)から、ルールとプリンシプルのバランスを重視し目標にさかのぼり重要問題を議論。金融機関が顧客にとって優れたサービスの提供の競い合い、ベストプラクティスを追求するように促すとしている。さらに、顧客が金融機関を主体的に選択できるよう、金融機関の取り組みの「見える化」を進め、金融機関の経営の健全性が将来においても確保されるよう「動的な監督」に取り組むことや「悪しき裁量行政」に陥らないよう外部からの提言・批判が反映される仕組みを整備すると述べている。