2024.11.07 公正取引委員会が大手損保4社に行政処分 共同保険に係る独禁法上の留意点も公表

 公正取引委員会は10月31日、三井住友海上、損保ジャパン、あいおいニッセイ同和損保、東京海上日動ならびに損害保険代理店の共立㈱に対し、独占禁止法の規定に基づき排除措置命令および課徴金納付命令を行った。独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)の規定に違反する行為を行っていたとされ、同委員会では併せて、独占禁止法違反行為の未然防止の観点から、共同保険に係る独占禁止法上の留意点等について取りまとめ公表するとともに、金融庁と損保協会に対し要請を行った。三井住友海上、SOMPOホールディングス、あいおいニッセイ同和損保、東京海上ホールディングス、共立は同日それぞれ今回の処分について公表するとともに、「行政処分を厳粛かつ真摯に受け止め、二度とこのような事態を生じさせないよう挙社体制で再発防止に取り組み、信頼回復に努めていく(三井住友海上)」等それぞれ同旨のコメントを発表している。
 公正取引委員会が同日公表した「損害保険会社らに対する排除措置命令及び課徴金納付命令等について」によると、違反行為の概要は別掲のとおり。三井住友海上の排除措置命令が9件、課徴金納付命令が5件(8億8514万円)、損保ジャパンの排除措置命令が9件、課徴金納付命令が6件(6億4798万円)、あいおいニッセイ同和損保の排除措置命令が4件、課徴金納付命令が3件(5億640万円)、東京海上日動の排除措置命令が9件、課徴金納付命令が1件(3212万円)、共立の排除措置命令が1件だった。
 同委員会では、排除措置命令の対象となった独占禁止法違反行為の多くが共同保険の組成過程で行われていたことなどを踏まえ、独占禁止法違反行為の未然防止の観点から、「共同保険に係る独占禁止法上の留意点等について」として共同保険の組成・利用に関し、損害保険会社、損害保険代理店または保険契約者において留意すべき独占禁止法上の考え方と競争政策上の考え方等を取りまとめ公表した。
 金融庁と損保協会に対する要請では、今回、多岐にわたる損害保険で独占禁止法違反行為が行われていたことから、独占禁止法遵守について、金融庁には損害保険会社等に対し、損保協会には会員に対し、それぞれ周知徹底するよう要請した。
 損保協会は同日、「公正取引委員会からの要請に真摯に対応し、今後、あらためて、独占禁止法における競争ルールを周知するとともに、独占禁止法遵守と競争条件の公平性・透明性の確保を前提とした業務運営を徹底し、再発防止策の策定およびその着実な実行により、再発防止に努めていく」とコメントを発表。また、「保険料調整行為を踏まえた取り組み」として、①「独占禁止法等の法令遵守態勢の確立」で、「基本ルールの制定」として、「行動規範」の改定、「独占禁止法遵守のための指針」の改定、「保険契約引受にかかる留意点」の新設、「保険会社向け取組み」として、コンプライアンスセミナーの開催、若手職員等向け研修の実施、内部監査セミナーの実施、「募集人・代理店向け取組み」として、「募集コンプライアンスガイド」の改定、「損保一般試験教育テキスト」の改定、解説動画コンテンツの制作・周知、②「健全な競争環境の整備」で、「政策保有株式に関するガイドライン」の新設、「損害保険会社からの出向に関するガイドライン」の新設、「過度な便宜供与に関するガイドライン」の新設(検討中)、過度な便宜供与に関する業界内通報窓口の設置(検討中)、③「適正な保険引受管理態勢の確立」で、新たな共同保険引受方式(アレンジャー方式・ディファレンシャル方式)の導入(検討中)、企業向けリーフレット「リスクマネジメントと損害保険」の作成、企業向けリスクマネジメントセミナーの開催(検討中)、④「トップライン重視の経営方針の見直し」で、営業成績データ交換業務の廃止、⑤「企業内代理店のあり方の検討」で、金融審議会「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」の議論を踏まえて検討―を行っていく考えを示した。
 【違反行為の概要】
 (1)㈱JERAを保険契約者とする損害保険の事案
 三井住友海上、損保ジャパン、あいおいニッセイ同和損保、東京海上日動は共同して、本件財物・利益保険(㈱JERAが見積り合わせの方法により発注する財物・利益保険のうち、1回の事故につき保険金の支払限度額を1500億円とする保険をいう)について、見積り合わせにおいて各社が提示する保険料の水準を調整することなどによって保険料を引き上げまたは維持できるようにしていた。
 (2)コスモ石油㈱を保険契約者とする損害保険の事案
 三井住友海上、損保ジャパン、あいおいニッセイ同和損保、東京海上日動は共同して、本件製油所包括保険(コスモエネルギーホールディングス㈱がコスモ石油㈱の製油所を対象に同社に代わって、見積り合わせの方法により発注する地震保険、ならびに見積り合わせと相対交渉を併用する方法により発注する火災保険と利益保険をいう)について、見積り合わせにおいて各社が提示する保険料等を調整することによって各社の引受割合と保険料の水準を維持できるようにしていた。
 (3)(独)エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)を保険契約者とする損害保険の事案
 三井住友海上、損保ジャパン、東京海上日動、共立は共同して、本件備蓄基地保険(JOGMECが一般競争入札の方法により発注するJOGMECが管理する国家石油・石油ガス備蓄基地等を対象とする企業財産包括保険、火災通知保険、土木構造物保険、総合賠償責任保険をいう)について、三井住友海上、損保ジャパン、東京海上日動が事前に想定した引受保険料および引受割合で受注できるようにしていた。
 (4)シャープ㈱を保険契約者とする損害保険の事案
 三井住友海上、損保ジャパン、東京海上日動は共同して、本件マリン保険(シャープ㈱を保険契約者とし、保管中または輸送中のシャープ製品等を補償対象とする損害保険であって、シャープから指名を受けたマーシュジャパン㈱により「SHARP GLOBAL STP PROGRAM」の名称で見積り合わせされるものをいう)について、各社の見積保険料を調整することによって保険料の水準を維持できるようにしていた。
 (5) 京成電鉄㈱を保険契約者とする損害保険の事案
 三井住友海上、損保ジャパン、あいおいニッセイ同和損保、東京海上日動は共同して、本件グループ包括保険(京成電鉄㈱が「グループ包括保険」の名称により見積合わせの方法により発注する京成電鉄を保険契約者とする鉄道総合財産保険、鉄道賠償責任保険および副業総合保険をいう)について、予定幹事会社を決定し、予定幹事会社が幹事会社に選定されるようにするとともに、予定幹事会社が定めた見積金額を基にした保険料等で契約できるようにしていた。
 (6)警視庁が発注する損害保険の事案
 三井住友海上、損保ジャパン、東京海上日動は共同して、警視庁が希望制指名競争入札の方法により発注する任意自動車保険について、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにしていた。
 (7)東京都が発注する都立病院を対象とする損害保険の事案
 三井住友海上、損保ジャパン、東京海上日動は共同して、東京都発注の病院賠償責任保険(東京都が希望制指名競争入札の方法により発注する都立病院を対象とする病院賠償責任保険をいう)について、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにしていた。
 (8)仙台国際空港㈱を保険契約者とする損害保険の事案
 三井住友海上、損保ジャパン、東京海上日動は共同して、令和4年更改契約における本件損害保険(企業財産包括保険、土木構造物保険、空港管理者賠償責任保険をいう)について、見積り合わせにおいて各社が提出する見積りを調整することによって保険料を引き上げること、および地震特約に係る保険期間を1年とすることに合意していた。
 (9)東急㈱を保険契約者とする損害保険の事案
 三井住友海上、損保ジャパン、あいおいニッセイ同和損保、東京海上日動は共同して、令和5年更改契約における本件損害保険(企業財産包括保険、企業総合賠償責任保険をいう)について、見積り合わせにおいて各社が提出する見積りを調整することによって保険料を引き上げまたは維持することを合意することにより、令和5年更改契約における本件損害保険の取引分野における競争を実質的に制限していた。