2024.06.27 金融庁 第149回自動車損害賠償責任保険審議会 保険料の経費計算方法見直しへ 26年4月からの新基準適用開始目指す
6月4日に第149回自動車損害賠償責任保険審議会(藤田友敬会長)が金融庁で開催され、自賠責保険における経費の計算方法の検証・見直しについて議論が行われた。審議会事務局と損保協会から見直しの必要性や今後の進め方について報告が行われ、議論の結果、①損保協会で客観性・透明性を十分に確保した第三者委員会を設置の上、▽経費計算基準等について業務実態に合っているか検証した上で必要に応じて見直しを行うこと▽将来的に経費計算基準等を見直す場合の手続きを導入すること―について検討を行うこと②2025年1月に開催予定の同審議会で第三者委員会での検討結果を報告すること―が了承された。
自賠責保険の保険会社の経費に充てられる保険料である社費については、①保険会社各社が自社でかかった経費を所定の計算方法に沿って算出し、損保料率機構に報告した上で、②損保料率機構が各社からの報告に基づき全社でかかった経費を集計し、社費の水準の検証を行っている。
自賠責保険の社費は「ノーロス・ノープロフィットの原則」を満たす必要があり、その算出の基礎となる経費は、各社の個別事情によらず、全社共通の基準により客観的・統一的に自賠責保険に要した経費を捉えるための基準である「経費計算基準(損保協会作成)」を用いて計算されている。
経費計算基準では、自賠責保険に要した費用の計算方法を、業務実態調査結果に基づいた基礎数値等を用いて各費目ごとに定め(現業部門社員給与、借地借家料、減価償却費など)、それらを積算することで経費を計算する。
また、保険会社全体ではノーロス・ノープロフィットを実現しつつ能率的な経営を行う仕組みとして、保険会社各社が計上する経費計算基準による経費は、全社平均水準までしか認めないこととしている。この仕組みにより、個社単位では全社平均水準を上回った場合には差額の調整がなされることで、経費抑制のインセンティブ機能が働いている。
代理店の経費に充てられる保険料である代理店手数料については、算出に必要な基礎数値(自賠責契約1件当たりの所要分数及び所要経費)として統一的な数値を定め、賃金や物価の増減率を勘案して算出している。
自賠責保険契約1件当たりの代理店手数料は、代理店において自賠責保険契約の取り扱いに要する人件費・物件費の積算で算出されている。
社費の計算基礎となる経費計算基準および代理店手数料の算出における基礎数値は、2012年に自賠責審議会で報告の上で改定されたが、それ以降は見直しが行われていない。
一方で、前回改定以後、自賠責保険契約情報の登録から自賠責保険証明書の発行まで行うシステムであるe―JIBAIの普及率上昇等のデジタル化が進展しており、また、今後は一部手続きの非対面化やキャッシュレスを実現する共同システムが一部の保険会社で24年11月から導入予定であるなど、自賠責保険の経費に影響を与え得る環境は変化している。
審議会事務局は、「こうした環境変化を踏まえれば、現在の経費計算基準等の妥当性等を検証した上で必要に応じ改定するとともに、共同システムによる経費削減等、今後発生する変化を適時適切に反映する必要があるため、将来基準等を見直すための手続きを定める必要がある」と指摘し、損保協会に対し、①経費計算基準等が業務実態に合っているか検証し、必要に応じて見直しを行うこと②経費計算基準等を将来的に見直すための手続きの導入―について検討を依頼するとともに、その検討結果について25年1月に開催予定の自賠責審議会で同協会から報告するよう要請した。
これに対し損保協会は、「前回見直し時から、デジタル化の進展や法改正対応などの経費計算基準等に影響し得ると考えられる環境変化があったことを踏まえると、損保協会としても経費計算基準等が今日的に妥当か検証したうえで、必要に応じて見直すべきと考える。本自賠責審議会終了後、協会内に第三者委員会を設置し、具体的な論議を行い、その結果を2025年1月の自賠責審議会に報告したい。第三者委員会は、客観性を確保する観点から第三者委員のみで構成し、金融庁もオブザーバーとして参加のうえ、損保協会は適切な論議ができるよう情報提供等の必要なサポートをする事務局として参加したい」との考えを示した。
今後、損保協会では、同協会内に会議体(客観性・透明性を十分に確保した第三者委員会)を設け、現在の経費計算基準等の妥当性等を検証し、再度自賠責審議会で議論のうえ、経費計算基準等を必要に応じて改定するとしている。
その他、委員からは、「前回の見直しから既に12年が経過しており、その間の環境変化を踏まえると現在の経費計算基準等の適切性・妥当性を検証した上で必要に応じ改定することと、今回の見直し後も将来的に見直すための手続きを導入することについて賛成する」「今後導入が予定されている、キャッシュレス化やウェブ手続きを実現する共同システムの経費計算基準等への影響を検討した上で、25年の1月の自賠責審議会で報告するのはスケジュール的に難しく、間に合わないのではないか」「第三者委員会の運営およびその検討プロセスについて、自動車ユーザーや国民に納得いただけるよう、客観性・透明性を確保することが大切だ」「今後の見直し作業に当たっては、ノーロス・ノープロフィットの原則が担保されるようにお願いしたい」などの意見が寄せられた。
審議会事務局の示す計画案によると、25年1月開催予定の自動車損害賠償責任保険審議会で検討結果を報告した後、同年4月から(最速で24年度決算期から)新基準に基づく保険会社の経費計算を開始。26年1月開催予定の自動車損害賠償責任保険審議会を経て、最速で26年4月からの新基準等に基づく自賠責保険料の適用開始を目指すとしている。
自動車損害賠償責任保険審議会委員(敬称略・五十音順、6月4日時点)
▽会長:藤田友敬(東京大学大学院法学政治学研究科教授)
▽委員:荒川裕司(一般社団法人日本損害保険協会自賠責保険特別委員会委員長)、大野澄子(弁護士)、加藤憲治(一般社団法人日本自動車会議所保険特別委員長)、金子晃浩(全日本自動車産業労働組合総連合会会長)、京井和子(NPO法人いのちのミュージアム事務局)、慶島譲治(全日本交通運輸産業労働組合協議会事務局長)、武田涼子(弁護士)、寺田一薫(福島学院大学マネジメント学部地域マネジメント学科教授)、長島佳史(全国共済農業協同組合連合会代表理事専務)、波多江久美子(明治学院大学法学部教授・弁護士)、細川昭子(弁護士)、唯根妙子(特定非営利活動法人消費者機構日本理事)
▽特別委員:川口伸吾(損害保険料率算出機構専務理事)、桑山雄次(全国遷延性意識障害者・家族の会代表)、坂口正芳(一般社団法人日本自動車連盟会長)、細川秀一(公益社団法人日本医師会常任理事)、宮木由貴子(第一生命経済研究所常務取締役ライフデザイン研究部長兼首席研究員)、麦倉泰子(関東学院大学社会学部教授)