2024.01.11 第一生命HD 法人・従業員向け福利厚生サービス大手、ベネフィット・ワンを買収へ 保険業から保険サービス業への進化目指す
第一生命ホールディングス(以下、第一生命HD)は昨年12月7日、企業従業員向け福利厚生サービスの㈱ベネフィット・ワン(東証プライム上場)の普通株式を公開買付けにより取得することを発表した。7日の発表では1株当たりの株式価値を1800円としていたが、12月21日に買付価格を2123円とすることを決定したと発表している。この公開買付けの決済に要する買付代金の総額は1645億円で、ベネフィット・ワン親会社のパソナグループからの自己株式取得による対価の支払いに要する資金との合計は2856億円を見込んでいる。公開買付は24年1月中旬をめどに開始、期間は20営業日を予定している。
ベネフィット・ワンについては、昨年11月14日付で医療従事者向け医療ポータルサイト運営のエムスリー㈱が、ベネフィット・ワンを同社の連結子会社とすることを目的とした公開買付けを行うと発表していた。公開買付価格は1株当たり1600円、買付期間を23年11月15日~12月13日(20営業日)としていた。エムスリーはその後、ベネフィット・ワンから第一生命HDからの提案の検討に期間を要するとの要請を受けて、公開買付期間を24年1月17日までの40営業日に延長したと12月12日に発表している。
第一生命HDは、「12月21日現在、ベネフィット・ワンの取締役会から本公開買付けに対する意見表明を受けていないが、公開買付け等の本取引は、ベネフィット・ワンおよびその株主にとって魅力的な提案であると考えており、ベネフィット・ワンの取締役会から本公開買付けに賛同いただけるものと考えており、同社の取締役会に提案の内容につき理解いただき、本公開買付けに賛同いただけるよう引き続き協議および検討を進めていく」としている。
ベネフィット・ワンは、会員制によって企業従業員向けに各種サービスメニューを割引価格で提供する福利厚生サービス等を行うことを目的に㈱ビジネス・コープとして1996年3月に設立。その後、2001年4月に㈱ベネフィット・ワンに商号を変更し、04年12月にJASDAQ市場へ上場した後、06年3月に東京証券取引所市場第二部に上場し、18年11月に同第一部に上場した。現在は東京証券取引所プライム市場に移行している。23年11月15日現在、ベネフィット・ワングループは、ベネフィット・ワン、連結子会社10社、持分法適用会社1社および非連結子会社1社により構成されており、職域を中心とする会員基盤の拡大と、サービスサプライヤ(レジャー・エンタメ等福利厚生サービス提供事業者)のネットワーク化を進めることで、企業の経営課題解決や消費者の利用満足度向上に資する事業を展開している。
第一生命HDは、23年度を通じて24年度から開始する次期中期経営計画の方向性を検討する中で、30年にグローバルトップティアの保険グループになることを目指すためには、「保険を提供する会社」から「保険も提供する会社」、つまり保険業から保険サービス業へ進化し、「保障」「資産形成・承継」「健康・医療」「つながり・絆」の四つの体験価値をシームレスに提供するエコシステムを構築することが肝要だと考えるようになった。そこで、非保険・非アセットマネジメント事業への大胆な進出を視野に入れ、エコシステムの根幹を成すプラットフォームの獲得を検討する一環で、法人・従業員向けにさまざまなサービスを提供する福利厚生業界における有力な事業者であるベネフィット・ワングループの事業に魅力を感じ、同社との資本業務提携を選択肢の一つとして考えていた。
第一生命HDは、今回の公開買付けで目指すベネフィット・ワンの企業価値向上として、同社の「企業向け総合福利厚生ソリューションの提供の拡大・拡充」を挙げ、持続的な企業価値の向上のため人的資本経営の重要性が高まる中、ベネフィット・ワンの固有サービスに第一生命HDの持つサービスを上乗せ提供することで、企業課題を総合的に解決しBtoEサービスのさらなる付加価値向上・競争力強化につなげる―とした。
ベネフィット・ワンのバリューアップへ向けて第一生命HDが提供可能な支援として、①福利厚生事業・ヘルスケア事業だけでなく、さまざまな事業・領域・地域で協業することによる成長加速②同社グループの経営資源の有効活用によるシナジーの発現―を挙げた。
福利厚生事業では、ベネフィット・ワンの成長と企業課題・社会課題の総合的な解決に同社がビジネスパートナーとして貢献することで、第一生命グループの16万社の法人顧客、支社92拠点、約4万人の営業担当と、ベネフィット・ワンの持つ1万5600団体の福利厚生サービス導入企業、948万人に上る福利厚生事業の顧客を通じて、グループ顧客基盤の提供を通じた競争力強化・スケール拡大を目指す。
ヘルスケア事業では、ベネフィット・ステーションに第一生命グループの健康増進アプリ「QOLism」を提供することで、ヘルスケアデータを基にした福利厚生サービスを通じ顧客体験価値向上に貢献。同社が連携協定を結ぶ自治体、ナショナルセンターの基盤を活用することで、地域に根差した健康増進活動の推進、正しい情報提供や予防啓発の促進が可能になるとした。今後も第一生命グループでは健康・医療分野での事業拡大を進めていく予定で、それらサービスについてもベネフィット・ワンに提供可能となるとしている。
海外事業では、第一生命HDの海外拠点で、企業向けビジネスを展開している地域での海外版ベネフィット・ステーションの展開をサポートするとともに、システム・事務オペレーションの集約等、ベネフィット・ワンと同社の海外事業展開におけるコストシナジーの発出を目指す。
第一生命HDによるベネフィット・ワンのPMI(Post Merger Integration:買収成立後の経営統合プロセス)およびガバナンスイメージについては、「当社のPMIの基本的スタンスとして、買収先の経営陣を尊重し、当社グループのノウハウや資金力の潤沢な提供による、買収先の自足的な成長を志向している」とし、豪TAL、米プロテクティブ、アイペットホールディングスの子会社化の例を挙げた上で、「当社は国内外で多くのM&Aを実行し、これまでもマーケット特性に応じた機動的な資本支援を行うことで、成長機会を的確に捕捉してきた」と強調した。
その上で、「当社がベネフィット・ワンのサービス拡充を支援することで、ベネフィット・ワンのBtoEプラットフォームのさらなる進化が見込めると確信している」としている。