2024.01.09 独禁法に抵触すると考えられる保険料調整行為 金融庁が大手損保4社に業務改善命令、企業分野の適正な競争実施の環境整備求める
金融庁は昨年12月26日、大手損害保険会社4社(あいおいニッセイ同和損保、損保ジャパン、東京海上日動、三井住友海上)に対し、独占禁止法に抵触すると考えられる保険料調整行為等について保険業法第132条第1項に基づく業務改善命令を発出した。各社は同日それぞれ、同業務改善命令を受領したことを発表するとともに、「今回の業務改善命令を厳粛に受け止め、深く反省するとともに、今後このような事態を二度と起こすことがないよう全社を挙げて改善と再発防止に努めていく」趣旨のコメントとともに、再発防止策の検討と実行を表明した。なお、損保協会では、問題が明らかになって以後、ただちに再発防止に着手しており、会員全社に対して法令遵守の徹底を要請、12月15日に「ルール面での整備」「会員各社や代理店向けの啓発」を2本柱とした取り組みを進めていくことを発表している。
金融庁では同日、「大手損害保険会社の保険料調整行為等に係る調査結果について」を公表、独占禁止法に抵触すると考えられる行為および同法の趣旨に照らして不適切な行為について、少なくとも1社の保険会社において不適切行為等があるとされた保険契約者が576先(12月26日時点。1社から報告458先、2社以上から報告118先)あったとし、①幹事社・シェア等の契約条件について現状維持をしたいと考え、保険料等を調整したもの②他社から保険料調整等の打診があり、応じたもの③より有利な条件(保険料等)で契約をするために(不利とならない場合を含む)、他社と調整をしたもの④他社水準と大きく乖離した条件を提示することで、他契約(保険契約者や代理店が当該契約と同一)への悪影響を懸念し、他社の保険料等を確認した上で、契約条件を提示したもの⑤代理店から保険料調整等の打診があり、応じたもの―といった類型が認められたとしている。
さらにこうした不適切行為等は、特定の部署で発生または特定の担当者が実行したのではなく、社内の企業営業部門を中心に広く認められたとし、その要因として、①損害保険業界を取り巻く環境変化や独占禁止法遵守に向けた取り組みの変化②企業向け営業担当者を取り巻く環境―を具体的に指摘した。
調査結果から、「不適切行為等は反復・継続して行われていたと認められる」「不適切行為等のうち33%は違法または不適切と認識しながら行われており、また、67%は担当者が不適切という認識がないか、問題ないと認識していた」「営業担当者において独占禁止法等に抵触する行為もしくは法令の趣旨に照らして不適切な行為を行うリスクに対する理解が不十分、またはコンプライアンス意識や顧客本位等の観点が著しく欠けていた」「営業担当者のみならず、上司も不適切行為等を黙認あるいは誘発する環境を作っていたと認められる」―と指摘した。
金融庁ではこれらの問題の真因として、①企業保険分野においては、次の要因(▽損害保険会社の数が限られているため、他の損害保険会社との接触機会が多く、連絡を取るのが容易▽政策株式保有割合や本業への支援など、保険契約の条件以外の要素が少なからず影響する顧客企業との関係▽顧客企業グループに属する企業代理店の不明確な位置付け▽基本的に幹事社の保険料を基準として組成される共同保険のビジネス慣行)があり、独占禁止法等抵触等リスクが発現しやすい環境であったことに加え、こうした環境を踏まえた対応を経営陣が十分に検討しなかったこと②営業部門が、更改契約のシェアや幹事社の維持を求められたことで、リスクに応じた適正な保険料を提示することが困難になる中、ボトムラインの改善(保険料の値上げや補償内容の縮小等)も求められたため、不適切行為等を行う必要性が高まったこと③営業担当者をはじめとする社内関係者および代理店に対し、独占禁止法等に関する十分な教育・監督を行ってこなかったリスク認識の甘さ④違法または不適切と認識しながらも、自社の都合を優先し不適切行為等に及んだ営業部門、それらを認識できなかったコンプライアンス部門およびリスク管理部門、内部監査部門の下で醸成された、コンプライアンス・顧客保護を軽視する企業文化―を挙げ、各社の自主的な取り組みに委ねるだけでは抜本的な解決にならない可能性があり、各社の確実な業務改善計画の実施および定着を図っていくためには当局の関与が必要と判断し、業務改善命令を発出したとしている。
業務改善命令の内容は、①今回の処分を踏まえた経営責任の所在の明確化②独占禁止法に抵触すると考えられる事案、同法の趣旨に照らして不適切な行為があった事案について、さらなる事案の特定、調査等③共同保険を含む企業保険分野における適正な競争実施のための環境整備に向けた方策の検討、実施④適正な営業推進態勢及び保険引受管理態勢の確立(独占禁止法等の法令の趣旨に照らし、不適切な行為のインセンティブとならない営業目標の策定やリスクに応じ適正な保険料を提示できる営業活動を実現するための方策の策定を含む)⑤独占禁止法等を遵守するための適切な法令等遵守態勢の確立(営業担当者をはじめとする社内関係者及び代理店に対する十分な教育や適切な監督態勢の構築を含む)⑥コンプライアンス・顧客保護を重視する健全な組織風土の醸成(独占禁止法等の重要な法令遵守よりも自社の都合を優先する企業文化の是正策を含む)⑦上記を着実に実行し、定着を図るための経営管理(ガバナンス)態勢の抜本的な強化―以上を実施すること。
また、上記②を除く事項についての業務の改善計画を、それぞれの事項について具体的な方策を立て、可能なものには数値目標を設定した上で、2024年2月29日までに提出し、ただちに実行すること。2月29日の提出に先んじて、中間的な検討状況を1月31日までに報告すること。当該計画の実施完了までの間、3カ月ごとの進捗および改善状況を翌月15日までに報告すること(初回報告基準日は5月末)。
さらに、上記②の調査結果等については、2月29日までに報告すること―となっている。