2021.04.22 生保協会定例会見 営業職員の管理で報告書公表、好事例共有し対応の底上げ図る

 生命保険協会の根岸秋男協会長は4月16日、東京都千代田区の同協会会議室で定例会見を開き、同日、高齢社会における認知症に起因する課題の解決に向けた提言書を公表したことと、高校生の保険教育推進のためのモデル授業動画を公開したことを報告した。また、生保各社を対象に実施した営業職員チャネルの管理態勢に関するアンケートの結果についても併せて報告し、各社から寄せられた取り組み事例のうち、好事例と思われる事例を数多く記載した報告書を作成したことについて「報告書を読み取った各社が気付きを得ることによって、業界全体として対応の底上げを図る狙いがある」とその趣旨を説明した。この他会見では、次期協会長に住友生命の高田幸徳社長の内定を報告した。

 会見の冒頭で根岸協会長は直近の新型コロナウイルス感染症への対応状況について報告した。生保業界全体では、3月末までに死亡保険金と入院給付金を合わせて13万2041件、約481.6億円の保険金を支払っていることを紹介した上で「昨年末以降の感染者数増加に伴い、3月についても保険金等の支払いが増加しているが、生保会社の収支に与える影響は限定的であり、保険金の支払いに問題が発生するような状況ではないので安心してほしい」とした。
 続いて、認知症に関する苦情や相談内容等を参考に、生保業界における認知症に起因する課題を整理した上でその解決に向けた方策を検討した提言書「超高齢社会への対応―認知症に起因する課題の解決に向けて―」を同日付で公表したことを報告した。
 認知症に関する顧客の声を分析し、業界として対応すべき課題を整理し、それらの課題に対する業界対応や顧客への啓発等を提言書という形でまとめたもので、例えば、「認知症になった家族が生命保険に加入しているか分からない」という課題の解決に向けて、契約者の判断能力が低下した場合などに家族が契約の有無を照会できる「業界横断の契約照会制度」を創設するという方策を検討(21年7月制度開始予定)したことなどが掲載されている。今後は行政や消費者団体との対話の機会に提言書を紹介していく予定だと説明した。
 次に、同日、高校生向けの保険教育推進のためのモデル授業動画を公開したことを報告した。22年度から新しい学習指導要領に基づく高等学校での保険教育が開始されること、また、成年年齢の18歳への引き下げも予定されていることを踏まえた高校生向けの保険教育推進のためのモデル授業動画で、社会保障制度や保険に関する高校生向けの教材を用いながら、保険教育授業のポイントを教員向けに解説したものとなっている。
 動画は、社会保障や金融・保険教育に関する情報を掲載した専用ポータルサイト「金融・保険に関する学習情報サイト」でストリーミング形式(YouTube)で閲覧できる。同協会では、今後、県の教育委員会や金融広報委員会、公民科の研究団体等に、動画を参考にした保険授業の実施に向けて働き掛けていく方針だ。
 最後に、営業職員チャネルの管理態勢に関するアンケート結果を取りまとめた報告書「『顧客本位の業務運営』の高度化に資する営業職員チャネルにおけるコンプライアンス・リスク管理に関するアンケート」について説明した。
 同報告書は3部構成で、「Ⅰ.はじめに」では、アンケートの趣旨や主なアンケート項目について、「Ⅱ.結果と考察」では、アンケート項目ごとの各社からの回答結果と、それを受けての考察について詳細に記載されている。「Ⅲ.総括と今後の対応」では、今回のアンケート結果を踏まえた協会としての総括と、会員各社や同協会の今後の対応について記載されている。
 根岸協会長は、アンケートの趣旨について、営業職員チャネルにおけるコンプライアンス・リスク管理に関する体制や取り組み状況の他、コロナ禍におけるリモート環境での勤務の普及といった最近の動向を踏まえた取り組み等について会員各社から収集し「顧客本位の業務運営」にかかる個社と業界取り組みの一層の高度化につなげることを目的としたものだと説明。
 アンケートの対象は日本国内で営業している全ての生保会社42社ではあるものの、報告書では、そのうち営業職員チャネルがあると回答した20社について、取り組み状況等を取りまとめている。
 アンケートの主な項目は、会員各社の取り組みを全般的・網羅的に把握する観点から、金融庁が公開している「コンプライアンス・リスク管理基本方針」の構成・整理を参考としている。
 回答の一例として、「営業成績等の優秀者に関する取組み」については、「ほとんどの社では営業職員に対する活動管理やコンプライアンスに関する教育・研修等において、営業成績等によって営業職員への対応に差異を設けず、全ての営業職員に対して同様にコンプライアンスの徹底を求めている」との回答だったものの、中には「営業成績等の優秀者に対して活動報告を免除していた」「不適正事象の(予兆)把握について、一部、営業職員の所属によって取り扱いに差異があった」等、対応が不十分だったと回答した社もわずかに見られたと述べ「こうした社においては、改善に向けた具体的な対応が求められる」との見解を示した。
 報告書の総括としては、ほとんどの社において、営業職員管理にかかる基本的な態勢整備がなされていることが確認できたとした上で「ただし、コンプライアンス・リスク管理の態勢は一度構築すれば終わりというものではなく、その高度化に向けて、また実効性の確保に向けて、経営環境や社会からの期待の変化などをしっかりと踏まえながら不断に取り組んでいくことが重要」との考えを強調。同日開催された理事会では、報告書の内容を踏まえ、営業職員チャネルにおけるコンプライアンス・リスク管理の高度化に向けた申し合わせを行ったことも明かした。
 質疑応答では、記者からの「第一生命の元社員による金銭の不正取得事案は個社の問題なのか、業界の問題なのか」といった質問に対して「当該社の事案は特異な事案であり、業界に共通する課題といったような認識は今回のアンケートの結果として持ち合わせていない」と回答。
 自主ガイドラインではなく、アンケート結果として取りまとめた理由については「今回のアンケート結果を踏まえると、ガイドラインの策定といった画一的な対応を行うよりも、各社の取り組み事例を数多く共有することで、自社の実態や状況を前提に、いかに自らの取り組みを高度化させることができるのか、そうした気付きや刺激を与えることの方が効果的だと考えた」と語った。