2022.02.02 金融庁 外貨建保険の共通KPIを公表、FD原則採択金融事業者に報告求める

金融庁は1月18日、投資信託と類似の機能を有する金融商品として比較推奨が行われている外貨建保険について、販売会社における比較可能な共通成果指標(KPI)として「運用評価別顧客比率」と「銘柄別コスト・リターン」の二つの指標を公表した。併せて、「外貨建保険の販売会社における比較可能な共通KPIを用いた分析」も公表。「運用評価別顧客比率」については「60%の顧客の運用評価率がプラスである一方、40%の顧客の運用評価率がマイナス」、「銘柄別コスト・リターン」については「全社の銘柄別にみると、むしろコストの上昇に伴いリターンは一定程度下落する傾向が見られた」とする分析結果を示した。今後、外貨建保険の販売会社はこれら2指標に関する自社の数値を公表することが求められる。

 金融庁は、国民の安定的な資産形成の実現に向け、「顧客本位の業務運営に関する原則」を策定、これまでに多くの金融事業者が本原則を採択の上、取組方針を策定・公表するとともに、取組方針と併せて顧客本位の業務運営を客観的に評価できるようにするためのKPIを公表している。他方で、自主的なKPIの内容はまちまちで、顧客がKPIを用いて金融事業者を選ぶことが容易でないことから、2018年6月に、投資信託について、長期的にリスクや手数料等に見合ったリターンがどの程度生じているかを「見える化」するために、比較可能な共通KPIと考えられる指標を公表している。
 今回、顧客本位の良質な金融商品・サービスを提供する金融事業者の選択にさらに資するとともに、顧客の各業態の枠を超えた商品の比較を容易にする観点から、投資信託と類似の機能を有する金融商品として比較推奨が行われている外貨建保険についても、投資信託の共通KPIと同様の基準で定義した「運用評価別顧客比率」と「銘柄別コスト・リターン」の二つの指標を公表したもの。
 「運用評価別顧客比率」は、基準日に外貨建保険を保有している各顧客について、「購入時以降のリターン」を算出し、全顧客を100%とした場合のリターン別の顧客分布を示したもの。「購入時以降のリターン(%)」は、「基準日の解約返戻金額+基準日の既支払金額-契約時点の一時払保険料(いずれも円換算)」を「契約時点の一時払保険料(円換算)」で除して算出する。
 また、「銘柄別コスト・リターン」は、外貨建保険の各銘柄について、「平均コスト」(各契約について、保険会社が支払う代理店手数料のうち、新契約手数料率と継続手数料率を年率換算)と「平均リターン」(各契約の購入時以降のリターンを年率換算)をプロットしたもの(最大20銘柄)。
 金融庁は、「顧客本位の業務運営に関する原則」を採択する金融事業者に対し、原則2~7に示されている内容ごとに、公表している取組方針等における記載内容との対応関係および投資信託の共通KPIの実績について報告を求め、金融事業者リストに掲載することとしており、今後、外貨建保険の共通KPIについても実績を公表している場合は、同様に報告を求める。
 なお、金融庁は、①保険は投資信託とは異なり保障機能を有するものの今回の指標には同機能が反映されていないため今回の指標のみをもって投資信託と単純に比較することは必ずしも適切ではないこと②外貨建保険の銘柄別コスト・リターンについては、投資信託の預り残高上位20銘柄のコスト・リターンと、定義とするコストの概念が異なることから投資信託とコスト同士で比較することは適切でないこと―に留意が必要としており、そのため、各事業者が外貨建保険の共通KPIを公表するに当たっては、この点も含めた保険商品としての特徴について、「外貨建保険は、保障と運用を兼ねており、満期や死亡の際には保険金が支払われます。解約時には解約返戻金が支払われますが、保険商品は長期保有を前提としており、特に、契約後の早い段階に解約した場合に受け取る解約返戻金は、一定額の解約控除等により、一時払保険料を下回る場合が多くあります」「解約返戻金は基準日時点の為替レートで円貨換算しており、満期まで保有した場合や、外貨で受け取る場合の評価とは異なります」と定性的に記載することとするとしている。
 同時に公表された「外貨建保険の販売会社における比較可能な共通KPIを用いた分析」では、「運用評価別顧客比率」については、「販売会社がどれくらいのリターンを個々の顧客に提供しているかについて、外貨建保険を保有している顧客の基準日時点の運用評価を算出した運用評価別顧客比率を見ると、主要行等9先・地域金融機関25先合算ベースで、60%の顧客の運用評価率がプラスである一方、40%の顧客の運用評価率がマイナス。一方、投資信託では直近の21年3月は株式市場の高騰等により84%がプラスとなっているが、20年3月は31%がプラスで69%がマイナス、19年3月は63%がプラスで37%がマイナスであった」「外貨建保険は主として外国債券で運用していることから、比較的ばらつきが少なく、運用評価率が10%以上から+10%未満の顧客の割合が69%と多数を占める。一方で、投資信託では▲30%未満や30%以上の顧客が相対的に多く存在する」などとしている。
 また、「銘柄別コスト・リターン」については、「各販売会社の外貨建保険のうち契約日から5年以上経過した外貨建保険について、コスト・リターンを検証したところ、各社の全銘柄加重平均値については、両者に明瞭な関係は認められない」「一方、全社の銘柄別にみると、むしろコストの上昇に伴いリターンは一定程度下落する傾向が見られた。外貨建保険においては、早期に解約するほど解約控除が大きくなる場合が多いため、契約期間が長いほど1年あたりリターンが高くなる傾向にある。加えて、契約期間が長いほど1年あたりの代理店手数料率は小さくなるため、コストも低くなる傾向がある。すなわち、契約期間の長短が上記関係に影響している要因と考えられる」などとしている。