2016.09.20 金融庁が保険会社ERM評価結果を公表、ガバナンス備えた会社は一部
金融庁は9月15日、「保険会社におけるリスクとソルベンシーの自己評価に関する報告書(ORSAレポート)及び統合的リスク管理(ERM)態勢ヒアリングに基づくERM評価の結果概要について」を公表した。リスクの多様化・複雑化を踏まえて、保険会社では、規制の順守に加えて、適切なリスクとリターンのバランスの下で全てのリスクを経営戦略と一体で統合的に管理する統合的リスク管理態勢の整備・高度化を図ることが重要な課題となっている。こうした中、金融庁は保険会社に対しリスクとソルベンシーの自己評価に関する報告書(ORSAレポート)を作成・提出させる取り組みを2015年度から開始しており、今回、同レポートの内容などを基に保険会社のERM評価の結果をまとめた。
金融庁はERM促進の一環として、保険会社に対し、2015年3月末時点(原則)におけるORSAの状況をリスクとソルベンシーの自己評価に関する報告書(ORSAレポート)として取りまとめ、金融庁へ提出(提出期限:15年9月末)させる取り組みを15年度から開始。さらに、各社のORSAレポートを基にERMヒアリングを実施した上で、保険会社のERM評価を行った。平成27事務年度については、規模特性の観点から保険料等収入等に基づき保険持ち株会社8社、生保会社25社、損保会社23社を選定し、評価を実施した。
評価に当たっては評価目線を作成し、「リスク文化とリスクガバナンス」「リスクコントロールと資本の十分性」「リスクプロファイルとリスクの測定」「経営への活用」などの項目を検証し、ERMに関する態勢が整備されているか、ERMの考え方が保険会社内に浸透しているかといった観点から確認を行った。
各保険会社の総合的なERM評価の結果については、その内容ごとにレベル1~レベル5に区分を行った。その結果、ERMを健全性確保に加えて、リスク文化の醸成や収益性の向上にも活用し、経営全体に生かすガバナンスを備えた会社はいまだ一部であり、評価結果にはばらつきがみられた(上グラフ参照)。
評価目線の項目別の評価結果の概要は次の通り。
「リスク文化とリスクガバナンス」では、大手損保会社(グループ)と一部の生保会社(グループ)で先進的な事例が見られ、一定程度のリスク文化が社内に醸成されていた。しかし、多くの保険会社ではERMに基づく考え方を今後社内浸透させていく段階であり、リスク文化の醸成はこれからという状況だった。
「リスクコントロールと資本の十分性」については、大手保険会社(グループ)を中心に先進的な事例が見られ、リスクに対する資本の十分性を確保する態勢が一定程度整備されていた。しかし、多くの中小保険会社では、経済価値ベースに基づく健全性に関する内部管理上の取り組みなどはこれからという状況だった。
「リスクプロファイルとリスクの測定」では、大手保険会社(グループ)を中心に先進的な事例が見られ、計量可能なリスクだけでなくエマージングリスクなどの計量できないリスクについても把握する態勢が一定程度整備されていた。しかし、多くの中小保険会社では、こうした取り組みやモデルガバナンスなどに関する取り組みは今後の課題としている状況だった。
「経営への活用」については、大手損保会社(グループ)と一部の生保会社(グループ)で先進的な事例が見られ、資本配賦などを通じてERMを経営に活用していた。しかし、多くの保険会社では、ERMの活用は健全性に関する取り組みが中心であり、経営への活用はこれからという状況だった。
今回の評価結果を受けて金融庁は「ERM評価は、定量的・画一的に健全性を評価するだけではなく、適切なリスク文化・ガバナンスと高度なリスク管理態勢を備えた保険会社における積極的なリスクテークを合わせて評価する枠組みであり、健全性を維持した上で保険会社の適切な成長を促す観点から、引き続き高度化を促進していく」とするとともに、今後、ERMヒアリングとORSAレポートを通じて、現時点の静的な健全性評価にとどまらず、将来の動的な健全性を幅広く分析することで、より実態に即した監督を行っていく考えを示した。