2024.06.12 金融庁 「損害保険業の構造的課題と競争のあり方」で有識者会議報告書案 代理店に対する第三者評価の枠組み検討へ

―主な指摘事項―
・大規模代理店への指導の実効性確保
・代理店手数料ポイント制度の見直し
・代理店への過度の便宜供与の制限
・乗合代理店での適切な比較推奨販売
・保険金等支払管理部門の独立性確保
・共同保険のビジネス慣行の適正化
・政策保有株式の縮減/便宜供与適正化
・コンプラ上適切な営業推進態勢の構築
・リスクに応じた引受管理態勢の強化
・企業内代理店の立ち位置の明確化

金融庁は6月7日、第4回「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」(洲崎博史座長)を開催、第1回から第3回までの論議の結果をとりまとめた「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議 報告書(案)―我が国保険市場の健全な発展に向けて―」が事務局から示され、三浦知宏監督局保険課長が概要を説明した。各「メンバー」が報告書案について意見を表明、いずれも「これまでの議論が反映されており、おおむね異論なし」となり、今後は、所要の文言の修正等を洲崎座長に一任したうえで金融庁として報告書をまとめていくことになった。報告書(案)は、大別して「Ⅰはじめに」、保険金不正請求事案に対する「Ⅱ顧客本位の業務運営の徹底」、保険料調整事案に対する「Ⅲ健全な競争環境の実現」、「Ⅳその他の論点」「Ⅴおわりに」の5パートで構成される。
(1面~2面掲載。有識者会議メンバーは2面に掲載)

Ⅱ 顧客本位の業務運営の徹底
保険金不正請求事案について、報告書(案)ではその背景を論じるとともに今後講ずるべき取り組みとして以下1~5の5点が記載された。
1 大規模代理店に対する指導等の実効性の確保
代理店に対しては基本的に保険会社が指導等を行う仕組みとなっているが、大規模代理店との間では保険会社がそうした機能を発揮できず、代理店の品質向上が図られていなかったことが違法または不適切な募集行為が多数認められる一因となったと指摘。そこで今後、具体的な取るべき対応として、①損害保険会社から保険代理店に対する指導等が適切に行われるよう実効性を確保すべき②当局も損保会社による代理店に対する指導等の状況を立入検査を通じて見ていくなどモニタリングを強化する③損保会社による代理店に対する指導等に対する補完的な位置付けとして第三者評価の枠組みを設けることを検討する。特に大規模代理店等に対して有効に機能するような仕組みや、それ以外の代理店の指導等でも活用できる評価基準を検討し、評価基準や項目については、代理店等の関係者も含めて十分に検討する④損保協会で実施している試験制度や継続教育の高度化・厳格化⑤大規模代理店に対するより厳格な体制整備等を法令上の措置として求めること、法令上に根拠を持つ自主規制機関等を設立することも視野に入れて検討を継続することが望まれる―とされた。
2 代理店手数料ポイント制度
今般の事案における問題点として、規模・増収面を重視し、業務品質を適切かつ十分に評価していないことが、代理店に対して業務品質を軽視する不適切なインセンティブを与えていたおそれがあると指摘された。代理店手数料ポイントについて、保険代理店自身にその業務品質の向上に向けたインセンティブが働く仕組みを設け、消費者からも保険代理店の業務品質が確認できるような仕組みとすることが望ましいとされ、①「規模・増収」に偏ることなく「業務品質」を重視する②「業務品質」の具体的な指標について、損保会社の事務効率化ではなく、顧客にとってのサービス向上を認識するものとする等を検討すべきとされた。さらに、検討する際には①第三者評価の仕組みと連動させる②乗り合っている他の損保会社の手数料ポイントに追随することで、保険代理店における業務品質の向上に向けたインセンティブを阻害しないようにする③損保会社において業務品質評価割合の考え方を開示することや、特に大規模代理店については、損保会社別の手数表総額等の開示を行うなどの仕組みを設けることを検討することが望ましい―とされた。
3 保険会社による保険代理店等への過度の便宜供与等の制限
「(1)保険代理店等に対する便宜供与の適正化」では、便宜供与の見返りとして、その便宜供与を提供した保険会社の商品を推奨することが、顧客にとって適切な商品選択の阻害になり得ることを指摘。便宜供与のうち、自社の保険商品の優先的な取り扱いを直接的におよび実質的に誘引するもの、特にニギリやノルマと呼ばれるものは解消すべき旨が記載された。便宜供与を解消するために、①損保会社では、顧客の適切な商品選択を阻害し得る便宜供与を解消するための社内規定の策定等、実効的な体制を整理すること②損保協会では、ガイドラインの策定や各社のフォローアップ、損保会社社員等が利用できる通報窓口の設置③金融庁による適切な関与も必要―と記載された。
「(2)出向等の適正化」では、出向や業務の代行も過度なものであれば、顧客の適切な商品選択が阻害される恐れがあることを指摘、そこで顧客の適切な商品選択を確保する観点から、自社の保険商品の優先的な取り扱いを誘因するものを解消することに加え、そもそも保険代理店としての自立に向けた動きを阻害するものは解消する必要があると指摘された。各損保会社で出向等の適切性確保のための体制を整備することや、損保協会におけるガイドラインの策定、フォローアップの必要性について記載されている。
「(3)入庫紹介の適正化」では、適切な入庫紹介の実施を確保する観点から留意すべき点として、①顧客が自動車修理工場を選択できることに関する顧客への明確な伝達②顧客に自動車修理工場を紹介する際において原則として複数社を紹介することや、それらを紹介する理由の説明③顧客に紹介する自動車修理工場の業務の適切性や、品質の定期的な検証及び入庫紹介を受けた顧客の意見等も踏まえた入庫紹介の適切性を確認するための体制の整備―が記載された。
4 乗合代理店における適切な比較推奨販売の確保
今般の事案では、乗合代理店が顧客の意向に基づき適切に情報提供して比較推奨販売を行うという規定が不適切に運用されていたと指摘、比較推奨を歪めていた便宜供与解消に加え、改正金サ法の誠実義務の趣旨を踏まえた適切な比較推奨販売を行うことを求める必要性があるとされ、具体的に検討する点として、①乗合代理店における保険募集のシステムや募集形態等を踏まえた上で、保険募集人が顧客に対して比較推奨を行う場合においては、顧客の意向を踏まえ顧客の最善な利益を勘案しつつ、顧客にとって最適と考えられるものを比較または推奨提案し、比較に係る事項や提案の理由を分かりやすく説明する②保険募集人の提案する保険商品がどのような商品群から選定された上で提案されているのかなどについて顧客に対して、例えば、取り扱う保険商品の範囲、募集手数料に関する情報、乗り合っている保険会社のリスト等の情報を提供するといったことを検討すべき―とされ、さらに損保協会では顧客の利益につながるような情報や、保険商品選択の参考となる情報等をまとめたガイドブックを作成・配布するなど、保険リテラシーの向上に資する取り組みを充実させるべき―と記載された。
5 保険代理店の兼業と保険金等支払管理部門の独立性確保等
顧客の利便性や被害者救済機能の低下を防ぐ観点から、保険代理店の兼業自体を禁止するのではなく、兼業に伴う弊害を適切に管理することが合理的であると指摘、そうした弊害を防止するために、①保険代理店を営む企業において当該企業内における保険契約者等の利益を損ね得る事業を特定した上でその管理方針を策定・開示すること②損害保険会社において業務委託先である保険代理店を営む企業との関係を踏まえた利益相反に係る管理方針を策定し、その内容をウェブサイト等で公表すること―といった措置を行う必要があると記載された。また、損保会社における適切な保険金等支払管理体制を整備していくにあたっては迅速な支払いの重要性にも十分留意しつつ、①営業部門と支払管理部門間の不必要な情報連携の防止、営業部門から支払管理部門に対する介入の排除、アジャスター等の専門家の適切な配置や活用②不正な保険金の請求に関する適切な検証体制の確保―といった措置を行う必要性が記載された。

Ⅲ 健全な競争環境の実現
保険料調整事案について、報告書(案)ではその背景を論じるとともに、今後講ずるべき取り組みとして、以下1~3の3点が記載された。
1 競争環境の歪みの是正
「(1)共同保険のビジネス慣行の適正化」では、これまで行ってきた、営業担当者間で情報を交換しやすい状況下で低い保険料を提示した幹事会社に、他の損害保険会社が保険料を合わせるといった慣行を見直すべきと指摘された。その際には、例えば、シンジケートローンを参考にした方式や、各損保会社の保険料を統一せずに、共同保険を組成する方式を参考にすることが考えられるとされた。また、単独で保険契約を引受けられる場合であっても、便宜供与等の保険以外の要因を背景に、あえて共同保険を組成している慣行も是正することが重要とされた。
「(2)政策保有株式の縮減及び便宜供与の適正化」でも、適正な競争環境を阻害する要因となり得るような政策保有株式の保有や便宜供与は見直していく必要があるとされた。特に政策保有株式については、本来は政策保有目的で保有しているにもかかわらず、純投資に区分されるなどして、実質的に政策保有株式の保有が継続するといった、単なる純投資への看板の掛け替えが起こらないよう、金融庁が適切に監督することが重要であると記載された。
2 損害保険会社における態勢の確保
今般の事案では、各損保会社において独占禁止法に関する教育等が不足していたのみならず、第2線、第3線のけん制機能が働いていなかったこと、経営陣においては、ビジネスモデル・経営戦略等、コンプライアンスリスクやコンダクトリスクを含め、あらゆるリスクについて幅広く検討する必要があること、さらには、そもそものビジネスモデルの持続可能性の観点から、企業向け保険市場における火災保険の赤字を自動車保険を含むその他の保険種目の黒字で埋めてきていることが、損保会社の営業推進態勢や保険引受管理態勢に影響を与えてきたと考えられるところ、こうした状況を是正していく方策も、引き続き検討すべきであると指摘された。
「(1)営業推進態勢の確保」では、 今般の事案では、火災保険の赤字が常態化する中、営業部門に対するプレッシャーが強まっていた結果、リスクに応じた適正な保険料を提示することが困難になり、保険料調整行為を行うインセンティブが高まっていたこと、そのため、損保会社においては、コンプライアンス上、不適切なインセンティブとならない評価体系の策定等、適切な営業推進態勢を構築すべきであり、取締役会等の経営陣においても、自社の営業推進態勢が適切に確保されているか検証するべき、と指摘された。
「(2)保険引受管理態勢の確保」では、損保会社がリスクに応じた適切な保険料を提示するため、保険引受管理態勢を一層強化すべきであることが指摘され、例えば、①各商品における適切な単位での収支分析②再保険会社からの評価を踏まえたポートフォリオ全体の分析―等を実施することが望ましく、金融庁も、各損保会社の保険引受管理態勢が適切に確保されているかをモニタリングすることが重要とされた。
「(3)企業内代理店のあり方」では、企業内代理店が損保会社の代理店であり、かつ、顧客企業と密接な人的・資本的関係を有しているというように、立ち位置が不明確であることが独占禁止法の抵触リスクを高める要因となっていたこと、損保会社にとって指導を行いにくい存在であったこと、また、実務能力が低くても、グループ企業等への保険募集を行ってさえいれば代理店として存続していけることから、保険仲立人や他の代理店の参入の妨げになり、企業保険市場の競争環境に歪みが生じている恐れがあること―と指摘された。
企業内代理店においては、実務能力を高めて、自立した保険代理店として仲立人や他の代理店と公正な競争を行っていくことがそのあるべき姿であり、それを実現する観点から、まず、今般の事案の再発防止の観点から、企業内代理店の立場を明確化した上で、企業内代理店を介した情報共有に関する適切なルールを策定すること、企業内代理店の実務能力の向上を妨げるような業務の代行等は解消する必要があること、損保会社が企業内代理店に対して適切な指導等を行う体制をあらためて整備すること、損保協会において、業務代行等を解消するためのガイドラインの策定や、募集人資格制度の充実を図る取り組みを進めること、特定契約比率規制における一定期間後の経過措置の撤廃および「特定者」の対象範囲の拡大を検討すること、といった取り組みを進めるべきと記載された。さらに、企業内代理店の実務能力の向上が図られ一定程度自立が進んだとしても、その立場が不明確であることによる競争環境の歪みは残るため、 そうした歪みを是正するために、保険代理店の果たす役割に応じた手数料体系のあり方について検討を続けるべきこと、また、企業向け保険市場のさらなる発展を図る観点から、保険仲立人の活用を促進するための施策も併せて検討を続けるべきと記載された。

Ⅳ その他の論点
1 特別利益の提供の禁止
今般の事案において、保険加入を条件に車両価格を値引くなどの行為を行っていた旨が指摘されているほか、一部の代理店において保険契約を獲得するために、保険契約者間の公平性を損なうようなサービスが行われているとの指摘もあった。これらの行為が特別利益の提供に該当するか否かは個々の事案ごとに判断されるべきものであるが、国民の損害保険業界に対する信頼を回復する観点から、保険契約者間の公平性を確保するための対応を検討すべきとの指摘があった旨を記載した。
2 個人の保険契約者に対するリスクマネジメントのインセンティブ付け
例えば、自動車保険で事故による損害額の大きさにかかわらず3等級下がるという業界ルールを変え、少額事故であれば免責とするという選択肢を保険募集時に示すと同時に、保険料に損害額の多寡という視点を入れることで、保険契約者自身のリスクマネジメントの向上に資するとの指摘があった旨を記載。
3 企業のリスクマネジメント意識の向上
企業による主体的なリスクマネジメントの重要性が高まっており、保険の活用に当たっても、自社のリスクを正確に把握した上で、自社の事業の変化に応じて、その付保範囲等を定期的に見直していくことも重要であり、損保会社がそうした企業に対して積極的な支援を行っていくことや、高度なリスクマネジメントの体制を有する企業を対象とする規制の見直し等により、企業のリスクマネジメントに対する意識を高める取り組みを検討することも考えられるとの指摘があった旨を記載。
有識者会議メンバー
▽座長:洲崎博史(同志社大学大学院司法研究科教授)
▽メンバー:大村由紀子(三浦法律事務所弁護士)、金岡京子(東京海洋大学理事・副学長)、嶋寺基(大江橋法律事務所弁護士)、滝沢明子(デロイト・トーマツ・コンサルティング合同会社執行役員)、中出哲(早稲田大学商学学術院教授)、永沢裕美子(公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会代表理事副会長)、増山啓(三菱重工業㈱事業支援総括部事業リスク管理部リスクマネージャー)、山下徹哉(京都大学大学院法学研究科教授)
▽オブザーバー:日本損害保険協会、外国損害保険協会、生命保険協会、日本損害保険代理業協会、消費者庁、経済産業省、国土交通省(敬称略・五十音順)

【井林辰憲金融担当副大臣コメント】
今後、本日の議論を踏まえた必要な修正を行った上で報告書を取りまとめ、その後、報告書の内容を踏まえながら金融庁中心に制度や監督のあり方について、具体的な検討をしっかりと進めていきたい。保険会社の役割は、自然災害の頻発や激甚化、また日本企業を取り巻くリスクの多様化が進む状況において、各経済主体がリスクをとって新たなチャレンジを行うことを支えるという観点で、適切な保険商品・サービスの提供が不可欠であり、ますます重要になっていくものと認識している。損害保険業が本来持つ機能で国民の生活の安定および経済の発展に貢献できるように、損害保険会社が今般の事案を踏まえて、業務改善のための不断の取り組みを自ら行うことが重要だと考える。それは、報告書の「おわりに」の部分にも書かれていることだと思うし、これを実現することこそが本有識者会議の最後の答えだと思う。金融庁としてもそうした対応を監督し、しっかりフォローアップしていく。今後とも先生方のご指導を賜れますようにお願いを申し上げる。