2023.04.28 保険毎日新聞社・中国銀行保険報・韓国保険新聞 「アジア保険フォーラム2023」開催 日中韓の専門家「気候変動対応」語る、金融庁池田氏 「ビジネスモデルの変革が重要」

保険毎日新聞社、中国銀行保険報、韓国保険新聞の保険専門3紙は4月21日、東京都千代田区の損保会館で「アジア保険フォーラム2023」を開催した。同フォーラムは、2008年から日本、中国、韓国それぞれの国の保険業界で活躍する専門メディアである3紙が共同で、保険業界の共通課題をテーマに毎年開催しているもので、日本での開催は5年ぶり。16回目を数える今回のテーマは「気候変動、保険業の危機と機会」で、金融庁チーフ・サステナブルファイナンス・オフィサー(CSFO)の池田賢志氏とサムスン火災企業安全研究所のキム・キョンヒ博士が基調講演を行った他、日・中・韓の保険会社の専門家や大学教授らが登壇する総合討論を実施した。当日は日本の保険業界関係者の他、韓国・中国から行政、大学、業界団体関係者、保険会社役員など合計約80人が参加し、各登壇者の話に耳を傾けた。(全体のもようは後日詳報)

冒頭、韓国金融監督院東京事務所所長のミン・ギョンチャン氏が祝辞を述べ、「気候変動という変化の波が保険産業に大きなリスクとして迫っていることは事実だが、一方で、今は新しい機会と挑戦、成長のチャンスであるとも捉えられる」とした上で、「今日のこの場がきっかけとなり、日・中・韓3国の保険産業の関係者が、お互いに経験と実績を共有し、協力と善意の競争を通じて新しい変化を主導していけることを願う」と呼び掛けた。
次に、20年7月から22年6月にかけて金融庁の保険課長を務め、19年3月からは、サステナブルファイナンスの推進に関連して金融庁に新設されたポスト「チーフ・サステナブルファイナンス・オフィサー」に就任している池田氏が基調講演で登壇し、気候変動に関する金融庁の取り組みを紹介した。
同氏ははじめに、金融監督当局である金融庁が、気候変動を金融上のリスクと認識して取り組みを本格的に始めたタイミングは17年末にNGFS(Network for Greening the Financial System:気候変動リスクに係る金融当局ネットワーク)が創設されてからだと説明した。
NGFSのメンバーシップは創設当初10当局ほどだったが、現在は全世界で120を超える当局が参加しているという。同氏は、このうち欧米諸国やアジアなどの国々で気候関連リスクに係る監督上のガイダンスの策定や、気候ストレステストが実施されていると紹介した。
続けて、気候変動には自然災害の激甚化などの「物理的リスク」と、それに伴う多様な政策的な措置によって炭素価格上昇といったビジネスに影響が及ぶ「移行リスク」があると説明し、金融当局としては双方への備えに関心があると述べた。
また、これら二つのリスクを抑えるには、日本のさまざまな産業が早めにビジネスモデルのトランジションを図っていくことが重要だとした上で、各金融機関には、顧客企業の脱炭素などの気候変動対応への取り組みをフォワードルッキングな認識・評価の下で支援してほしいと働き掛けていると説明した。
その後、金融庁と日本銀行では3メガバンクおよび3損保グループと連携して、NGFSが公表するシナリオを共通シナリオとした気候関連シナリオ分析の試行的取り組み(パイロットエクササイズ)を実施し、22年8月に分析結果を公表したことを紹介した。
保険におけるシナリオ分析では、風災については1959年に発生した伊勢湾台風を基に、将来予測に基づき中心気圧を数パターンで低下させ、伊勢湾を通るルートと首都圏を直撃するルートの2パターンで分析した他、水災については各社のリスクモデル内から、荒川の右岸21キロメートル地点(赤羽岩淵)が氾濫するシナリオを選定し、将来予測に基づき降水量・流量を増加させ分析した。
この結果、風災は中心気圧が下がるにつれ、水災は降水量・流量が増加するにつれて保険金支払い額の増加が確認できたという。また、今後の課題としては、リスクモデルや前提条件の違いから各社の分析結果にばらつきが生じたため、リスクモデルの統一と確率論的な分析の高度化を目的に、損害保険料率算出機構のリスクモデルを各社のシナリオ分析に活用できるようにすることを検討していると説明した。
次に登壇したキム博士の基調講演では、韓国の気候変動とそれに対応したコンサルサービス等について解説が行われた。
同博士ははじめに、韓国の気候は近年、夏の気温に大きな変化はないものの、春と冬の気温上昇が顕著で、降水日数が減少している一方、降水量、降水強度は増加傾向にあるとし、続けて、台風の進路が少しずつ南東に移動しており、これによって中国内陸を通過せず、風速が減速しないまま上陸する台風が出現してきていると説明した。
こうした気候の変化、また、03年9月に上陸した台風「メイ」が従来の台風被害の4倍の損害をもたらしたことをきっかけに、サムスン火災企業安全研究所では、教育、情報提供などによる総合防災サービスの展開を国内の大型事業所を対象に開始。この20年間に韓国国内の一般物件において、損害の全体に占める自然災害起因の損害の割合は年平均で約1.8%にとどめられており、同博士は、この数字は同サービスの効果が表れた上でのものと言ってよいのではないかと強調した。
最後に、同研究所の気候リスクマネジメントについて解説し、自然災害は地域単位で被害が発生することから、地域ごとに保険を受けられる限度額を設定する「累積リスク管理」を実施していることや、その累積リスク管理で得た評価を今後の対策へと発展させ、ESGに結び付けていきたいとの考えを示した。
フォーラムの後半では、韓国・慶熙大学のソン・ジュホ教授の司会進行の下で総合討論が行われ、合計6人の登壇者から気候変動に対する自社の取り組みの紹介、保険の役割の考察などが行われた。登壇者は次の通り。
▽損保ジャパン経営企画部特命部長丸木崇秀氏
▽大韓再保険常務ソン・ヨンフプ氏
▽北京大学教授朱南軍氏
▽早稲田大学教授李洪茂氏
▽アクサ・ホールディングス・ジャパンインターナルコントロール部長藤島ももこ氏
▽浦項工科大学教授チョン・クァンミン氏