2019.06.18 保険業法改正成立 子会社でIT企業保有可能に 同意による第三者への顧客情報提供も
「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」が5月31日に国会で成立した。その中で「その他情報通信技術の進展を踏まえた対応」として、保険業法の改正も行われ、情報・データの利活用の社会的な進展を踏まえた対応として、①金融機関の業務に、顧客に関する情報をその同意を得て第三者に提供する業務等を追加②保険会社の子会社対象会社に、保険業に関連するIT企業等を追加―を内容とする法改正が行われた。施行は公布の日から1年以内。なお、今回の法改正の主要部分は、情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化のなかで、国際的な動向等を踏まえ法令上の「仮想通貨」の呼称を「暗号資産」に変更、暗号資産の交換・管理に関する業務への対応や、暗号資産を用いた新たな取引や不公正な行為への対応のための一連の法整備にあった。
「顧客に関する情報をその同意を得て第三者に提供する業務等に係る規定の整備」では、銀行、保険会社等の付随業務(注)に、顧客に関する情報をその同意を得て第三者に提供する業務その他保有する情報を第三者に提供する業務であって、本業の高度化又は利用者の利便の向上に資するものを追加することとする、とされた(保険業法では第98条等関係)。
従来の金融機関に対する法規制では、金融機関が保有する顧客に関する情報・データは、基本的に金融機関自身の業務のみに活用することしかできなかった。そこで、金融機関が保管・分析したデータについて、地域企業の経営改善に貢献したり、利用者のニーズに応えたりするため、地域企業や利用者向けサービス提供企業に対して情報・データを提供できるよう、金融機関の付随業務として、顧客に関する情報を同意を得て第三者に提供する業務等を追加することとしたもの。なお、金融機関は、引き続き個人情報保護法令を順守する必要がある。
また、「保険会社による保険業に関連するIT企業等の子会社化に係る規定の整備」では、保険会社は、認可を受けて、情報通信技術その他の技術を活用した保険業の高度化若しくは利用者の利便の向上に資する業務又はこれに資すると見込まれる業務を営む会社の議決権について、基準議決権数を超える議決権を取得し、又は保有することができることとする(保険業法第106条関係)、とされた。
従来の規制では、保険会社の子会社は、フィンテック・インシュアテックに関する業務を幅広く営むことができなかった。そこで、保険会社の子会社対象会社に、保険業に関連するIT企業等を追加したもの。
金融審議会・金融制度スタディ・グループ(座長:岩原紳作早稲田大学大学院法務研究科教授)の「金融機関による情報の利活用に係る制度整備についての報告」(2019年1月16日)で、「平成28年の銀行法等の改正により、銀行業高度化等会社(情報通信技術その他の技術を活用した、銀行業の高度化・利用者利便の向上に資する(と見込まれる)業務を営む会社のこと)を子会社・兄弟会社とすることが可能となった。この銀行業高度化等会社は、いわゆるECモール(電子商取引市場)の運営を含めた多様な業務を営むことが想定されており、当然にして、情報の利活用に関する業務を幅広く営むことも可能である。すなわち、銀行の子会社・兄弟会社は、現行制度の下でも情報の利活用に関する業務を幅広く営むことが可能である。…なお、保険会社については、現在、銀行業高度化等会社に相当する会社を子会社として保有することが認められていない。これに関し、保険会社についても、保険業の高度化や利用者利便の向上を図る観点から、銀行業高度化等会社に相当する会社を子会社として保有することを認めることが適当であると考えられる。」と指摘されていた。
(注)保険業法では、保険会社は固有業務、付随業務、法定他業及び他の法律において行う業務しかできない。