2024.01.18 SOMPOHD ビッグモーター社保険金不正請求事案、社外調査委の調査報告を公表 組織を挙げて社会的使命の再確認からと提言

SOMPOホールディングスでは、ビッグモーター社(㈱ビッグモーター、㈱ビーエムホールディングス、㈱ビーエムハナテンの3社、以下BM)による自動車保険金不正請求への損保ジャパンの対応について、昨年8月7日付で第三者からなる社外調査委員会を設置し調査を進めてきたが、1月17日、社外調査委員会から「調査報告書」を受領したと発表し同報告書を公表した。SOMPOホールディングスは「本件につきまして、お客さま、代理店の皆さま、株主および関係者の方々に多大なるご迷惑とご心配をおかけしておりますことを、心よりお詫び申し上げます」とした上で、損保ジャパンおよび同社として、社外調査委員会による調査結果を真摯に受け止めるとともに、再発防止策に係る提言も踏まえ、実効性のある再発防止策を策定し、実行していくとしている。近く、再発防止策も含めた損保ジャパンおよびSOMPOホールディングスの対応について記者会見を開催する予定。

社外調査委員会(委員長:山口幹生弁護士、委員:片岡敏晃弁護士、大森一志弁護士の3人)による調査は、2023年7月26日から24年1月16日の間、関係資料の精査、メール等の解析、関係者のヒアリング(合計78人)、件外調査(社内及び社外アンケート、臨時通報窓口設置)によって実施され、昨年10月10日には「中間報告書」が開示されていた。
社外調査委員会による調査の目的は、①損保ジャパンがBMによる不正請求の疑いを認識したにもかかわらず、追加調査を実施することなく、いったん停止していたBMへの入庫紹介(DRS)を再開させた経営判断の在り方②損保ジャパンからの出向者がBMによる不正請求に関与していた疑いの有無③親会社であるSOMPOホールディングス(SOMPOHD)のグループガバナンスの在り方―とされ、そのほか、原因分析と再発防止策の提言も調査委員会の目的とされていた。
調査報告書概要によると、今回の調査で判明した事実として、損保ジャパンとBMとの関係については、「損保ジャパンは、BMが資源性の高い事業者であったことから、同社との取引関係を一層強化すべく、営業部門においては、DRSを営業ツールと位置付け、BMとの間でDRSの入庫目標台数を合意し、これを保険金支払部門(保サ部門)に伝え、その達成を強く求めていた。保サ部門は、BMの工場の品質が低いことを認識していたが、営業部門からの要請を断ることができず、BMへの入庫を優先させていた」とした。
BMによる不正請求の疑いを認識した後の損保ジャパンの対応については、「損保ジャパンは、2022年1月以降、情報提供者らと面談するとともに、乙社及び甲社(同業の損保会社)とともにサンプル調査を実施した結果、3社合計で75件の疑義事案が確認されたことなどから、同年6月、BMに自主調査を要請した上、3社共にDRSを停止した。BMの自主調査においては、工場長による不正の指示が確認されたが、BMのBP部門を統括する幹部により『指示はない』との内容に改ざんされた。このことは、BMへの出向者から損保ジャパン関連部署に報告された上、遅くとも同年7月上旬には同社社長以下の経営層にも共有された。この不正請求事案について、損保ジャパンの法務・コンプライアンス部は、分掌規程等の所掌事務規程の不備等により、直接には保サ部門の所掌に属すると理解し、法務・コンプライアンス部自身が主導して対応すべき事案とは認識していなかった。同月6日の役員ミーティングの結果、3社の中で損保ジャパンのみが再発防止策の実施を条件としてBMへのDRSを再開する経営判断がなされることになったが、このミーティングは、そもそも非公式のもので、DRS再開の是非という重要事項が議題として予定されていなかった上、議論においては、他社動向のみが強調され、上記改ざん事実は重視されず、むしろ、BMが重要な取引先であったことからトップラインの確保を優先する思惑から、主として社長の意見に釣られるようにして、安易に上記判断に至った。同年8月29日、DRS再開を批判する報道が出てから初めてレピュテーションリスクを認識し、ようやく、損保ジャパンからSOMPOHDにメールで第一報が入れられたが、それまでSOMPOHDは事案そのものを承知していなかった。同月31日、SOMPOHDの会長及び社長に対し、損保ジャパン役職員から事案の報告がなされたが、上記改ざん事実は伝えられず、DRSの再開については、既に再発防止策を実施していることから問題はない旨の説明にとどまった。そのため、SOMPOHDにおいては、グループ経営上の危機事案であるとの認識には至らなかった」としている。
出向者が本件不正請求に関与していた事実は、調査の結果認められなかった。
原因分析については、①人的要因②制度的要因に分けて分析された。
人的要因では、▽損害保険制度の社会的使命に対する自覚が乏しかったこと(損害保険制度の社会的使命やその運営を担う損保会社の責任の重大性についての自覚が著しく乏しかった)▽自社都合・代理店対応に重きを置く余り、真の顧客利益を重視し得なかったこと(DRSの再開は、いまだ品質保証のできない工場に事故車両の修理を紹介することであって、真の顧客利益重視の視点を欠いたもの。トップラインないしシェア確保という自社都合・代理店対応を優先する意識が存在していた)▽リスク認識及び危機対応の前提としての想像力の乏しさ(損保ジャパンのみがDRSを再開することによるリスク認識が乏しく、対応を誤ればどのような危機を招くかについての想像力も欠けていた。前記報道以降も、重要事実をあえて伏せ、かつ問題を矮小化した報告をするなどした結果、SOMPOHDにおいてもリスクを過小に認識し、迅速果断な対応ができなかった)▽経営層と現場役職員との意識の著しい乖離(BMに関するマイナス情報が経営層に共有されず、経営層と現場役職員の意識に著しい乖離や情報格差があった)▽役職員に見られる主体性の乏しさ(縦割り思考、他責思考―7月6日の前記ミーティングに出席した役職員は、特段異を唱えることなく問題ある決定を受け入れたものであり、各自の主体性の乏しさが見て取れる)―とされた。
制度的要因の面では、▽内部統制システムの不備及びコンプライアンス体制の機能不全(本件においては、損保ジャパン内で、責任をもって主体的に対応する意思及び能力を持った部署等が判然とせず、コンプライアンス体制が機能不全を起こしていた)▽営業部門の偏重と保サ部門の相対的弱体化によりDRSの適正運用ができなかった(営業部門優位、保サ部門軽視といった傾向は、後者の業務に対するモチベーションを低下させ、その結果、BMの工場品質に対するモニタリングが十分に機能せず、DRSを適正に運用できなかった)▽背景事情(トップライン、マーケットシェアの偏重、整備工場と保険代理店の兼業、生産性向上の歪み)▽損保ジャパンとSOMPOHD間の適時・適切な意思疎通の不足によるグループガバナンスの実効性阻害(普段からの非公式な報告連絡態勢を含め、意思疎通が十分ではなく、グループガバナンスの実効性を阻害する要因となっていた)―としている。
再発防止策の提言では、①損害保険制度の社会的使命の再確認②顧客視点での業務遂行の徹底③内部統制上の問題点の改善④ガバナンスの改善⑤保サ部門の適正化⑥グループガバナンスの向上―の各項目別に提言が行われているが、調査報告書(公表版)で、「損害保険制度の社会的使命の再確認」については、「損害保険制度を担う損保会社も営利企業である以上、売上げ拡大ないし利益増大を目標とすることは当然であり、そうした観点からできるだけ多くの契約の獲得を目指すことが否定されるべきではない。しかしながら、前記のとおりの損害保険制度の趣旨に照らすと、支払漏れをなくす一方で、過払いを防止し、もって適正な保険金支払を実現してこそ、初めてその使命を全うすることができるのである。しかるところ、既に検討したとおり、損保ジャパンにおいては、組織の実態として、保険金支払の機能を担っている保サ部門が営業部門等に比して軽んじられ、ときに、本件におけるDRSの運用に象徴されるように、営業部門の意向をおもんばかった業務を行う傾向が見られた。そこで、まずは、組織を挙げて損害保険制度の社会的使命を再確認するとともに、対外的にも自社の確固たるメッセージとして発信すべきである」と指摘されている。