2024.06.28 金融庁 「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」報告書公表 健全な競争環境実現に向け意見取りまとめ 今後、法改正含め行政対応を早急に検討

 金融庁は6月25日、「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」(洲崎博史座長)の報告書を公表した。昨年以降明るみになった旧ビッグモーター社による保険金不正請求事案や大手損保による企業保険分野での保険料調整行為事案に関して、同庁が一連の行政対応等において認識した構造的な課題について顧客本位の業務運営の徹底、保険市場の健全な競争環境の実現の観点から3月~6月にかけて有識者会議を実施し、指摘された主な意見を取りまとめたもの。今後、実施を決めた施策のうち法改正が必要なものについては金融審議会の開催を早急に検討していく。法改正せずに実現可能なものについては、2024事務年度内に監督指針を改正するなど速やかに対応していく。
 同報告書は、6月7日開催の第4回会議で提示された報告書案から文中の言い回しなど細かな修正を加えたほか、同会議での議論を踏まえていくつかの意見を盛り込んだものの大筋では同じ内容になっている。
 冒頭の「Ⅰ.はじめに」では、一連の問題やそれを受けて行った金融庁の行政対応とその間の問題意識など有識者会議を開催した経緯を記載。続いて、同会議で有識者から指摘された具体的な意見をまとめたものとして、「Ⅱ.顧客本位の業務運営の徹底」「Ⅲ.健全な競争環境の実現」「Ⅳ.その他の論点」と続き、最後に「Ⅴ.おわりに」で結んでいる。
 「顧客本位の業務運営の徹底」は5項目に分かれており、「1.大規模代理店に対する指導等の実効性の確保」では、①損保会社による代理店に対する指導等の実効性の確保②金融庁・財務局のモニタリング強化③第三者による代理店の業務品質の評価の枠組みの検討④損保募集人の試験制度や継続教育の高度化・厳格化等⑤態勢整備の厳格化、自主規制機関についての検討―が示された。
 「2.代理店手数料ポイント制度」では①「規模・増収」に偏ることなく「業務品質」を重視する評価体系への変革②「業務品質」の指標を顧客にとってのサービス向上に資するものとする―を記載。「3.保険会社による代理店等への過度な便宜供与等の制限」では①自社保険商品の優先的な取扱いを誘引する便宜供与等の解消②自社の保険商品の優先的な取扱いを誘引する他、代理店の自立に向けた動きを阻害する出向等の解消―について記した。
 「4.乗合代理店における適切な比較推奨販売の確保」では①顧客の最善の利益を勘案した比較推奨の確保②顧客の保険リテラシー向上の支援(商品ガイドブックの作成等)―の2点を示した。「5.代理店の兼業と保険金等支払管理部門の独立性確保等」では①代理店の兼業による弊害を防止するための措置の実施②適切な保険金等支払管理態勢の確保(営業部門からの介入の排除等)―について記載されている。
 一方、「健全な競争環境の実現」では「1.競争環境の歪みの是正」で①独占禁止法抵触リスクをはらむ共同保険のビジネス慣行の適正化②政策保有株式の縮減及び不適切な便宜供与の解消―が、「2.損保会社における態勢の確保」では①独占禁止法等を遵守するための適切な法令遵守態勢の確保②コンプライアンス上不適切なインセンティブとならない評価体系の策定等、適正な営業推進態勢の確保③リスクに応じた適切な保険料を提示するための保険引受管理態勢の強化―が示された。「3.企業内代理店のあり方」では①企業内代理店の立場の明確化、情報共有ルールの策定②企業内代理店の実務能力の向上(損保会社による指導等の態勢整備、不適切な代行の解消等)③企業内代理店の自立の促進(特定契約比率の見直し等)―が盛り込まれた。
 また、「その他の論点」では「特別利益の提供の禁止」「個人の保険契約者に対するリスクマネジメントのインセンティブ付け」「企業のリスクマネジメント意識の向上」などについて説明されている。
 同報告書を受けて金融庁では早急に検討を進め、実施を決めた施策のうちすぐに実現可能なものについては、24事務年度内に監督指針を改正するなど速やかに対応していく。一方、例えば大規模な保険代理店に対して「より厳格な態勢整備を求めること」や「自主規制機関等の設立」など、実施に際して法改正が必要なものについては金融審議会の開催などを検討していく。
 金融庁では、「本報告書は、有識者会議のメンバーの皆さまから金融庁や損保業界が今後行っていくことに関する全体の見取り図を提示いただいたものと認識している。本報告書を重く受け止めて、今後、金融庁では具体的な制度や監督指針の改正について、損保業界であれば損保各社が自ら取り組む業務改善などについて、より具体的な施策を検討した上で実施していくフェーズに入っていくことになる」としている。