2024.07.01 損保大手4社 保険料調整行為に関する業務改善計画 金融庁に5月末時点の進捗状況を提出

 東京海上日動、三井住友海上、あいおいニッセイ同和損保、損保ジャパンの4社は6月14日、昨年12月26日に受領した保険料調整行為に関する業務改善命令に基づき2月29日に提出した業務改善計画の5月末時点の進捗状況等を金融庁に提出するとともに、その概要を公表した。以下、そのポイントを掲載する。
 ■東京海上日動
 政策株式の売却について、5月に適正な競争を阻害する要因となり得る政策株式(非上場株式と資本業務提携による出資等は除く)を29年度末までにゼロにする方針を決定し、同方針を踏まえた保有先との対話を開始した。
 本業協力の対応方針を見直し、24年9月末までに▽本業協力の多寡が顧客企業の保険加入や代理店における保険会社の収入保険料シェアの決定に直接的に連動する要請や、具体的な金額・数量等を指定した本業協力の要請について解消を申し入れる▽前記以外の場合でも、顧客・代理店に対して過度な本業協力の解消について申し入れる―を実施するための対応を開始した。
 また、従来の営業目標の考え方・運用方針等を見直し、営業部店・課支社が担当地域や担当マーケットの特性等に応じ、顧客起点、パーパスの実現に向けた行動や施策を積み上げ、自主的に目標を設定する「自主目標」形式へ変更。24年度から同社としてマーケットシェアを評価軸として活用しない方針へ変更するとともに、同年4月実績分から、損害保険業界全体で営業成績の交換を停止した。
 組織の収入保険料目標の達成が大きなウェイトを占めていた表彰制度を刷新し、顧客起点の業務運営、パーパスの実現に向けた取り組みを定性・定量両面で総合的に評価する制度へ変更。入賞部店は、相対評価・ランキング方式による選定から、自ら掲げた課題への取り組み状況を絶対評価した上で選定する方式へ変更した。
 また、業績評価制度については、社員一人ひとりがやりがいのある目標を掲げ、「正しいことを正しく行う」プロセスが評価される人事評価制度をより厳格に実行する観点から改定を実施した。
 ■三井住友海上
 政策株式について、30年3月末までの保有ゼロ実現に向けて、上場株式について投資先企業から全株売却の了解を取り付ける活動を推進している。24年5月、政策株式を安易に「純投資」として保有しないために「純投資」等の定義を明確化していくとともに、態勢整備の一つとして、銘柄選定等の運営を営業第一線から独立して行う純投資株式の専門組織(企業ファイナンス部株式運用チーム)を新設した。
 本業協力では、24年3月に過度な便宜供与や特別利益の提供を実施しないよう、本業支援の実施基準を策定し、営業第一線向けの「国内営業方針解説書」および「お客さま・兼業代理店が取り扱う商品・サービスの購入等(本業支援)のマニュアル」等に明記の上、運営を開始した。同4月には運用の実効性を確保するため、スピークアップ制度等を活用し、基準の遵守状況のモニタリングを開始した。
 営業予算と評価基準の見直しでは、24年4月に営業組織評価制度における営業予算達成率の配点ウェイトを引き下げるとともに、社員の目標管理制度の運営マニュアルを改定し、営業予算達成率に偏重することなく、営業組織評価の各項目と連動する形で目標設定することを明記し、周知を図った。併せて人事考課運営要領を改定し、営業組織目標全般への貢献度に応じて評価することを明記した。また、同月にライン長業務ハンドブックを業務改善命令を踏まえた内容に改定し、同月に実施したライン課長向け研修で周知徹底を図った。また、同年2月に就業規則に基づく「組織長服務基準」を策定し、ライン部課長が遵守すべき5項目の中に「心理的安全性の確保」を織り込み、4月に実施したライン部長・課長研修で周知した。
 ■あいおいニッセイ同和損保
 政策株式保有の見直しでは、保有を次期中期経営計画年度末(29年度末)までにゼロとするため、削減計画や具体的な実行策・計画を策定するとともに、営業部門向け説明会を開催し、投資先との交渉を開始している(24年5月)。政策株式から純投資等への区分変更を行う場合は、実質的な政策株式の保有継続とならないように、態勢整備を行う予定。
 本業支援の見直しでは、会社と社員によるサービス・物品の購入について、保険契約の獲得やシェアの維持・拡大等を条件とせず、適正かつ公正に行うために、ガイドラインを作成し周知徹底している(24年4月)。サービス業者・購入先・発注先・要請元・斡旋先等に対しては、保険契約の獲得やシェアの維持・拡大を条件としないことを丁寧に説明している。
 営業部門方針の見直しでは、24年度営業部門方針を策定し、4月に開催した全社員向けの進発会議(全役員・部支店長が参加、他役職員は動画視聴)で、お客さま本位に生まれ変わるための取組策(同社にとって当たり前となっている営業風土・慣習を払拭するため、営業スタイル、代理店との関係性、部支店マネジメント、評価体系等の抜本的見直し)を周知した。
 営業店評価・表彰の見直しでは、トップラインを意識した契約獲得に重点を置いた評価体系を大幅に見直し、プロセスを重視した評価へ刷新し、取り組みを開始した(24年4月)。これまで営業店表彰の入賞必須要件だったトップライン達成を廃止し、24年度からプロセス評価や顧客満足度の評価ウェイトを拡大している。「CSV×DX」に資する取り組みを営業店のプロセス評価の最重要項目に位置付け、「お客さま本位の営業活動」「地域・社会の課題解決を通じて未来を創る活動」など、プロセス評価のウェイトを拡大した。
 人事評価制度の見直しでは、プロセスを重視した評価へ刷新し取り組みを開始(24年4月)。人事考課のための目標対話制度で、「ポジティブ・コンプライアンスの推進、お客さま本位の業務運営に関する具体的行動」を評価項目として設定した。人事考課では、従来の成果要素を廃止。
 ■損保ジャパン
 政策株式の削減については、新中期経営計画の期間中に4000億円超の削減目標とすることを予定していたが、環境変化と30年度末までにゼロを目指すという目標を踏まえ、同期間中の削減額を6000億円以上とすることを決定した。
 過度な便宜供与等については、全職員向けに代理店・契約者に対する「本業支援に関する考え方(プリンシプル)」を開示し、『1.本業支援の対価として取引拡大・維持を依頼すること』『2.お客さまや当社(役員・社員を含む)の不利益となる本業支援』を禁止し、営業店向け説明会を開催した。加えて、5月14日には本業支援ケースブック(QA集)を社内開示した。今後、有識者会議の議論の状況を踏まえてケースブックを充実させるとともに、代理店へも丁寧に説明を進める。
 営業推進態勢・営業目標の設定の見直し、組織目標の設定や各種表彰制度の運用については、従来のトップラインやマーケットシェアを重視した内容から、品質と収益の向上に向けた行動に重点を置く内容とし、5月に全社展開した。部支店の経営計画の策定に当たっては、SJ―Rの価値基準(三つのビジョン、五つの約束)の要素を織り込んだうえで、部店のビジョン・あるべき姿を明記することとした。
 人事評価とその運用を見直し、個人単位の目標設定については、営業方針・保険金サービス方針の発出を踏まえて、あるべき姿を目標設定例として5月に全社展開。加えて、行動評価と仕事評価のそれぞれについて、▽行動評価の着眼点におけるコンプライアンス項目を上位概念(行動評価の欠格要件)として定める▽部店長や課支社長が策定する「部店・課支社経営計画兼部店長・課支社長仕事目標シート」に基盤目標として「コンプライアンス」「品質」「企業風土」を新たに設ける―改定を実施した。