2024.12.10 金融庁 金融審・損害保険業等に関する制度等WG第5回 事務局から報告書案提示 規制見直しの大筋固まる 大規模乗合代理店への体制整備義務強化
金融庁は12月5日、中央合同庁舎第7号館およびオンラインで金融審議会「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」(座長:洲崎博史同志社大学大学院司法研究科教授)の第5回会合を開催した。事務局から年内に取りまとめ予定の報告書案が提示され、一連の不正事案を受けて始まった「顧客本位の業務運営の徹底」や「健全な競争環境に実現」に向けた規制見直しの大筋が固まった。出席した各委員・オブザーバーからは報告書案に示された各論点について新たに意見が表明された。また、今年に入って明るみになった代理店出向者による情報漏えい問題についても報告があった。
報告書案は全体で20ページほどになり、前半の「顧客本位の業務運営の徹底」では、①大規模乗合代理店に対する体制整備義務の強化等②乗合代理店における適切な比較推奨販売の確保③保険代理店に対する保険会社による適切な管理・指導等の実効性の確保等④損害保険分野における自主規制のあり方の整理―について、後半の「健全な競争環境の実現」では、①保険仲立人の活用促進②保険会社による保険契約者等への過度な便宜供与の禁止③企業内代理店のあり方の見直し④火災保険の赤字構造の改善等―について記載されている。
今回の議論の発端となった保険金不正請求事案が生じた背景の一つとされる「大規模乗合代理店」への体制整備義務の強化については、現行の保険業法で事業報告書の提出等が義務付けられている規模が大きな乗合代理店「特定保険募集人」のうち、保険会社等から受け取る手数料収入額を定量的基準として一定規模以上の代理店を「特定大規模乗合保険募集人」と定め、①営業所または事務所ごとに、法令等を遵守して業務を行うための指導等を行う「法令等遵守責任者」を設置②本店または主たる事務所に法令遵守責任者を指揮し、法令等を遵守して業務を行うための指導等を行う「統括責任者」を設置③法令等遵守責任者および統括責任者には、一定の資格要件を求めることとした上で、そのための試験制度を新設④顧客本位の業務運営に基づく保険募集を確保する観点から、保険募集指針を策定・公表・実施⑤苦情処理・内部通報に関する体制を整備⑥独立した内部監査部門を設置する等、内部監査体制を強化⑦保険会社が保険代理店に係る不祥事件届出書を当局に提出した場合、同保険代理店自身が同不祥事件届出書に係る情報を他の所属保険会社等に通知―などを求めた。
また「特定大規模乗合保険募集人」のうち、保険金不正請求事案を引き起こした旧ビッグモーター社のような保険金関連事業を兼業する事業者についてはさらに、①不当なインセンティブにより顧客の利益または信頼を害する恐れのある取引を特定した上で、②不当なインセンティブを適切に管理する方針の策定・公表、③不当なインセンティブにより顧客の利益または信頼を害することを防止するためのその他の体制整備義務(修理費等の請求に係る適切な管理体制の整備等)―を課す案が記載された。
一方、大手損保による企業保険分野での保険料調整行為事案に関する議論の中で活用促進が期待されている保険仲立人については、「媒介手数料の受領方法の見直し(従来の保険会社からだけでなく、顧客からも受領できるようにする)」「保証金制度の見直し(保証金の最低金額を現行の2000万円から1000万円に引き下げる)」「保険代理店等との協業の見直し(保険仲立人と保険代理店等の協業を認める)」「海外直接付保における保険仲立人の活用」「保険仲立人の不祥事件の届出義務の新設」が盛り込まれた。
損害保険会社における企業向け火災保険の赤字構造の改善等については、当局による「企業向け損害保険商品のモニタリングの高度化」や損害保険料率算出機構による「火災保険参考純率の算出方法の見直しの検討」「参考純率算出および標準約款作成の対象となる保険種目の拡大」が示された。
企業内代理店のあり方については、前回の各委員・オブザーバーの意見を踏まえて、本会合で事務局が具体的な対応の方向性をあらためて提示。①特定契約比率の見直し(経過措置を廃止し、「特定者」の対象範囲を拡大する方向で検討するとともに、特定契約比率の計算方法を簡略化する)②特定契約比率の適用除外(「保険代理店として十分な実務能力を有し、親会社等から自立が図られていること」や「親会社等を保険契約者とする保険契約に係る保険料の実質的な割引が生じていないこと」の要件を満たす場合に特定契約比率の適用除外とする枠組みを検討する)③保険仲立人への特定契約比率の適用(原則として引き続き特定契約比率規制の対象とする)―といった対応の方向性について、後に出される各委員などの意見を踏まえて報告書案に記載することにした。
この他事務局からは、昨今発覚した情報漏えい事案の現状について報告があった。同事案は大きく二つのケースに分かれており、一つは今年4月に大手損保で明らかになったもので、自動車ディーラーを本業とする乗合代理店の社員が、各拠点へ保険契約の更新等の対応を指示するために契約情報をメールで送付する際、他の保険会社分も含めて全保険会社へ送付したため、他社の契約者情報が閲覧可能な状況になってしまったもの(代理店事案)。この問題を受けて、大手損保4社などで調査が開始され、その過程で判明したのがもう一つのケースで、保険会社からの出向者が出向先の乗合代理店から他保険会社の契約者情報を出向元に送付していた(出向者事案)。
情報漏えい事案については、生保会社でも判明しており、現在、生損保各社でその事実関係の把握や真因分析等の検証が進められている。事務局では、「引き続き実態の把握を進めるとともに、事実関係や真因分析等の検証を実施し、検証を通じて問題が認められた場合には、法令等遵守や契約者保護等の観点から厳正に対応していきたいと考える」とした。
事務局から一通り説明が終わった後、各委員・オブザーバーがそれぞれの論点について意見を表明して会合は終了した。今後、報告書案は本会合で出された意見を踏まえ、12月13日開催予定の次回会合で再度議論された後、本報告書としてまとめられる予定。