2023.06.14 損保協会がIAIS市中協議に意見提出 「気候リスク監督ガイダンスパート1」、IAISの移行計画検討に懸念表明

損保協会は5月17日、保険監督者国際機構(IAIS)が3月16日から5月16日にかけて市中協議に付した「気候リスク監督ガイダンスパート1」に対する意見を提出したと発表した。

この市中協議は、昨年IAISが実施した既存の監督文書における気候リスクの捕捉範囲を評価し、基準の策定、および/あるいは監督実務に関する追加的ガイダンスの提供に向けた今後の作業の可能性を特定するための、ギャップ分析の結果を踏まえたもの。IAISは2023年から24年にかけて、さまざまな保険基本原則(ICP)に関連するガイダンスの限定的な変更について、計3回にわたり市中協議を行うとともに、補助的な監督文書を作成することを予定している。
今回の市中協議文書には、▽国際的な保険監督枠組みに気候リスクを位置付けるための、ICPイントロダクションの変更案▽ICP7コーポレートガバナンス、ICP8リスク管理および内部統制に関連する既存の補助的な文書の変更の要否▽監督ガイダンスに関係する気候リスク関連作業の全般―に関する質問が含まれている。
損保協会が提出した意見は次のとおり。
〈Q3〉
2021年版アプリケーション・ペーパーのパラグラフ42にALMが気候変動に影響を受ける、との記載があるが、削除すべきと考えることを再度指摘する。気候変動が金融資産に影響を及ぼす可能性、ひいては保険会社にとっての潜在的な運用リスクにつながる可能性について異論ないが、保険会社におけるALMは本来市場金利リスク管理の問題であり、気候変動とALMを直接関連付けることは不適切。また、気候変動に伴い信用リスク資産の信用スプレッド拡大やデフォルトが増加しているとの認識はない。
〈Q4〉
▽本ガイダンスのパラグラフ1(5行目)およびパラグラフ4(5行目)にmitigation(緩和)は登場するものの、adaptation(適応)への言及がなされていない。損害保険事業により直接的に影響を及ぼすのは後者と関連の深い物理的リスクと思われることから、adaptationの追加・言及も検討いただきたい。
▽気候変動リスクへの対応に関する検討には、国・地域ごとに異なる事情や課題が存在する。そのため、今後の市中協議で検討する課題やテーマにおいても、この点を十分に考慮いただきたい。
〈Q5〉
スムーズな脱炭素社会への移行において、移行計画は重要な要素であると認識している。
一方で、以下の理由からあえてIAISが移行計画の作業をする必要はないのではないか。
▽保険会社が、保険契約者の利益と保護に資する、公正で安全かつ安定した保険市場を維持・発展させ、世界の金融安定に貢献する役割を担っていることを踏まえると、移行計画は慎重に扱うべきテーマである。
▽移行計画策定のガイドラインについては、TCFDやGFANZなどすでに民間主導の取り組み・イニシアチブにおいて一定の目線が示されており、保険会社もその対応を進めている。
懸念する背景は以下の観点であり、十分な考慮を踏まえた検討を行うべきである。
▽移行計画の策定にあたっては、国・地域ごとの脱炭素に向けた道筋や、各保険会社の事業特性の違いなどを反映する必要がある。IAISが移行計画に関する検討を行う際、仮に例示として特定地域の考えやアプローチを記載した場合、それがベストプラクティスとされ、他のアプローチが許容されづらくなることを懸念する。
▽投融資の文脈においてトランジションファイナンスの定義が定まっていないのと同様、保険分野の移行計画の定義の理解には国・地域や保険会社によって差異があるものと認識している。このような状況において、保険引受を拙速に制限することのみが強調されるような移行計画が推奨されるガイダンス策定がなされることを懸念する。
▽上述のとおり、民間主導の取り組みやイニシアチブでの作業が進んでいるため、IAISによる検討・取組は、これら民間サイドでの取り組みを支援(contribute, promote等)するものであるべき。また、同検討・取り組みは民間サイドでの取り組みと整合し、ハイレベルでプリンシプルベースの内容とすることが重要である。
〈Q6〉
気候関連の取り組みとして、プロテクションギャップ・タスクフォースが自然災害によるプロテクションギャップの縮小に向けて議論し、レポートを作成していると認識している。自然災害によるプロテクションギャップ縮小に向けては、保険に対する意識やアベイラビリティ、インシュアビリティ等の保険カバー率を向上させる取り組みだけでなく、防災・減災といった損害そのものを減らすような取り組みも議論し、レポートにも記載することは有用だと考える。

損保協会は、IAISにおける国際保険監督基準策定の議論に積極的に参加しており、今後も市中協議等に際して本邦業界の意見を表明していくとしている。