2024.12.17 金融庁 金融審・損害保険業等に関する制度等WG第6回 報告書案の内容まとまる 来春、改正保険業法案提出へ 「過度な便宜供与の禁止」など記載

 金融庁は12月5日、中央合同庁舎第7号館およびオンラインで金融審議会「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」(座長:洲崎博史同志社大学大学院司法研究科教授)の第6回会合を開催し、事務局から前回会合での議論を踏まえた新たな報告書案が提示された。各委員、オブザーバーから概ね賛同が得られた。金融庁では今後、第6回会合で出された新たな意見を盛り込み、本報告書として公表した後、来年の通常国会に提出する改正保険業法案の作成作業を始める。
 冒頭に事務局から読み上げられた報告書案は全25ページで、「顧客本位の業務運営の徹底」と「健全な競争環境の実現」に関する提言などがまとめられている。このうち法改正が必要になるのは主に「顧客本位の業務運営の徹底」の「大規模乗合代理店に対する体制整備義務の強化等」と「健全な競争環境の実現」の「保険会社による保険契約者等への過度な便宜供与の禁止」の部分。他の提言については、監督指針などに反映させて対応する。
 「大規模乗合代理店に対する体制整備義務の強化等」については、今回の議論の発端となった旧ビッグモーター社による保険金不正請求事案の背景の一つとして、同社の規模が大きいことから保険会社の営業上の配慮が働きやすくなり、また、同社に対する適切な管理・指導等の機能が弱まりやすくなる構造があったとし、現行の保険業法で事業報告書の提出等が義務付けられている規模が大きな乗合代理店「特定保険募集人」のうち、所属保険会社等から受け取る手数料収入額を定量的基準として一定規模以上の代理店を「特定大規模乗合保険募集人」と特定。①営業所または事務所ごとに、法令等を遵守して業務を行うための指導等を行う「法令等遵守責任者」を設置②本店または主たる事務所に法令遵守責任者を指揮し、法令等を遵守して業務を行うための指導等を行う「統括責任者」を設置③法令等遵守責任者および統括責任者には、一定の資格要件を求め、そのための試験制度を新設④顧客本位の業務運営に基づく保険募集を確保する観点から、保険募集指針を策定・公表・実施⑤苦情処理・内部通報に関する体制を整備⑥独立した内部監査部門を設置する等、内部監査体制を強化⑦保険会社が保険代理店に係る不祥事件届出書を当局に提出した場合、同保険代理店自身が同不祥事件届出書に係る情報の他の所属保険会社等への通知―といった規制を求めた。
 また、旧ビッグモーター社のように自動車修理など保険金関連事業を兼業する保険代理店は、潜在的に自らの利益を得るために不正な修理費等の請求を行う不当なインセンティブが働く恐れがある中、今回の事案では同社が多くの顧客を抱え、保険会社にとって営業上重要な存在だったこともあって保険金等支払管理態勢が適切に機能せず、結果として同社の不正な修理費等の請求を招いたことから、前述の「特定大規模乗合保険募集人」のうち、保険金関連事業を兼業する事業者に対しては、①不当なインセンティブにより顧客の利益または信頼を害する恐れのある取引を特定した上で、②不当なインセンティブを適切に管理する方針の策定・公表、③不当なインセンティブにより顧客の利益または信頼を害することを防止するためのその他の体制整備義務(修理費等の請求に係る適切な管理体制の整備等)―を上乗せの規制として加えている。
 さらに、保険金関連事業を兼業する全ての保険代理店に対しても、監督指針において「不当なインセンティブによる顧客の利益または信頼を不当に害することの防止が重要であるとの理念」を明確化するのに加え、「顧客本位の業務運営の原則」(特に原則3「利益相反の適切な管理」)の周知をあらためて図り、その規模や業務特性に応じた自主的な取り組みを促すことを求めた。
 一方、「保険会社による保険契約者等への過度な便宜供与の禁止」については、もともと保険業法300条において保険契約者間の公平性を害したり、保険業の健全な発展を阻害したりする恐れがあるとの趣旨で、保険会社や保険募集人が契約者や被保険者に対して保険契約の締結や保険募集に関して保険料の割引、割り戻し、その他特別の利益の提供を禁止している。だが今回の不祥事案の実態解明の中で、保険業界の慣行において、保険会社による保険契約者のグループ企業のサービスの利用や物品の購入、出向等を含む役務の提供等の「便宜供与」が存在しており、これらの実績が保険契約の締結に影響を及ぼす恐れがあることが明らかになったことなどを踏まえ、特別の利益の提供として禁止される行為の対象に、サービスの利用や物品の購入、役務の提供等の便宜供与のうち、保険契約者間の公平性を害し、保険業の健全な発展を阻害するようなものを新たに含めるとともに、特別の利益の受け手の対象に、保険契約者または被保険者のグループ企業を追加する必要があると指摘した。
 一方で、「保険会社が通常の事業活動を行う上で必要となるサービスの利用や物品の購入といった公正な取引や合理的な商慣行等と考えられる行為まで禁止されてしまうことのないよう、どのような便宜供与が禁止対象に該当するのかについて、今後、監督指針等において可能な限り明確化が図られる必要がある」と記した。
 報告書案ではこのほか、第5回会合の議論を踏まえて「企業内代理店に関する規制の再構築」を記載。今年3月~6月にかけて開催された「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」の報告書での指摘や、当局で把握した企業内代理店の実態を踏まえ、「特定契約比率規制」を見直し、①現在、一部の保険代理店に対して適用されている特定契約比率の計算対象種目等を限定する経過措置を、「必要な準備期間として3年程度」おいた後に撤廃する②「特定者」の範囲について、現行の監督指針で定められている「法人である損保代理店への出資比率が30%を超える者等」の部分を「連結決算の対象となるグループ会社の範囲全体」に拡大する―ことを求めている。