2022.07.05 損保協会 白川協会長就任記者会見 安心安全、持続的な社会の実現で使命果たす、取組の中心は気候変動・自然災害、DX
損保協会は7月1日、6月30日開催の第11回定時社員総会で協会長に選任された白川儀一氏(損保ジャパン社長)の就任記者会見を実施した。白川協会長は所信表明を行い、「激動の時代の中、損害保険業界は『安心かつ安全で持続可能な社会の実現』と『経済および国民生活の安定と向上』に向け、着実に使命を果たしていく」と述べるとともに、とりわけ気候変動・自然災害とデジタル・トランスフォーメーション(DX)への対応を取り組みの中心に置く考えを示した。
白川協会長は今後の取り組み方針として、損保業界がリスクの担い手として顧客を支え、社会的役割を発揮し、持続的に成長することを目的に同協会が昨年度に策定した第9次中期基本計画(2021~23年度)の重点課題である「持続可能なビジネス環境の整備」「災害に強い社会の実現」「損害保険リテラシーの向上」の解決に向けて活動していくとし、2年度目に当たる本年度ではとりわけ、「気候変動・自然災害」「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」への対応を中心に取り組んでいくと説明。気候変動・自然災害では、日本代協や各自治体などと連携して地域の災害リスクに応じたハザードマップを国民に広く認知してもらうよう、普及啓発活動を行うほか、本年度以降、段階的に適用される高等学校の新学習指導要領で必修となる科目「地理総合」でハザードマップに関する学習が明記されることを受け、高校生の理解が進むよう支援を検討していくとした。さまざまな情報を一覧化した同協会のポータルサイト「そんぽ防災Web」や「ぼうさい探検隊」などの既存事業についても周知活動を推進すると述べた。
また、自然災害の増加に伴い、災害に便乗する悪質な修理業者によるトラブルが後を絶たないことから、関連省庁や自治体との連携強化、各種媒体を通じたさまざまな接点からの注意喚起、悪質業者が関与する事案をAIが検知するツールの導入など、一層の総合的対策を講じることで悪質業者の根絶に向けて対応していくとした。
気候変動・サステナビリティ関連課題の対応では、会員各社向けの勉強会を実施することなどにより、各社が経営課題と捉えてネットゼロへの取り組みが加速するよう促していくとした。また、国内外で策定されるサステナビリティ関連基準に対しても積極的に関与していくとして、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が実施しているサステナビリティ関連財務情報の開示要件案に対する市中協議について、同協会として意見を提出したことを明らかにした。
一方、DXについては、損保業界として顧客体験価値の向上や各社の業務効率化に向けた取り組みを今後一層推進していくと説明。自賠責保険の「異動・解約手続きの非対面化」および「保険料領収のキャッシュレス化」に向けた検討や、質権付き火災保険契約における金融機関の質権不行使の確認手続き省略化など、損保業界共通で必要な手続きや事務処理については同協会主導で標準化・共通化を加速させ、顧客や代理店の利便性向上に寄与していくとした。
また、社会が急速にDXを加速させると同時にサイバー攻撃が頻発し、公的機関や企業の被害が拡大していることを受け、同協会では中小企業におけるサイバー攻撃などのリスクの認識状況・対策状況等について調査等を行い、損保業界として対応力を向上させていくと述べた。また、顧客の防御態勢強化のための情報共有のコンテンツの拡充や、メディア等を活用した広報活動を通じてリスクに備える対策の普及促進を図るとともに、日本代協やその他関係団体と連携した取り組みを軸に、中小企業に対する啓発活動を展開していくとした。白川協会長は、「こうした活動を通じて、これまでの当協会の取り組みを加速し、かつ改善を重ねていくことで、社会のレジリエンスを高め、全てのステークホルダーへの貢献を目指していく」と述べた。
この後、記者との間で質疑応答が行われた。日本経済の今後の見通しについては、一般論として、急激な為替の変動によって実体経済や投資環境に混乱が生じることがないことを望むとした上で、円安による物価上昇が損保業界に与える影響として、実体経済において短期的にはエネルギーや生活必需品、中長期的には可処分所得の減少による耐久財や住宅の購入抑制につながり、「物やサービスの流れが滞れば損害保険付保の必要性も低下し、国内損保市場に対してマイナスの影響が出てくる可能性がある。一方で、今の円安水準が続いていけば外国人旅行者にとってはメリットが大きく、遠くない将来に来日旅行者によるインバウンド需要が再燃すれば、国内経済の活性化につながり、それが国内損害保険業界にプラスになると考えている」と述べた。
また、国内の中小企業マーケットでサイバー保険の普及が進まないことについての質問では、同協会が2019年からサイバー保険特設サイトを設けて企業に与える影響やサイバー保険の概要などについて中小企業での認知度向上を図っているが、企業側がサイバーリスクを自分ごととして認知してもらう必要があるとした上で、「例えば日本代協と連携して代理店の皆さまの力をお借りし、中小企業に『自社にもサイバーリスクが発生し得る』といったことを認知してもらう活動を併せ持つことによって、最終的にサイバー保険の付保率が上がっていくと思っている。自社のみならずサプライチェーン全体への影響の大きさを考えると、サイバーリスクは中小企業にとっても非常に大きなリスクであり、協会長としてもサイバー保険は普及していくべきだと考えている」と回答した。