2025.01.30 金融庁 第150回自動車損害賠償責任保険審議会 料率は据え置きと判断
1月10日に第150回自動車損害賠償責任保険審議会(藤田友敬会長)が金融庁で開催され、2024年度料率検証の結果報告が行われた。24年度の検証結果による損害率は、24年度が131.5%、25年度が130.3%となり、23年4月の基準料率改定時の予定損害率(133.5%)との乖離は24年度がマイナス1.5%、25年度がマイナス2.6%にとどまっていることから改定は必要ないと判断された。この他、第149回自賠責保険審議会で検討を要請されていた「自賠責保険における経費計算基準の見直し等」について、損保協会が検討結果を報告した。
「令和6年度料率検証結果」については、全事業者の収入純保険料(収入純掛金)は24年度が4343億円、25年度が4348億円、支払保険金(支払共済金)は、24年度が5712億円、25年度が5650億円の見込み。
当年度収支残は、24年度が▲1369億円、25年度が▲1302億円を見込んでおり、その結果、損害率は24年度が131.5%、25年度が130.0%の見込みになる。
当年度収支については、当面赤字が継続する見通しとなるものの、滞留資金を支払い原資に活用することで、均等になるように料率を設定している結果であり、23年4月に料率を引き下げた際に想定した予定損害率は133.5%だったことから、損害率はおおむね想定されていた水準に収まっているとの見解が示された。
なお、純料率水準の検証結果の関連で、交通事故発生状況については、発生件数は2004年をピークにその後は減少傾向とした。車両保有台数は24年度と25年度における台数は過年度の動向に基づいて予測し、ほぼ横ばいの見込みとした。事故率については、死亡事故率は24年度0.4%増、25年度1.6%減、26年度以降減少予測、後遺障害事故率は、24年度1.8%減、25年度1.6%減、26年度以降減少予測、傷害事故率は24年度3.8%減、25年度1.6%減、26年度以降減少予測。
平均支払保険金(平均支払共済金)で、賃金上昇率は24年度2.8%増、25年度2.8%増、26年度以降据え置き予測、治療費上昇率は24年度0.10%減、25年度0.09%減、26年度以降減少傾向予測、支払基準改定による上昇率は、24年度・25年度影響なしとしている。
運用益の発生と積立状況については、23年度末の積立金残高は3637億円。滞留資金については、23年度6585億円となっているものの、滞留資金は保険収支の均衡を図るために使用しており、料率算定の中に取り込むことで、これまでの料率引き下げに反映されている。20年度末に22年度末の滞留資金7594億円のうち、7239億円を23年4月の引き下げ改定で活用している。
社費水準については、23年度はシステム関係費用の増加に加え、人件費や物価上昇などが影響し支出社費が増加し、23年度単年では149億円の赤字となった。過去の赤字と合わせ、累計収支残は239億円の赤字となっていると報告した。
【経費計算基準の見直し検討結果を報告】
損保協会の「自賠責保険経費計算基準等見直しに関する報告(自賠責保険の経費の計算方法等に関する第三者委員会での検討結果)」によると、第三者委員会は、全5回にわたって開催され、業務実態調査の集計結果や主な増減理由の見直しに伴う影響額の概算値、将来の基準等を見直すための手続きについて議論し、自賠責保険における経費、代理店手数料の算出方法、算出の基礎数値の見直し案、将来基準等を見直すための手続き案についての妥当性、適切性が確認された。
経費・代理店手数料の算出基礎数値の見直し(業務実態調査の方法)では、デジタル化や外部委託の進展、法改正やコンプライアンスに関する取り組み等の業務変化を踏まえて、見直した。
その他に①1件あたり処理分数の細分化②1人1分当たり給与額の計算方法③外部委託費用の計上方法④物件費・その他事業費の賦課方法―についても検討した。
今回の経費計算基準等の見直しによって、自賠責保険に関する保険会社経費は、約2000億円のうち、122億円の減少となった。各項目ごとでは、契約引き受け部門では、「e―JIBAI」のさらなる普及や、コロナ禍を境に非対面での代理店指導等のデジタル化が進展したことで、1件あたり処理分数が前回の18.3分から14分へと減少し、影響額としては280億円の減少となった。損害調査部門では、個人情報の取り扱い厳格化等によって業務が増加した一方、基幹システムの刷新やデジタルツールによる効率化によって若干の減少となった。部門共通の項目では、産休・育休や時短勤務の進展といった多様な働き方の普及により年間実働時間が減少したことで、一人1分当たり給与単価が増加し、結果として92億円の増加となった。
物件費関連については、外部委託費用やソフトウエアの減価償却費の計算方法を今日的に見直したことで、合計で94億円の減少となった。一方、件数割換算係数については、現行の10分の1が1977年に定められたものだったことから今回実態調査を行った結果、10分の2という結果となり、151億円の増加となった。
代理店業務に関する業務実態調査結果(代理店手数料算出における基礎数値)では、人件費で「e―JIBAI」のさらなる普及による効率化や非対面での対応増加による移動時間減により1件当たりの所要時間は21.0分となり、前回調査から7.3分減少した。また物件費は自動車費・自動車関連費の増加や事務所賃借料単価等の増加を要因に1件当たりの所要経費は609.1円となり、前回調査から232.2円増加している。
将来の基準等を見直すための手続きについては、定量基準等に合致するか、損保協会で毎年検証する。その際、合致した定量基準やその時点の環境変化に基づいて、見直し範囲も検討し、その結果を1月の自賠責保険審議会に報告・論議の上、見直し要否を決定。見直しが必要になった場合、具体的な見直し内容検討や業務実態調査を経て、翌年の自賠責保険審議会に報告することを想定しているとした。
具体的には、将来の見直し基準として、定量基準と定期基準を設定し、定量基準については、将来自賠責経費に影響を及ぼす可能性のある①将来の変化(普及率増加等)が想定されるもの②計測可能なもの③自賠責経費に対する感応度一定程度あると想定されるもの―の三つに基づき選定して見直しの必要性を判断する。この要件に基づきキャッシュレス普及率と異動・解約非対面手続率を採用しており、定量基準はいずれも40%を見直しの検討目安として設定する考えを示した。
また、今回設定した定量基準だけでなく、実務に大きく影響を与える事項があれば、定期基準として見直しを検討する。定期基準については定量基準に合致しない場合も、5年に1回は見直しを行うとした。
今後については、24年度決算(25年3月末)から今回の見直しを反映させた新経費基準を適用する。新基準に基づく24年度末決算を反映させた損保料率算出機構による25年度料率検証結果を26年1月の自賠責保険審議会で報告する。仮に料率改定が必要と判断された場合には、26年4月から新料率の適用を開始する予定であり、代理店手数料についても今回見直しした代理店手数料算出における基礎数値を次回料率改定時に反映する。
【自動車損害賠償責任保険審議会委員(敬称略・五十音順、25年1月8日時点)】
▽会長:藤田友敬(東京大学大学院法学政治学研究科教授)
▽委員:大野澄子(弁護士)、加藤憲治(一般社団法人日本自動車会議所保険特別委員長)、金子晃浩(全日本自動車産業労働組合総連合会会長)、京井和子(NPO法人いのちのミュージアム事務局)、慶島譲治(全日本交通運輸産業労働組合協議会事務局長)、角野隆宏(全国共済農業協同組合連合会代表理事専務)武田涼子(弁護士)、寺田一薫(福島学院大学マネジメント学部地域マネジメント学科教授)、波多江久美子(明治学院大学法学部教授・弁護士)、細川昭子(弁護士)、細島英一(損保協会自賠責保険特別委員会委員長)、唯根妙子(特定非営利活動法人消費者機構日本理事)
▽特別委員:川口伸吾(損害保険料率算出機構専務理事)、坂口正芳(一般社団法人日本自動車連盟会長)、外﨑信子(NPO法人高次脳機能障害友の会ナナ理事長)細川秀一(公益社団法人日本医師会常任理事)、宮木由貴子(第一生命経済研究所常務取締役ライフデザイン研究部長兼首席研究員)、麦倉泰子(関東学院大学社会学部教授)