2024.08.05 損保協会 「令和7年度税制改正要望」公表 重点要望項目に「異常危険準備金制度の充実」 火災等積立率12%への引上げ要望

 損保協会は7月16日、「令和7年度税制改正要望」を取りまとめ公表した。「重点要望項目」は「火災保険等に係る異常危険準備金制度の充実」で、自然災害が激甚化・頻発化する中、火災保険事業の安定的な運営を支える火災保険等に係る異常危険準備金制度について、①火災等の積立率の引き上げ(10→12%)と貨物等の現行の積立率の維持(6%)②取崩計算単位など残高管理等の基礎となる適用区分の一本化と取崩基準損害率の50%から55%への引き上げ③洗替保証率の30%から40%への引き上げ(本則積立率となる残高率も同様に引き上げ)―を求めた。
 令和7年度の税制改正要望項目は、①火災保険等に係る異常危険準備金制度の充実(重点要望項目)②国際課税ルールの改定における対応③損害保険に係る消費税制上の課題解決に向けて④破綻保険会社から協定銀行への資産移転に係る不動産取得税の非課税措置の恒久化⑤確定拠出年金に係る税制上の措置⑥地震保険料控除制度の充実⑦受取配当等の二重課税の排除⑧損害保険業に係る法人事業税の現行課税方式の継続―の8項目で、②、③、⑤~⑧は令和6年度税制改正要望から、④は令和5年度税制改正要望から引き続き同様の要望項目・内容となる。
 2018年および19年に発生した自然災害による保険金支払が2年続けて1兆円超に上るなど、近年の自然災害の激甚化・頻発化の影響により、自然災害リスクを補償する火災保険の収支は大幅な赤字が常態化している。加えて、近年の日本を含めたグローバルな自然災害の増加傾向等の影響により再保険市場はハード化している。こうした状況下、同協会では火災保険収支の構造的な見直しに業界を挙げて取り組んでいるが、火災保険事業の持続可能性を高めるためには、収支の見直しに加え、火災保険事業の安定的な運営を支える異常危険準備金残高の早期回復が必要不可欠だとしている。
 火災保険等に係る異常危険準備金の制度は、令和4年度(22年度)税制改正において、①火災保険、風水害保険(「火災等」)②貨物保険、運送保険、建設工事保険、動産総合保険(「貨物等」)③賠償責任保険―の3区分に分割され、積立率は、①が10%(うち8%は経過措置)、②が6%(うち4%は経過措置)、③が2%(本則のみ適用)となった。しかし、同協会は「22年度以降、業界として新制度の機能性や同制度下における準備金の残高推移を検証してきた結果、直近の実績ならびに将来見通しにおいて、いまだ十分な準備金残高を確保できるとはいえない状況にある」とし、自然災害の激甚化・頻発化の中で、火災保険事業の安定的な運営は、国民生活とわが国経済の安定の観点から重要な課題であり、より制度の効果を高める観点から、適用区分や積立率、洗替保証率等に関して次の見直しを行うことを要望するとした。
 まず、前述の区分①火災等に係る積立率については、激甚化・頻発化する自然災害に対応する上で必要な準備金残高を早急に確保する観点から、現行の10%の積立率(24年度で期限切れとなる経過措置部分を含む)を12%に引き上げることを要望。また、区分②貨物等に係る積立率についても、24年度までの経過措置期限切れ後の本則積立率2%では残高の充実が図れないため、現行の積立率6%の維持を要望するとした。
 また、令和4年度税制改正では、積立率に加え、取崩計算単位など残高管理等の基礎となる適用区分についても3区分に分割されたが、より制度の効果を高める観点からは、自然災害やサイバーリスクなどさまざまな巨大災害リスクに対する異常危険準備金を総合一体的に運用しリスク分散効果を活用することがより望ましいことから、取崩計算をはじめとする残高管理等では、その適用区分を一本化することを要望するとした。
 さらに、現行制度で、近年、十分な準備金残高の確保が困難となった要因の一つとして、積立を上回る取崩が恒常化している点が挙げられるとし、その原因として、取崩基準損害率(現行50%)が1895年の法制化以来見直されておらず、今日的には損害保険業界全体の火災保険収支等の実態に即していないと考えられることから、前記の通り残高管理等の適用区分を一本化した上で取崩基準損害率を50%から55%に引き上げることを要望するとした。
 最後に、残高の上限となる洗替保証率についても、巨大自然災害が連続して発生するリスクの現実性に鑑みて、十分な備えを維持する観点からは、現行の30%(業界全体で約7000億円水準)では十分とはいえない状況にあり、40%への引き上げが必要とだとした。また、積立率に関して、残高率が30%を超える場合には、本則積立率(2%)が適用されることとなっているが、これについても同様に40%への引き上げを要望するとした。
 同協会では、「これら異常危険準備金制度の一層の充実を図ることは、火災保険事業の持続可能性を高めるとともに巨大災害に対する保険金支払に万全を期すことであり、国民生活とわが国経済の安定に寄与するものと考える」と説明した。