2022.12.27 MS&ADHD 「ネイチャーポジティブ」貢献で協創、琉球大発スタートアップ・SMBCグループと協働 自然資本・気候変動分野ソリューション開発へ

MS&ADインシュアランスグループホールディングス(以下、MS&ADHD)、MS&ADインターリスク総研、㈱シンク・ネイチャー(久保田康裕代表取締役)は11月25日、上場企業にとって重要な非財務開示情報となる自然資本の可視化・分析ツールや回復ソリューションの共同開発を含むネイチャー・ポジティブへの貢献を目的とした共創に関する協定を締結したと発表した。また、MS&ADHDは同月29日、㈱三井住友フィナンシャルグループ(以下、SMBCグループ)と自然資本・気候変動分野で相互に協力することで同日基本合意したと発表。その第1弾の取り組みとして、自然資本分野におけるリスク評価とソリューションの開発・提供を目指し協働するとともに、今後は気候変動分野でもソリューションの共同開発等の検討を行っていくとしている。

ネイチャー・ポジティブとは、国の政策や企業の経済活動による取り組みを通じて生物多様性の減少傾向を食い止め回復に向かわせること、また、自然資本分野において自然への正の影響が負の影響を上回る状態を指す。
21年に発足した自然関連財務情報開示タスクフォース(以下、TNFD)は、企業による適切な情報開示の推進を目指しており、MS&ADHDもタスクフォースメンバーを輩出するなど、情報開示フレームワークの開発に向けた動きを積極的に支援している。自然資本に係る戦略の策定や情報開示に当たっては事業活動における自然関連リスク・機会の評価がポイントとなるが、可視化や評価・分析の根拠となるデータセットや手法はいまだ確立されていない。
自然関連のリスクや機会は事業活動エリアごとに変わるため、TNFDではロケーションベースの分析が求められるが、企業が自社の事業インパクトを評価・分析して対策を講じるためには事業活動エリアのサイズに応じた細かさで見る必要があるものの、既存の自然関連データは空間解像度が十分ではなく特定の生物分類群の希少種に偏っているため、生態系サービスへの事業インパクトを適切に評価できないといった課題があった。
シンク・ネイチャーは生物多様性科学分野の研究者で構成された琉球大学発のグリーンテック・スタートアップで、国内で唯一高解像度の自然資本ビッグデータを保有し、AI等の最先端技術を用いた予測やシナリオ分析で高い技術を有している。
協定は、①TNFDを踏まえた自然資本関連データセットと分析ツール等の開発②「動植物種の空間分布予測モデル」を用いた地球規模の生物多様性可視化システムによる事業活動を通じた自然へのインパクト評価(バリューチェーンと自然の接点や依存度の把握など)の実施③企業や自治体等においてネイチャー・ポジティブを推進できる人財を育成するための各種教育プログラムの開発―を主な内容としており、シンク・ネイチャーが開発する自然資本ビッグデータとAIを統合した「動植物種の空間分布予測モデル」や「自然へのインパクト評価ツール」などの科学的アプローチと、MS&ADインターリスク総研が気候変動・生物多様性の企業向けコンサルティングで培ったノウハウを持ち寄り、事業活動エリアと自然との接点を迅速かつ円滑に評価することを可能にする新たなソリューションの開発を目指す。
また、3社では事業活動エリアを特定できない場合でもロケーションベースのリスクを把握する方法を開発するなど、自然関連の事業インパクトの評価・分析を劇的に強化かつ効率化し、ネイチャー・ポジティブに向けた活動を支援していくとしている。今後は、国内外で協定により開発する自然資本関連データセットと分析方法の浸透を図るとともに、専門家や企業とのさらなる共創を目指していく考えだ。
また、11月29日に発表したSMBCグループとのソリューションの共同開発についてMS&ADHDは、それぞれが持つ専門性と多様なリソース、幅広いネットワークを活用し、企業の事業活動におけるネイチャーポジティブを実現し持続可能な成長を支援すべく同提携に至ったと説明。提携では自然資本分野で主に、①「ネイチャーポジティブコンソーシアム(仮称)」の設立②TNFDのパイロットプログラムへの共同参画③自然資本をテーマにした顧客向け勉強会の実施―の3点で協働する。
「ネイチャーポジティブコンソーシアム」は、ネイチャーポジティブ実現のためのソリューションを持つ企業や研究機関・研究者が集まり、自然資本に係る課題解決に向けた調査・研究を行うコンソーシアムを立ち上げるもので、科学的知見を活用すべく、現在、国立研究開発法人国立環境研究所の研究者とコンソーシアム設立に向けた論議を開始しているという。
「TNFDのパイロットプログラムへの共同参画」は、ネイチャーポジティブへの対応の第一歩として必要になる自然関連リスクの把握に関する知見獲得を目的に、自然資本に関する情報開示のケーススタディに共同で取り組むもので、具体的には、国連環境計画・金融イニシアチブ(UNEPFI)のTNFDパイロットプログラムに参画し、ケーススタディの対象となる地域で特定の事業活動による自然へのインパクト評価を行う。
「自然資本をテーマにした顧客向け勉強会」では、両社で顧客向けに自然に係る勉強会を開催し、自然関連リスクの把握、開示およびソリューションに関する顧客の理解促進や知見を深めることを目指す。