2019.11.06 金融審・市場WG 「顧客本位の業務運営のあり方」テーマに さらなる定着目指し議論開始

 今年6月に報告書「高齢社会における資産形成・管理」をまとめた金融審議会「市場ワーキング・グループ」(座長:神田秀樹学習院大学大学院法務研究科教授)が、10月23日第25回の会合を開き、今後「顧客本位の業務運営のあり方」で議論していくことになった。▽金融機関の「顧客本位の業務運営」の浸透・定着状況や顧客の認知度の現状についてどう評価するか▽「顧客本位の業務運営」のさらなる定着に向けて行政として今後どのような対応が考えられるか▽その他「顧客本位の業務運営」を促進する環境を整備するため行政や金融機関はどのように対応していくべきか―などをテーマに、「顧客本位の業務運営」を実効的に進めていくための対応について議論を行っていく。

 10月23日の第25回市場WGでは、今後の議論のポイントとして、以下の点が事務局から提示された。
 ■金融機関における「顧客本位の業務運営」の浸透・定着状況や、顧客の認知度の現状についてどう評価するか。
 (▽金融機関の対応〈経営陣の取り組みや、営業現場での対応等〉はどのように変わってきているか▽顧客の資産形成・管理に資する商品販売や顧客の資産残高の増加につながっているか▽顧客のニーズや利益にかなわない不適切な販売事例は抑制されているか▽金融機関の取り組みの「見える化」は顧客に浸透し、金融機関の選別につながっているか)など。
 ■「顧客本位の業務運営」のさらなる定着に向けて、行政として、今後どのような対応が考えられるか。
 (▽これまでの「プリンシプルベース・アプローチ」は十分に効果的か、「プリンシプルベース・アプローチ」におけるさらなる対応は考えられるか〈「原則」の見直し、モニタリングの改善等〉▽現行の規制・監督の枠組みは十分に機能しているか、法令・執行面での改善は考えられるか〈参考:海外の規制動向〉)など。
 ■その他、「顧客本位の業務運営」を促進する環境を整備するため、行政や金融機関はどのように対応していくべきか。
 (▽顧客が金融サービスを適切に選択できる環境整備に向けて、どのような取り組みが求められるか〈顧客の側に立ったアドバイザーの充実、金融・デジタルリテラシーの向上、NISA等の整備等〉▽高齢者など認知・判断能力の低下した顧客のニーズに対応できているか)など。
 市場WGの事務局説明資料「『顧客本位の業務運営』の取組みのこれまでの振り返りと課題」では、「顧客本位の業務運営」の取り組みは、プリンシプルベースでの取り組みにより、回転売買に依存する営業姿勢に改善の兆しが見られること、投資信託の積立投資手法の定着など、一定の改善・成果が見られたものの、以下3点の課題が残されていると指摘された。
 ①取組方針・KPI公表等による「見える化」の促進:▽原則の採択事業者、KPIの公表事業者は増加したが、形式的な取組方針の策定にとどまる事業者が多いなど、原則採択自体が目的化し、経営理念への取り入れや営業現場への浸透が行われていないおそれ(原則の趣旨を咀嚼、実践するスタンスの欠如)がある。
 ②金融機関との対話による取り組みの促進:▽販売員の知識・スキルに格差があるため、顧客の最善の利益を図ることを目指した投資目的や資産構成等を勘案した分散投資提案を行う動きが徹底されてない▽投資信託の販売額・預り残高が減少する一方、外貨建保険の販売額・残高が増加(特に地銀において急増)、また、銀行からグループ証券会社への仲介・紹介販売も増加しており、販売手数料の高い商品や業態へのシフトが起きているおそれがある。
 ③金融庁・金融機関の取り組みにかかる顧客評価の実態把握:▽「顧客意識調査」において、金融庁や金融機関の取り組みを知っている顧客は全体の3割、金融商品購入時に参考にしている顧客はさらにそのうち2割であり、顧客の認知度が低く、金融商品購入時にあまり活用されていない▽顧客の全体の7割は、メーン金融機関を変えたことがないと回答しており、顧客本位の業務運営の取り組みにより、顧客が金融機関を比較・選別するといった動きにはつながっていない▽金融機関の取り組みが良くなったと感じている顧客は全体の2割であるほか、販売担当者の対応(業績重視の提案、商品知識・説明力不足等)に不満を持つ顧客も多い▽NPSRが高い顧客において、担当者からのお願いで当初購入意向のない金融商品を購入している顧客、長期保有目的であったが、ある程度の評価損益となった時に、担当者から乗換を勧められ売買している顧客が一定数存在。
 以上のような課題に対して、金融庁の本事務年度のモニタリング方針では、以下の方針が掲げられていた。
 ▽金融機関の取り組みの「見える化」を促進していくため、金融機関に対して、取組方針やKPI等をより分かりやすい内容とするよう促していくほか、共通KPIの時系列分析結果の公表などにより、さらなる普及・浸透を目指していく。
 ▽顧客本位の良質なサービスを提供し、顧客の最善の利益を図っているかを確認するため、以下の項目を中心に、金融機関の営業現場における顧客あて提案等の実態や、本部における管理の状況についてモニタリングを行う(①外貨建保険等の販売時の債券・投信との比較説明や、販売後の損益状況の顧客への提供等の充実②提案プロセスおよびその結果としてのポートフォリオの状況を検証)。
 ▽顧客への長期分散投資を中心とした良質なアドバイスができる担い手の充実に向けて、金融機関等と人材育成・評価体制等について議論を進めていく。
 加えて、今回の事務局説明資料では「しかしながら」とし、「金融機関がベスト・プラクティスを目指して顧客本位の良質な金融商品・サービスの提供を競い合い、より良い取組みを行う金融機関が顧客から選択されていくメカニズムを目指してきたが、顧客について見ると、施策が届かない、施策が届いても投資に活用されないような、メカニズムが十分機能しない、以下のような顧客層も存在すると考えられる」と述べ、①インターネット・新聞等で情報を得ていない、利用していても金融情報に興味がない等、施策が届かない顧客層②施策にかかる情報が入ってきても、その情報を活用して金融機関を変更することまでは積極的に検討しない顧客層―の存在を指摘していた。