2024.09.26 損保協会 定例会見 政策保有株式、出向者派遣に係る指針策定 テリトリー制の課題指摘に「真摯に受け止め検討」
損保協会は9月19日、定例記者会見を行い、城田宏明協会長が協会長ステートメントの内容を発表した他、記者からの質問に回答した。今後の損保業界の信頼回復に向け、健全な競争環境の実現、保険代理店・募集人の業務品質の向上などに一層注力するとし、具体的な取り組みとして、「政策保有株式に係るガイドライン」「損害保険会社からの出向者派遣に係るガイドライン」をそれぞれ策定したことなどを報告した。また、代理店が特定の損保1社の保険を顧客に推奨する「テリトリー制」について記者から問われ、顧客に最適な保険商品を提供する品質の担保としての機能があるとの認識を示した上で、「その構造が情報漏えい、過度な本業協力などを生み出しやすい環境をつくり出したとの指摘については、真摯に受け止め検討を深める」と回答した。(2~3面に協会長ステートメント全文を掲載)
冒頭、城田協会長は7月の大雨、日向灘を震源とする地震、台風10号等、日本各地で発生している自然災害の被災者にあらためてお見舞いの言葉を述べた。
続けて、5月以降、一部の会員会社において確認されている情報漏えい事案について、保険契約者をはじめとする関係者に謝罪した。また、6月の協会長就任会見で報告した、一部の会員会社における保険会社と乗合代理店間のメール連絡による個人情報の漏えい問題について、その後、保険会社から保険代理店への出向者が、出向先内の他保険会社の契約情報などを出向元に流出させていたことも明らかになったと報告した。これらの情報漏えい事案については、金融庁から報告徴求命令を受けた会員会社が、事実関係、顧客への対応方針、真因、再発防止策などについて、8月末に金融庁に報告を行ったとした上で、同協会としても会員会社に対して、情報漏えいの実態調査や再発防止の徹底を要請したと述べた。
その後、同協会長は、今後の損保業界の信頼回復への取り組みについて、①健全な競争環境の実現②保険代理店・募集人の業務品質の向上③企業向け保険やリスクマネジメントの理解浸透④不正請求への対策強化⑤コンプライアンスのさらなる強化―の5点に注力すると述べた。
①健全な競争環境の実現については、会員会社の規律ある行動を一層促すことなどを目的に、「政策保有株式に係るガイドライン」「損害保険会社からの出向者派遣に係るガイドライン」をそれぞれ策定し、同日公表したと報告した。また、不適切な便宜供与に関する基本的な考え方をより早期に業界内に示すため、「募集コンプライアンスガイド(追補版)」を策定したと説明した。
②保険代理店・募集人の業務品質の向上については、中立的な第三者が公正かつ適正に評価できる仕組みの構築に向けて、同協会内に構成メンバーを大学教授、弁護士、消費者団体とする他、オブザーバーを金融庁、日本損害保険代理業協会とする「代理店業務品質評価に関する第三者検討会」を設置し、第1回検討会を9月25日に開催することなどを発表した。
③企業向け保険やリスクマネジメントの理解浸透については、顧客企業に保険やサービスを検討してもらう際の前提知識となる、リスクマネジメントの必要性や損害保険の位置付け、保険の原理原則等に関する基礎的な情報をまとめた業界共通の企業向け案内ツール「リスクマネジメントと損害保険」を作成し、7月22日にリリースしたと報告した。
④不正請求への対策強化については、自動車修理の透明性確保に向けた取り組みとして、3月に国土交通省が公表した「車体整備の消費者に対する透明性確保に向けたガイドライン」を基に、修理工場向け写真撮影手引を作成したことなどを紹介した。
⑤コンプライアンスのさらなる強化については、損害保険事業総合研究所本科講座において、独占禁止法をテーマとする特別講義を7~8月にかけて合計6回実施したと報告した上で、今後は10月に会員会社向けに「独占禁止法コンプライアンス・セミナー」の実施を予定しているとした。
この他、第10次中期基本計画に関する取り組みとして、地震保険の重要性を伝えるために8月からタレントの香取慎吾さんを広報キャラクターとして起用し広報活動を展開していることや、地域の防火・防災力強化等を目的に行っている軽消防自動車、高規格救急自動車の全国の市町村や離島への寄贈において、今年度も11台の寄贈を決定したことなどを報告した。
最後に、協会長に就任してから3カ月が経過し、数々の業界課題に対し、会員各社と共に強い危機意識を持って信頼回復に全力で取り組んできたと述べた上で、「この歩みの中で確認された情報漏えい事案に対して、真摯に向き合い、正すべきことを正さなければならないのは自明だ」と述べた。
その後、城田協会長が記者からの質問に回答した。
6月に損害保険料率算出機構が発表した自動車保険の参考純率の引き上げについては、会員各社の保険料率改定についてはコメントする立場にはないとした上で、「東京海上日動個社においては雹災などの自然災害の増加、またインフレの影響による修理工賃等の増加や衝突被害軽減ブレーキ等の先進運転システムの導入といった車両の高性能化に伴い、支払保険金が増加傾向にある。こうした外的要因は今後も継続する可能性があり、引き続き事業費の抑制や適正な支払体制の強化など、不断の経営努力を行って適切に保険料に反映していく必要がある」と述べた。
代理店が特定の損保1社を指定し、その会社の保険を勧奨する「テリトリー制」については、保険商品サービスの知識を高め、顧客に最適な保険商品を提供する、その補償品質の担保としての機能があるとの認識を示した。その上で「保険会社1社の社員が代表してテリトリーを任されることが、保険会社社員がその代理店の保険契約の更新対応や事務の対応を代行するといった二重構造につながっており、情報の漏えいなどが発生しやすい環境を生み出した他、過度な本業協力などによって比較推奨販売をゆがめたと考えている。比較推奨販売における課題や情報漏えいの問題自体はテリトリー制固有のものではないものの、問題が発現しやすいとの指摘については真摯に受け止めて検討を深めていきたい」と回答した。