2024.11.06 金融庁 「顧客等に対する誠実公正義務」を新たに法定 11月1日から金融サービス提供法施行 「顧客の最善の利益」を重視

 「顧客等に対する誠実公正義務」を新たに法定した「金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律」(金融サービス提供法)が11月1日から施行された。金融庁では、金融商品取引法等の一部を改正する法律(令和5年法律第79号)に係る政令・内閣府令案等を6月27日から7月27日にかけて公表し、広く意見募集を行っていたが、本件に係る政令を10月25日に閣議決定、同月30日公布し、11月1日から監督指針等と併せて施行した。金融庁の意見募集に対しては、31の個人および団体から76件のコメントが寄せられ、10月30日にその結果が公表された。
 「顧客等に対する誠実公正義務」の法定は、2022年12月9日、金融審議会市場制度ワーキング・グループ顧客本位タスクフォース中間報告で「「原則 」に定められている金融事業者は顧客に対して誠実・公正に業務を行い、顧客の最善の利益を図るべきであることを広く金融事業者一般に共通する義務として定めることなどにより、「原則」が対象とする金融事業者全体による、「原則」に沿った顧客・最終受益者の最善の利益を図る取組みを一歩踏み込んだものとすることを促すべきである」と提言されたことを受けたもの。
 金融サービス提供法第二条第一項では、「金融サービスの提供等に係る業務を行う者は、次項各号に掲げる業務又はこれに付随し、若しくは関連する業務であって顧客(中略)の保護を確保することが必要と認められるものとして政令で定めるものを行うときは、顧客等の最善の利益を勘案しつつ、顧客等に対して誠実かつ公正に、その業務を遂行しなければならない」とし、第2項第十号で「金融サービスの提供等に係る業務を行う者」として、「保険業法第二条第一項に規定する保険業、保険募集(中略)又は船主相互保険組合法(中略)第二条第二項若しくは第三項に規定する損害保険事業に係る業務当該業務を行う者並びにその役員及び使用人」としている。
 また、「顧客等の保護を確保することが必要と認められる業務」については、金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律施行令(平成十二年政令第四百八十四号)第二条第5項で、「法第二条第二項第十号に掲げる業務のうち保険業法第二条第一項に規定する保険業に係る業務」「同法第九十八条第一項の規定により行うことができる業務又は同法第二百七十二条の十一第一項に規定する付随する業務」とし、金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律施行令第二条の規定に基づき業務を定める内閣府令で、「保険業法第九十九条第一項に規定する付随する業務又は同条第二項第一号若しくは第四号に掲げる業務」としている。
 法施行に伴い、「保険会社向けの総合的な監督指針」「少額短期保険業者向けの監督指針」「認可特定保険業者向けの監督指針」も改正された。
 「保険会社向けの総合的な監督指針」では、Ⅱ保険監督上の評価項目Ⅱ―4業務の適切性Ⅱ―4―4顧客保護等Ⅱ―4―4―1顧客の最善の利益を勘案した誠実公正義務(金融サービス提供法第2条)で、「(1)主な着眼点」として、「保険会社が、その業務を通じて、社会に付加価値をもたらし、同時に自身の経営の持続可能性を確保していくためには、顧客の最善の利益を勘案しつつ、顧客に対して誠実かつ公正にその業務を行うことが求められる。そこで、保険会社が、必ずしも短期的・形式的な意味での利益に限らない「顧客の最善の利益」をどのように考え、これを実現するために自らの規模・特性等に鑑み、組織運営や商品・サービス提供も含め、顧客に対して誠実かつ公正に業務を遂行しているかを検証する。また、保険募集人及び保険仲立人についても上記に準じて検証することとする。」を示し、「(2)監督手法・対応」については、「日常の監督事務や、不祥事件届出書等を通じて把握された保険会社の誠実公正義務上の課題については、深度あるヒアリングを行うことや、必要に応じて法第128条の規定に基づく報告を求めることを通じて、保険会社における自主的な業務改善状況を把握することとする。保険会社の業務の健全かつ適切な運営の確保又は顧客保護の観点から重大な問題があると認められる場合には、法第132条の規定に基づく業務改善命令を発出する等の対応を行うものとする。さらに、重大・悪質な法令等違反行為が認められる等の場合には、法第133条の規定に基づく業務停止命令等の発出も含め、必要な対応を検討するものとする。また、保険募集人及び保険仲立人についても上記に準じて必要な対応を検討するものとする。」としている。
 金融庁が行ったパブリックコメントの結果では、「誠実公正義務」について、「金融サービス提供法上の「顧客の最善の利益」は、顧客本位の業務運営に関する原則の原則2.に記載されている「顧客の最善の利益」を法文化したものとの理解でよいか」とのコメントに対して「金融サービス提供法第2条第1項において「顧客等の最善の利益を勘案しつつ、顧客等に対して誠実かつ公正に、その業務を遂行しなければならない」と規定した趣旨は、これまで顧客本位の業務運営に関する原則に基づき促してきた、顧客本位の業務運営の取組みの一層の定着・底上げを図る点にあります」、また、「「顧客の最善の利益」の定義がされていないが、例を挙げることは可能か。例えば、定量的な観点で金銭的な損益を重要視する顧客もいれば、定性的な観点で換金性を重要視する顧客、また同じ顧客でも場合や状況によって重要視する観点が違う等、さまざまな状況があると考えられる。そのようなさまざまな観点を踏まえて、金融商品取引業者などの金融事業者自身で「顧客の最善の利益」を考えればよいか」とのコメントに対しては、「ご指摘のとおり「顧客等の最善の利益」は顧客一人ひとりによって、また、同一の顧客であっても当該顧客の置かれた状況等により異なり得るものであり、さらに、それを実現する方法については金融事業者のビジネスモデル等によって異なり得るものと考えられます。したがって、「顧客等の最善の利益」は各金融事業者等において考えられるべきものであり、一般的な例を挙げることは適当ではないと考えらます」と金融庁の考え方が示された。
 「保険会社向けの総合的な監督指針」の改正については、4件のコメントがあった。その中で、「保険会社向けの総合的な監督指針案Ⅱ―4―4―1において「必ずしも短期的・形式的な意味での利益に限らない「顧客の最善の利益」をどのように考え、これを実現するために自らの規模・特性に鑑み、組織運営や商品・サービス提供も含め、顧客に対して誠実かつ公正に業務を遂行しているかを検証する。」とある通り、「顧客の最善の利益を勘案した誠実公正義務」は、保険会社が規模・特性等を踏まえて自ら考えるべきものである。「顧客の最善の利益を勘案した誠実公正義務」が法定化されたことに伴い、そのことをもって直ちに何らかの一律の対応が、保険会社や保険募集人に求められるわけではなく、それぞれが自らの特性や経営理念等を踏まえ、創意工夫をもって「顧客本位の業務運営に関する原則」を踏まえた取組みを進めること等が本義務を履行するにあたっては重要と理解している」とのコメントが示され、これに対して「ご理解のとおりです」と金融庁は回答している。