2022.04.06 令和2年3月19日福岡高判上告審 3月24日、最高裁が破棄自判、保険代位の範囲超える自賠責保険金の控除認めず
2020年(令和2年)3月19日の福岡高裁で、交通事故の被害者である被保険者に自動車保険人身傷害保険金を支払った保険会社が加害者の自賠責から損害賠償額を回収したとき、過失相殺がある場合、当該保険会社が自賠責から受領した全額が加害者の過失部分に対する弁済に当たるとする判断が示され原告が上告していたが、3月24日の最高裁第一小法廷で上告人の主張を認容、原判決を破棄し、「上告人の被上告人に対する損害賠償請求権の額から、訴外保険会社(編集部注:人傷社のこと)が本件支払金の支払により保険代位することができる範囲を超えて本件自賠金に相当する額を控除することはできない」とする判断が示された。福岡高裁の判断は従来の「不当利得容認説」による取り扱いと異なっていたため最高裁の判断が注目されていた。(損保料率機構・丸山一朗氏による解説を本日付4面に掲載)
事案の概要は、①上告人と被上告人間で、自動車事故が発生した(上告人の過失3割、被上告人の過失7割)②上告人は、夫が締結していた自動車保険(人身傷害保険)の保険会社(訴外保険会社)から保険金の支払を受けるに先立ち、訴外保険会社が自賠責保険を含めて保険金を一括して支払うことを承諾するなどした③上告人は、訴外保険会社から保険金として111万円余の支払い(本件支払金)を受けた④訴外保険会社は、上記支払後、被上告人運転の自動車について締結されていた自賠責保険から、上告人の傷害による損害賠償額として83万円余の支払いを受けた―というもの。
最高裁における争点は、訴外保険会社が本件支払金の支払後に自賠責保険から支払いを受けた上告人の傷害による損害賠償額全額(83万円余)について、上告人の被上告人に対する損害賠償請求権の額から控除することができるか否かだった。
原審は、本件支払金には自賠責保険の支払分が含まれ、上告人は訴外保険会社に対して自賠責保険からの支払いを受領する権限を委任したとして、上記83万円余を控除することができると判断した。これに対し、上告人は、本件支払金のうち、上告人の被上告人に対する損害賠償請求権の額から控除することができるのは、訴外保険会社が人身傷害保険金の支払いにより保険代位することができる範囲に限られるとして、上記判断は法令解釈を誤ったものであると主張していた。
3月24日の最高裁第一小法廷判決(安浪亮介裁判長裁判官)の主文は、「上告人の控訴に基づき第1審判決を次のとおり変更する。(1)被上告人は、上告人に対し、156万3978円及びうち140万7804円に対する平成30年5月31日から、うち14万円に対する平成29年4月25日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。(2)被上告人の附帯控訴を棄却する。」というもの。「理由」で「本件においては、上告人が訴外保険会社に対して自賠責保険による損害賠償額の支払の受領権限を委任したと解することはできず、訴外保険会社が上告人に対して本件支払金を支払ったことにより自賠責保険による損害賠償額の支払がされたことになると解することもできない。本件支払金は、その全額について、本件保険契約に基づく人身傷害保険金として支払われたものといえるから、訴外保険会社は、この支払により保険代位することができる範囲において、自賠責保険に対する請求権を含む上告人の債権を取得し、これにより上告人は被上告人に対する損害賠償請求権をその範囲で喪失したものと解すべきであり、その後に訴外保険会社が本件自賠金の支払を受けたことは、上告人の被上告人に対する損害賠償請求権の有無及び額に影響を及ぼすものではない。したがって、上告人の被上告人に対する損害賠償請求権の額から、訴外保険会社が本件支払金の支払により保険代位することができる範囲を超えて本件自賠金に相当する額を控除することはできないというべきである。」と判示した。
今回の判決について、上告人代理人の壹岐晋大弁護士(鴻和法律事務所)は、「裁判基準差額説を前提にしたこれまでの判例、実務を踏まえたもので、交通事故被害者にとって適切な解決に導く判断がされた」とするコメントを寄せている。