2025.01.29 金融庁 モーター代理店2社に行政処分 経営責任明確化など業務改善命令発出 経営管理態勢、保険募集管理態勢等で複数違反
金融庁は1月24日、関東財務局からトヨタモビリティ東京㈱(東京都港区、佐藤康彦社長)に、東海財務局から㈱グッドスピード(愛知県名古屋市、加藤聡社長)に、保険業法に基づく業務改善命令がそれぞれ発出されたことを公表した。モーター代理店である両社に対して立入検査を実施したところ、経営管理態勢、保険募集管理態勢等で体制整備義務、適切な比較推奨販売、個人情報の管理などで複数の違反が確認されたことから、経営責任の所在の明確化などを求めた。
トヨタ自動車の100%子会社で、新車・中古車販売、点検・整備および板金塗装業を行う他、保険代理店を兼業するトヨタモビリティ東京は、2024年3月期の売上高が約4700億円に上り、都内に約220店舗を構え、従業員約7700人が働く国内最大手のカーディーラー。一方、中古車販売大手のグッドスピードは、子会社を含め全国約50拠点に700人ほどの従業員が働く兼業代理店。
金融庁によると、両社への立入検査の実施により、経営管理態勢、保険募集管理態勢等についてさまざまな問題が発生していることが確認され、保険業法第294条の3第1項等に規定する体制整備義務や、特定の保険商品を推奨販売する際の推奨方針・理由の説明について保険業法第294条第1項および保険業法施行規則第227条の2第3項第4号ハに規定する情報提供義務、また、トヨタモビリティ東京の個人情報の管理については個人情報の保護に関する法律第23条に違反すると説明。保険業法第306条に基づく業務改善命令として、業務の健全かつ適切な運営を確保し、保険契約者の保護を図るため、保険業法第305条第1項の規定に基づき実施した立入検査において確認された保険金不正請求疑義事案を含む不適切事案について全容把握のための調査を実施し、調査結果を踏まえた真因分析を行った上で、①今回の処分を踏まえた経営責任の所在の明確化②コンプライアンス・顧客保護を重視する健全な組織風土の醸成③適切な保険募集管理態勢の確立④適切な顧客情報管理態勢及び苦情等管理態勢の確立⑤①~④を着実に実行し、定着を図るための経営管理(ガバナンス)態勢の抜本的な強化―を求めた。また、これらに係る業務の改善計画を2025年2月21日までに提出し、ただちに実行することや、同改善計画について、実施完了までの間、3カ月ごとの進捗および改善状況を翌月15日までに報告すること(初回報告基準日を同年5月末とする)―も併せて発令した。
トヨタモビリティ東京については、経営陣が保険事業に関して、「本業ではない」との意識が根底にあるとし、経営管理態勢(ガバナンス)では、保険業法等に精通した十分な人的リソースを配賦していないほか、人材育成も行っておらず、組織のリスクマネジメントにおける「3ラインオフディフェンス」の取り組みが形骸化している等、内部統制上、重大な問題・欠陥があると指摘。また、保険募集管理態勢についても、「2ライン」である保険推進室において、「1ライン」の営業現場の監視に必要な権限や人的リソースが不足し、保険募集管理に必要な保険募集人への教育や管理、モニタリングおよび苦情管理を行えない状態が続いているとして、①保険推進室担当役員は、推奨保険会社を選定して商品を推奨する場合に義務付けられる顧客に対する推奨理由を店舗ごとに定めていない②多数の保険募集人が推奨保険会社の商品を推奨する理由を説明していない他、保険募集人が個々に創作した推奨理由を説明している③保険推進室担当役員は、営業現場をモニタリングする保険推進室に必要な人員・人材の配置や調査権限の付与を行っておらず、保険推進室は保険募集コンプライアンスの観点でモニタリングを実施していない④保険推進室は、保険募集人が実施すべき具体的な募集プロセスや「1ライン」の管理者による管理方法を定めておらず、保険募集人が重要事項の説明を網羅的に行っていない、といった実態が認められた―とした。
さらに、顧客情報管理態勢については、同社経営陣および担当部署が法令等で求められている各種安全管理措置を講じておらず、個人情報を適切に管理するために必要な体制整備を怠っていたことから、「データ管理が機能不全に陥り、データの一部が外部に漏えいしている」「担当部署が長期にわたり、損害保険会社の社員に対し、オンラインストレージで保有している個人データ(2万3000件)へのアクセス権限を与えている大規模な情報漏えい事案が認められた」「個人のUSBで、トヨタモビリティ東京の社員等の個人データ(9489人分)を外部に持ち出し、USBを紛失する漏えい事案等不適切な事例が複数認めれた」といった問題を指摘している。
金融庁は今回の行政処分に至る経緯について、旧ビッグモーター社による保険金不正請求事案などを受けて昨年実施された「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」の報告書で示された「保険代理店の保険募集管理態勢の再構築や実効性の確保」「金融庁および財務局によるモニタリングの強化」といった指摘を踏まえ、また、トヨタモビリティ東京とグッドスピードで近年、不適切な保険金請求事案や不正車検、不正会計などが発覚しており、ガバナンスに問題がある可能性が高いとの認識の下、保険代理店としての体制整備状況を確認する必要性からリスクベースの検査を実施したところ、前述の違反が確認されたことにより、改善計画の策定・実行を求めたと説明している。
同有識者会議での提言を踏まえ、昨年9月から12月にかけて行われた金融審議会「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」の報告書では、旧ビッグモーター社を念頭に、規模が大きな乗合代理店のうち保険金関連事業を兼業する事業者を「特定大規模乗合保険募集人」と新たに定めて上乗せ規制を課すことが提言されている。同案が制度化された場合、今回処分を受けた2代理店も該当する可能性があり、金融庁による今後の保険監督の動きにより注目が集まりそうだ。