2023.06.06 金融庁 東大と連携協力で基本協定締結 職員のデータ分析能力向上目指す、学術と実務の先端的知見を蓄積

金融庁は5月31日、国立大学法人東京大学と金融市場および金融行政に関する学術と実務の先端的知見の蓄積を目指し、相互の円滑な連携協力の遂行に向けた「金融庁と国立大学法人東京大学との間における連携協力に関する基本協定書」を締結した。両者は本協定を通じて、データドリブン手法に関する研究や金融庁職員に対するデータ分析手法と東大生に対する金融リテラシー教育、産学官が連携した研究に向けた新たな資金調達手法の開発などに取り組む。幅広い専門分野の研究者と金融庁職員が金融市場および金融行政を対象にしたさまざまな産官学連携研究プロジェクトを立ち上げ、革新的な研究に展開させていく考えだ。金融庁と東京大学との包括的連携協定の締結は初となる。

金融庁と東大との連携協力事項は、①データドリブン手法による金融市場および金融行政に関する研究②金融庁の職員に対するデータ分析手法の教育および東大の学部生・大学院生等に対する金融リテラシー教育③産官学連携による研究・教育・広報のための新たな資金調達手法の開発―の三つになる。
①については、金融市場を詳細な取引データに基づき純粋に工学的に分析する試みのデータドリブン手法で得られた結果を経済学の視点から分析することで、金融市場および金融行政に関する新しい知見をもたらすことを目指す。
研究では、金融行政の課題等を把握しながら、その解決に向けて、東京大学生産技術研究所複雑系社会システム研究センターが中心となり、大学院経済学研究教員の協力を得て取り組みを進める。また、金融庁が保有するデータを東大の研究者が必要に応じて使用する際の情報セキュリティーや成果公開の方法について、附属合意書という形で協定を結んだ。
②については、東大が金融庁職員に対して、大学が持つ情報科学や計算機科学、ネットワーク技術等に基づくデータ分析手法の教育を行う。また金融庁から東大の学生に対して理系文系を問わず金融リテラシー教育を行う。
③は、今後の研究テーマの拡張に伴い、企業にも研究・教育に参画してもらい産官学連携にすることで、一層の活動の進展が期待できることに加え、企業が参入する際の資金調達の仕組みに関する検討を進める。
近年の金融市場は急速かつ大きく変化しており、最近では高速に発注を繰り返すことでわずかな株価変動を捉えて利益を出す、「High―Frequency Trading(HFT)」と呼ばれる手法も登場し、量も急激に増えていることから、今後は従来の金融行政手法や法規制では対応できないような状況になることが予想される。
さらに、社会全般においても近年の情報科学の進展は著しく、計算機のハードウエアやネットワーク技術にとどまらない性能向上と相まって、大量のデータを高速に扱い分析する技術が発展している。その進展は他の学問分野に比べ桁違いに速く、世界の状況は半年単位で様変わりすると言われている。
金融市場の解析に数学や統計、計算機科学などの数理的手法を持ち込む取り組みは金融工学等の形で1960年代から継続的に行われ大きな成果を挙げている。近年は、金融市場や情報科学が変化する中で、これまでの金融工学にはない手法やこれまでの枠組みを超えた新たな金融市場の解析手法が生まれる可能性が膨らむと考えられている。そうした点が本協定の締結に至った背景となる。
金融庁の中島淳一長官は東京大学について、これまでも金融審議会や有識者会議などで金融行政の企画立案などに参画してもらっているとした上で、「今回の協定ではこうした従来の協力に加え、三つの連携協力項目の取り組みを通じて、学術的だけではなく金融行政視点のさらに進んだ市場間資本の開発や、金融庁職員のデータ分析能力向上、スタートアップ企業の資金調達手段の多様化に向けて、取り組みを着実に進めていきたい」と述べている。
東京大学の藤井輝夫総長は「連携協定を締結することで、金融庁が持つ膨大で貴重なデータと当大学の学知を相互に連携することで、さまざまな取り組みが円滑に展開することを期待している。金融市場と金融行政に関する学術と知識といった双方の先端的な知見を蓄積していくことで、将来的には公益に資する新しい学術的知見を構築していきたい」との考えを示している。