2024.10.18 金融庁 金融審議会 損害保険業等に関する制度等WG(第2回) 「特定大規模乗合保険募集人」創設案提示 兼業代理店・大規模代理店への対応議論
金融庁は10月16日、会場である中央合同庁舎第9号館とオンラインで、金融審議会「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」(座長:洲崎博史同志社大学大学院司法研究科教授)の2回目会合を開催した。今回の保険金不正請求事案を引き起こした旧ビッグモーター社が、自動車工場など本業に付随した保険金の支払いを受けることで利益を得られる「保険金関連事業」を兼業する大規模代理店だったことから、主に兼業代理店と大型代理店への対応について議論された。事務局である金融庁からは、現行の「特定保険募集人」を参考にした「大規模特定乗合保険募集人」の創設案が提示された。会議の模様は前回同様、YouTubeでライブ配信された。
はじめに金融庁から、保険募集人に関する現行制度の概観や、保険金不正請求事案を踏まえた兼業代理店・大規模代理店に関する課題や主な論点、対応案が説明された。
旧ビッグモーター社による保険金不正請求事案では、兼業代理店に自らの利益を得るために保険会社に対して過大な修理費等を請求するといった不正なインセンティブが働く恐れがある一方で、通常であれば保険会社の保険金支払管理態勢が適切に機能することで過大な保険金等の支払いを未然に防止することができるが、兼業代理店が保険募集に係る多くの実績を有する保険会社の営業上重要な存在であったこと、また、保険会社が営業偏重のスタンスを有し、かつそのスタンスを保険金等支払管理部門に影響を及ぼし得る組織風土であったことから、保険会社によるけん制が適切に機能しなかった。そこで、保険会社に対して保険代理店が兼業する保険金関連事業による弊害を防止する措置を講じることを義務付けるとともに、一定規模以上の兼業代理店に対しても、自らの不当なインセンティブを適切に管理する措置を講じることを義務付ける方向で法令を見直す案が提示された。
他方、今回の事案においては、保険会社が自社に大きな利益をもたらす一部の大規模な乗合代理店との関係悪化による営業面への影響を懸念するあまり、これらの代理店に対して適切に教育・管理・指導を行わず、代理店の業務品質向上が図られなかったことが多数の違法または不適切な募集行為を生じさせる一因となったとし、一定規模以上の乗合代理店が必要な内部管理体制等を自ら構築するよう、体制整備義務をより強化するとともに、その体制整備の状況を把握する義務を保険会社に課すことを提案。当該代理店の対象として、保険業法で定められている規模の大きい「特定保険募集人」の要件を参考にしながら手数料収入の金額等で一定の要件を満たす「特定大規模乗合保険募集人」の創設案を示した。
具体的な体制整備の強化案としては、法令等遵守責任者や統括責任者の設置と同責任者に対する一定の資格要件・試験制度の新設、保険募集指針の策定・公表、保険募集に係る苦情処理・内部通報に関する体制整備を求める、などの案が出された。一方、保険会社に対しては、特定大規模乗合保険募集人に対する指導力等の強化を目的に、同募集人への業務委託に関する方針の策定、顧客の利益または信頼を害することを防止するための体制整備を求める(例えば保険金等支払管理部門と営業部門の適切な分離)、同募集人の法令等遵守体制等を検証するための管理責任者の配置、といった対応の方向性が示された。
加えて、保険募集人が保険募集について保険契約者に加えた損害を賠償する責任を負った場合に、いったん保険会社がその責任を履行した後に行使できる求償権について、監督指針等において保険会社に対して求償権行使に関する考え方を整理することや、これに基づく適切な求償権行使が行われていることを把握・管理することを求めていく案も示された。
事務局は最後に、「保険会社や保険代理店に新たな措置を求めるだけではなく、われわれ当局としても、今般の事案を受けて保険代理店に対するモニタリングを強化していくことが重要だと考えている。とりわけ、この特定大規模乗合保険募集人に対しては、他の代理店と比べてリスクが大きいということに鑑み、定期的にヒアリングを実施するほか、必要に応じて立ち入り検査を実施するなど、モニタリングを集中的に実施していきたいと考えている」と述べた。
続いて中出哲委員(早稲田大学商学学術院教授)が、自身が特別研究員として関わる金融庁金融研究センターの研究プロジェクト「監督当局及び保険会社における代理店管理の在り方」について報告。英国、ドイツ、米国(ニューヨーク州)、韓国の4カ国における保険代理店に関する制度の比較として、大規模であることを要件とする保険代理店に対する上乗せ規制、保険代理店における監督者や責任者の配置、保険会社における利益相反等防止義務等での相違点などを紹介した。
この後、各委員やオブザーバーが今回のテーマについて意見を表明。全体として事務局が提示した対応の方向性に賛同する意見が多かった。
最後に、日本保険仲立人協会がプレゼンテーションを実施。保険仲立人の位置付けや活用するメリットを紹介した上で、今後の活用促進に向けた制度等の見直しの要望として、①保険仲立人の保証金供託制度の見直しによる供託に関わる負担の軽減②保険仲立人が媒介手数料を顧客から受領することを当事者の合意に委ねること③損害保険代理店の特定契約の取扱いに関わる規制の保険仲立人への準用を廃止④保険仲立人と保険代理店等との協業の許容⑤海外直接付保における保険仲立人の活動促進―の5点を説明した。